六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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むかしばなし・1
【1】
「おばあさん? それなんですか?」
「これですか? アルバムですよ。……懐かしくなってしまって、つい出してしまったんです」
「へぇ……? わぁ、すっごい古い写真ですね!」
「もう100年以上も前になりますからねぇ……」
「ひゃくっ……!? お、おばあさんそんなに歳を……あ、い、いえ!」
「ふふ……いいんですよ。今年で125歳です。でも、私の生まれを考えると、余り珍しくはない年齢ですね」
「そうなんですか……?」
「えぇ。……そうだ、ルクラちゃん。お暇でしたら、この前言ってくれたように……。私のお話を、聞いてもらえますか?」
「えっ!? 勿論喜んで!」
「ありがとう……。それじゃあ……」
「むかしばなしを、始めましょうか」
【2】
「わたしが生まれたのは……由緒正しい、と言うのでしょうか。とにかく、とても大昔から続く誇りある血筋の家でした」
一番最初のページにある写真を老婆が指差せば、そこには幸せの表情に満ちた男女の姿がある。
女性の腕の中には、布に包まれた小さな小さな赤ん坊が、すやすやと眠っていた。
「初めて生まれた子供で……両親はそれはとても、喜んだでしょうね……。この写真を見ても、それが判ります。本当に幸せそう」
「うん……二人とも笑ってて、すごく幸せな感じです」
写真を追っていけば、赤ん坊の成長が良くわかる。
母親の膝の上で指を咥えながら座っている写真。
まんまるとしていた顔が少しスマートになり、母親の膝の上で明るい笑みを浮かべて写っている写真。
正装に身を包み、膝の上から離れて新しく用意された椅子の上に行儀良く座り、少し緊張した様子で写っている写真。
老婆が言うには、それぞれ一年ごとに撮った物だろう、ということだった。
「可愛いなぁ……あれ?」
しかしその写真もそこで終わり、次にあったのは父親と一緒に移っている写真ばかりで。
「おばあさんのお母さんの写真、あれだけなんですか?」
「えぇ……」
老婆は苦笑する。
「私が三つの頃に亡くなってしまったんです」
「え……」
「身体が弱かったと聞いています。……流行病にかかってしまって、それがいけなかったんだと、父から聞かされたのをうっすら覚えていますよ」
「………………」
「嵐の夜に、母の手をぎゅっとにぎって、ずぅっと傍に居たものよ。いつの間にか私は眠って、起きたときにはもう母は冷たくなってしまっていたわ」
“でも”、と続けて。
「その時の私は、『死』を理解するには幼すぎた。……母が居なくなって、父と二人きりで暮らすようになったのを、ただただ緩やかに受け入れていましたねぇ……」
「おばあさん……」
「あら……ごめんなさい。こういう湿っぽいのは、いけませんねぇ」
ページを捲れば、今度は父親の姿もなく、全く別の夫婦と一緒に移っている若かりし頃の老婆の姿の写真が並んでいる。
「これは違うのよ」
そう前置いて、不安げな表情のルクラに笑いかけて。
「母が亡くなってしまって、一人で私を育てないといけなくなってしまった父だけれど……その時はまだ、そんな余裕は無かったの。だから、祖父母に私を預けたんです」
「じゃあこの人たちは……」
「そう。私のお爺さんとお婆さんですよ。……そういうには若すぎる外見だって、言いたそうですね?」
「ううん……なんとなく、判りました。長寿な種族なんですね」
写真に写る人は皆耳が尖っていた。
それはルクラもよく知る種族で、彼らは長寿で知られるのだ。
「私も昔は、尖っていたんですよ。今はすっかり萎縮してしまったけれど……」
「私も昔は、尖っていたんですよ。今はすっかり萎縮してしまったけれど……」
老婆はゆっくりと頷いて、指を進める。
「11年、祖父母に預けられて育ったけれど……。どちらかといえば、辛い思い出の方が多かったかもしれませんね」
「それは、どうしてですか?」
「……とても厳しかったのですよ。良い意味で、なのですけれどねぇ……」
またもや苦笑。
後にも先にもあれ以上のことは無かったとでも言いたげなそれに、ルクラも釣られて苦笑する。
「祖母はとても優しかったのだけれど、祖父がとても厳しくて。幼い私をこの血筋を持つだけの人物にしようと熱心だったそうです。勉強は勿論……ありとあらゆる習い事、体が弱かった母のことを思ってか、運動も沢山。……あれだけ大変な時間を過ごしたのはあの時位、そう思うぐらいに、とても大変な……」
「わたしだったら……くじけちゃいそう」
「ふふ……私だってそうですよ。最初はくじけそうでした。遊ぶ時間なんてありませんでしたし、運動で痛い思いばかりするのですもの。帰り道に何度泣きそうになったか……」
くすくすと老婆は笑った。
「でも……ある目標ができてから、そんな辛い日々も頑張ってこなせるようになったんですよ」
「目標、ですか?」
「えぇ。……いつかまた父と再会したときに、立派な姿を見せてあげよう、と。母が『死んだ』ことを理解できたのは6つの頃。そのとき……少しだけ泣いて。それから思ったんです。悲しいのは父も同じ。せめて私が、立派な姿を見せて、父を慰めてあげたいと……」
写真を目で追って、老婆が先ほど語った辛い日々があったことなど感じさせない、気品を感じさせる若かりし頃の彼女の姿。
その佇まいに思わずルクラは息を呑んだ。
「あ……」
そして再び、彼女が父親と一緒に写っている写真を見つける。
アルバムで言えばたった数ページ。
しかし流れた年月は――。
「父と再び暮らすようになったのは、14歳の時です。……父はとても喜んでくれました。母もきっと喜んでくれている、『お前は私の誇りだよ』と、目に涙まで浮かべて」
自信に満ちた笑みの父親の傍に寄り添う、清楚という表現で言い表すほかに無い彼女の姿。
14年。それは奇しくもルクラの今まで辿った年月と同じだった。
「……よかった、ですね……」
「えぇ……。とても辛かったけれど、祖父には感謝しています。それを支えてくれた祖母にも。……けれど」
「けれど……?」
若い頃は苦い思い出が多いのだろうか。
何度も老婆は、照れくさそうにばつが悪そうに笑っている。
「少し、私も硬くなりすぎた……というのでしょうかねぇ……。それに、父とも10年以上離れていた所為で……。その、お互いぎこちない関係になってしまったんです」
「そ、そうだったんですか?」
「えぇ。家の誇り、父のために。……それに少し振り回されすぎていたのでしょうね。父と娘と言うよりは、主人と従者のような……勿論、どちらも望まなかったのですが、気づけばそうなっているような……そんな関係になってしまっていたのよ……」
「それは……あんまり、良くないですね」
ぱたりと老婆はアルバムを閉じて、別のアルバムを開く。
「あ……」
そこにある写真には、すっかり大人になった彼女が、歳の近い少女達と共に楽しそうに笑っている姿が写っていた。
「そんな関係を正してくれたのは……『親友達』でした」
老婆は懐かしむように写真を指でなでて、微笑を浮かべていた。
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