六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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双魔相見えて
【1】
リロル=エミネム。
ルクラはこの少女について委細を知ることは無く、従って語ることも多くは無い。
ほんの偶然で出会い、そして“友人”となった一人。
自分より幼い外見だというのに遥かに大人びていて、美しい歌を歌う。ルクラが見て、知っているのはそれぐらいだった。
いつぞやは彼女の愛用する超厚底のブーツで身長を伸ばそうと企み、見事に額に大きなたんこぶを作ったことなどもあるが、彼女との関わりといえば本当にそれぐらい、僅かな物だった。
「待ち合わせ……って……。なんか、ちょっと怖い場所ですね……」
そんな彼女からの突然の呼び出し。
彼女の従者らしい羊のような巻き角を持った女性が届けてくれた手紙には場所と時間、そして少しだけの追伸と、丁寧に包装するほうに時間を使ったのではないかと思うぐらい簡素な内容が記されていた。
貴女の大切な友人も必ずご一緒に――
リロルにリズレッタのことを話した覚えはないが、どうやら向こうは知っていたらしい。
それとももしかすると、リズレッタはどこかでリロルに出会っていたのかもしれない。
しかしそれについての追求をリズレッタにすることは、ルクラにはできなかった。
「………………」
自分の後ろをついて来るリズレッタの表情は乏しく、ともすれば不貞腐れているようにも見えた。
それも無理は無い、とルクラは思う。
ちらりと後ろを見やり彼女の頬と、そこを張った自分の右手の掌を眺めるが、もうどちらにも赤みは残ってはいなかった。
【2】
「え……どうしてですか!?」
「だから、いいのですわ。探さなくとも……」
「だって、折角もう少しで妹さんに会えるかもしれないのに……!」
「いいの。……探さなくて、いいのですわ」
遺跡の外に居る間の時間を使って、早速リズレッタの妹を探しに行こうとルクラが決めるのは至極当然なことで、彼女はリズレッタがそれを承諾してくれるものと信じきっていた。
だが帰ってきた返事は、とても冷ややかで。
「なんで!? 理由を教えてください!」
「……会いたくないのよ」
「どうして!」
「いいでしょうどうだって。貴女には関係ありませんわ」
「ありますよ! 妹のことずぅっと……リズレッタ、考えてたんでしょう!? わたしと初めて会った時から、ずっと! それなのにどうして……!」
「だから……ただ会いたくない。それだけ。理由なんてほかにありませんわ。……何故そんなに貴女がこだわるの?」
「お嬢さん……」
「……そんな理由だったら、聞きませんよ!」
「何ですって?」
「リズレッタが来ないならいいです。わたし一人で探します!」
「……貴女が出る幕ではないでしょう!? 余計なことをしないで下さる!?」
「だったらわたしにも納得行く理由を教えてくださいよ! なんでいきなり『会いたくない』なんて言い出すんですか!」
「まぁ、まぁ……二人とも、少し落ち着いて下さ――」
「五月蝿い!」
「……!」
「関係ないと……言っているでしょう! 聞き分けなさいこの莫迦娘! もうそんなこと、わたくしにはどうでも――」
気がつけば、手が出ていた。
「――っ……!?」
「まぁ……! ルクラちゃん!」
老婆の驚いた、そして何とか制止しようとする声も振り切って、両の拳を握り締めて、興奮で顔を真っ赤にして、半ば叫ぶようにして声を張り上げる。
「なにが……なにが『どうでもいい』よリズレッタの馬鹿!!! 自分の妹なんでしょ!? 妹のことを『どうでもいい』なんて言うなっ!!!」
【3】
喧嘩の真っ最中に手紙が届けられたのだ。
謝る暇も、そんな気持ちにもならなかったし、半ば怒りに任せて呼び出しに応じたようなものだった。
しかし肌寒い、寂しい風景を望み行けばその気持ちもだんだんと冷めて。
今やただただ気まずい気分だけが残っている。
「こんにちはー……。ルクラさん……ですよね?」
「あっ」
そんな気分を吹き飛ばしてくれたのは、最近よく知るようになった声だった。
振り向けばそこには以前宿で出会ったクロの姿。
そしてすぐ横には、彼に手を引かれたリロルの姿もあった。
「お待たせして申し訳ありません。何分不調が多いものでして……お久し振りね、ミス・ルクラ?」
「……! こ、こんにちは!」
だが今此処で、一番彼女の気を引いたのは彼ら二人ではない。
クロの頭の上に見えた影、それは。
はやる気持ちを抑えつつ、改めてリロルを見た。
「……? リロルちゃん、なんだか雰囲気変わりましたね……?」
しゃんとした姿は少し遠く、クロに手を引かれる彼女は些か弱弱しく見えた。
それに、髪の色もルクラの記憶のものとは全く違う真っ黒な物へと変わっている。
「私が魔族だと言う事はお話したかしら? マナの影響で色々と……ね。髪の色も変わってしまったし」
“貴女はお変わりなくて?”と小首を傾げるリロル。
「聞いたような聞いてないような……」
首を傾げるが、“マナの影響”と聞いて事情は察して。
彼女の仕草には軽く頷いて返答とする。無事を伝えるには、恐らく最も簡単で判りやすいだろう。
ちらちらと視線をクロの頭の上に動かす。
「~~~~ッ、このおばかッ……いきなり耳を垂らす奴が――」
なにやら騒いでいる、少し大きな人形サイズの少女はリズレッタにそっくりだった。
初めてルクラは、リズレッタの探す妹は彼女と双子という関係だったことに気づく。
「……まだ喋らないのね、そこの貴女。ワタクシの“プレゼント”はお気に召さなくて?」
リズレッタに向けられたリロルの言葉。
しかし彼女は口を開かない。
妹の姿を見ても顔色一つ変えず、ただ冷ややかに眺めている。
それを見て、ルクラはとてつもない違和感と、不安を抱いた。
何かはわからない。ただひたすらに大きなそれらを感じ、身動きすることも叶わない。
視線だけを動かしてクロの頭の上に居る少女を見るが、彼女も喜びとは程遠い表情で自分たちを見つめている。
「折角見えない目をおしてまでこの場を用意しましたのに」
肩を竦めて、ため息をつくリロル。
彼女だけがこの雰囲気を異様とは感じていないのが判る。
「ようやくの姉妹の再会でしょう?もう少し喜んだら如何」
にっこりと浮かべた笑みは、ルクラには――恐らくリズレッタにも――ひどく意地悪なものに見えていた。
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