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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 その先に見えるものは果たして
 
 
【1】
「・・・くッ・・・・・・くそおぉぉぉッ!!」
 
其処に這い蹲っていたのは長身の男。
地面を握り拳で叩き、ぼろぼろの身体を引きずるようにして起こしているのがルクラたちにもはっきりと見えた。
その周りに倒れている複数の兵士達は気だるげに仰向けになり、ぼんやりと男のヒステリックな叫び声を聞いている様だった。
 
「あ、あの……!?」
 
彼らがベルクレア8隊なのは間違いない。事前に少し収集した情報とぴったり当てはまる連中だから、それはすぐに確信できた。
しかしこれほどまでにボロボロな様子で出くわすとは想像もつかず、思わずルクラは彼らの傍に駆け寄り声を掛けたのだった。
既に何度も倒されているらしいとはいえ、その都度万全を期して相手も望んでくるだろうと思い込んでいただけに、その驚きは大きい。
がくがくと震える腕を何とか大地に突きつけて、身体を起こし続けている男はルクラの言葉に唸り声しか返さない。
 
「放っておきなさい」
「で、でもっ……!」
「いいじゃありませんの? 戦う手間が省けましたわ」
「そうね。悪いけど構ってる暇、無いよ」
「うんうん。この間に宝玉のところまで行っちゃおう」
「い……いいのかなぁ……?」
 
リズレッタに手を引かれ、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にしようとする。
もちろん他の仲間達もそれに倣い、倒れている兵士の傍を通り過ぎようとした。
 
「・・・・・・ま、待ちたまえキミ達・・・ッ!!」
 
しかしそれは寸でのところで、ようやく立ち上がり、そして立ちふさがった男によって中断せざるを得なくなる。
 
「……寝ていればいいものを」
 
苦しげな表情で立ちふさがる男を見て、リズレッタは露骨なまでに不快感を露にした。
 
「この私が・・・・・・そう易々とここを通すわけ・・・っ・・・無い、だろぉッ!!」
 
肩で息をし、無理矢理に大声を搾り出す男に鼓舞されたか、周りの兵士達も続々と起き上がる。
皆一様に、今にも倒れそうなほど顔色は悪い。
 
「ふむ……やはり駄目か」
「厄介ね……。手負いとはいえ数が多いわ」
 
既にスィンとエクトは武器を抜き放ち構えていた。
怒りと疲労によるものか、そんな行動を男は無視して怒りに満ちた声で喋り続けている。
 
「ベルクレア騎士団第8隊のサザンクロスともあろぅ・・・ものがッ!!・・・あのようなッ!・・・得体の知れないッ!!怪しい・・・ひょろ男にッ!!!・・・理由も無く斬りかかられッ!!!!代えの少ないこの衣装をボロボロにしッ!!!!!挙句の果てにこのタイミングで・・・・・こうして敵に出くわすッ!!!!!」
 
深く深呼吸をして、上を向く。
 
 「・・・ありえなぁぁぁいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」
 
男の声が遺跡内に木霊した。
続いて聞こえる兵士達のため息。
 
「まぁ、これは無ぇよなぁ・・・」
「隠し通路は安全だ、って隊長がよぉ・・・」
「宝玉をここに隠して守っとけばいいって、なぁ。」
「通路壊されて・・・一番楽そうなポジションが何でこんな目に・・・」
「わけも無く・・・・・・あぁでも確かあの男、言ってたよなぁ。」
「宝玉はもっと深部に持ち運んでもらわないといけませんねぇ・・・ククッ!」
「それだそれだ!お前うまいなぁ口真似っ!!」
「……怪しいひょろ男……?」
 
怒りに燃える男に、好き勝手喋る兵士の言葉に、ルクラは違和感を覚えた。
 
――冒険者の人たちに負けたんじゃ、ないの……?
 
彼等は自分達より先に訪れた冒険者に完膚なきまでに叩きのめされたわけではないらしい。話を聞くに、彼らを此処まで追い込んだのはたった一人の人物で。
 
――……やっぱり変……。もう何人も突破してるはず。
 
それなのに彼等はまだ『誰も通さぬよう』宝玉を守っている様子だ。
明らかに事前の情報と今の状況は、矛盾していた。
違和感に眉をしかめ、口を開こうとしたその時。
 
「シャラァァップッ!!!」
 
男の一喝で場が静まった。
そして数秒後、男は豪快に吐血しつつも、ルクラ達をぎらつく血走った瞳で睨み付けた。
 
「・・・キミ達に、宝玉を渡すわけには・・・・・・いかないぃぃッ!!」
「……!」
 
杖を浮遊させ、この場にいる敵全員を射程距離に収める。
リズレッタも氷のナイフを両の手に持ち、満身創痍の彼らを見て舌なめずりをしていた。
最後までその違和感の正体を突き詰めることはできなかったが、恐らく彼らを叩きのめして続けようとしても無理だろうとルクラは確信している。
 
「威勢だけはいいけれど……ふふふ……」
「『もう一度』。貴方達を倒します!」
 
――この島は、この人たちは……わたし達は……!
 
何故なら。
 
「覚悟しなさい! ベルクレア第8隊っ!!!」
 
自分達はその『違和感』に、この島に訪れた瞬間からずっと捕えられているからだ。
その先に見える、いや、『見させられている』光景を望み、ルクラは力を杖に込めだした。

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