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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 信じる事こそが……
 
 
【1】
赤色、水色、紫色、緑色、黄色。
鞄の中からベッドの上へ放り出された五つの宝玉。
朝日を受けて輝くそれらは、どこか怪しげな雰囲気を持っていた。
それをじっと寝巻き姿のまま眺めるルクラの瞳は、だんだんとその輝きに魅入られたように自分の光を失って、宝玉の光に乗っ取られる。
 
「・・・・・・過去を操れるんだってよッ」
 
 
あの時、あの場所で聞いたときはなんとも魅力に感じなかったはずのそれに、今は大きく心が揺さぶられる。
 
「あと……二つ……」
 
七つの宝玉のうち、五つが一度に自分の手元へ。
頑張って手を伸ばせば届くところにまで、来た。
そんな気がして、宝玉から、そしてそれを全て手に入れた自分の未来予想図が離れない。
全て揃えた暁には、自分は過去を操って故郷へ帰る術を作る。
 
「………………」
 
そっと宝玉に――彼女には今、七つに見えているそれに――手を伸ばす。
 
「おはよう」
 
しかしそう声を掛けられて、意識は引き戻された。
七つあった筈の宝玉は五つに減った。
 
「……何をしているの?」
「えっ……の、ノックぐらいしてくださいリズレッタ」
「しましたわ。三度ほど繰り返して」
「う、うそ?」
 
上ずった声で受け答えをするルクラに、ベッドの上に置かれた宝玉五つを見て、リズレッタは呆れたようなため息をついた。
 
「興味なんてなかったんじゃありませんの?」
「それは……」
 
自分の心の内を垣間見られたような気がして、ルクラは思わず視線を逸らした。
 
「……今も、ないです」
 
辛うじて返した言葉は、嘘であることが誰にだって明らかなぐらい不自然で。
 
「ふぅん……」
 
リズレッタの方も、判っていても追求をするような相手ではないのがある意味救いではあった。
 
「じゃあさっさとそれを適当な場所に仕舞って、着替えて、降りてきなさい。今日からハロウィンパーティとやらを庭でするのでしょう? 朝から準備だと聞いていたけれど」
 
全くそれには触れずに、彼女は用件だけを伝えるとさっさと部屋を出て行ったのだ。
ぱたんと閉められた扉をしばらくぼんやり眺めていたルクラだったが、やがて彼女に言われたとおりのことをのろのろと始めだした。
 
【2】
「さぁ、皆さん。お待たせしました……。ハロウィンパーティを始めますね。悪戯なんてしなくてもお菓子もお料理もたくさんありますから……どうか心行くまで楽しんでいってください」
 
老婆のそんな言葉に、庭に訪れた冒険者達は思い思いの返事を返した。
それから何人かの手伝いを申し出てくれた冒険者達が運んでくれる大皿料理を見て、大きな歓声を上げる。
 
「まずはカボチャのグラタンとカボチャのスープ……それとカボチャの煮物を。グラタンは本当はカボチャをそのまま器にしたかったのですけれど……人数が多いですから、大皿に纏めて作らせていただきましたわ。……さ、みなさんどうぞ、遠慮なさらず召し上がってくださいね」
 
日が落ち空が暗み始めだした頃、宿『流れ星』の庭ではハロウィンパーティが始まっていた。
仮装をしたり、ハロウィンにちなんだ飾り付けを施したりと、いつもとは少し違った雰囲気で、今日も冒険者達はこの庭で楽しみ、ゆっくりと疲れた身体を癒している。
 
「さて……」
 
老婆も冒険者達と会話を楽しんだりもするが、色々とこまごました仕事を片付けるために動き回る時間の方が多い。
庭の裏手から野菜を収穫したり、宿の中で新たに料理を作ったり。
もちろん好きでやっていることだから苦である筈もなく、いつもより元気なぐらい体が動く、と老婆は一人笑ったりした。
手伝いを申し出てくれる客人も多く、一緒に作業をするのもまた楽しくて。
庭へ訪れた客人もだが、この宿に泊まっているあの少女達も楽しんでくれているだろうか、と、老婆はふと仕事の手を止めて庭の様子を伺ってみる。
隅の方のテーブルに座っているのはリズレッタだ。そしてその横にはウイユが座り、静かにお茶を飲みながら自分達だけの優雅な空間を作ってお喋りに興じていた。
元々賑やか過ぎるのはあまり好まない彼女だから、あの場所を陣取るのは当然と言える。
彼女をこの宿に迎え入れた時のことをふと思い出して、最早その記憶に残る彼女の面影は殆ど残っていないことに自然と笑みが浮かんだ。
人ですらない存在であることは、一目見たときからなんとなく気づいていた。内に秘めるその凶暴性も見逃しはしなかった。
どうなることかとずっと心配で恐れていたが、もうそんな感情は必要ないのだと改めて理解して、心の底から安堵で満たされる。
それも全ては、彼女を宿に運び込んだ小さな小さな最初のお客様である、あの少女のお陰だ。
 
「あら……?」
 
ところがどうしたことか、その少女の姿は庭の何処にも見当たらない。
何度見渡してもあの艶やかな銀色の髪に真っ黒なローブという出で立ちは見つからなかった。
食いしん坊なあの少女のことだから、きっとどこかで沢山の友人と料理に舌鼓を打っているに違いない、という老婆の予想は外れてしまったらしい。
薪割りをしている様子もなく、いつの間にか忽然と姿を消している。
 
「……おかしいわねぇ……?」
 
それでは、どこに?
この庭から離れる理由は、今彼女には無いはずだと老婆は首を傾げる。
仕事の手を止めて、パーティを楽しむ客人たちの下へ足早に駆け寄った。
 
「すみません、ルクラちゃんの姿が見当たらないのですけれど……ご存知ありませんか?」
「ルクラちゃん、ですか? 確か……ちょっと自分の部屋に物を取りに行って来ます、って言ってましたよ」
「……ん。それにしても、随分遅い」
「そうでしたか……ありがとうございます。……自分の部屋……」
 
二階の窓を見上げれば、彼女がいるであろう部屋の窓は閉まったままでカーテンも引かれている。
老婆の中で、何か胸騒ぎがした。
焦りを悟られないように、客人たちと少しの間他愛も無い会話を交わして、さりげなく宿の中へと戻る。
そして一目散に、二階へと足を運んだ。
真っ直ぐの廊下に三つ並んだ扉、その真ん中が彼女の部屋。
目の前に来て、ノックをしようと右の手を上げたその時だった。
 
「――――――」
 
中から微かに、すすり泣く様な声が聞こえた。
老婆は戸惑い、上げた右手をゆっくりと元に戻す。
だがそれも少しの間で、意を決したようにもう一度右手を上げて、そしてゆっくりと扉を叩いた。
トントントン、と控えめな音が廊下に響く。
 
「……ルクラちゃん? ……入っていいかしら?」
 
返事は無い。
ただ、どうやら扉に鍵は掛かっていないらしい。
老婆は心の中で謝りつつも、ドアノブに手をかけてゆっくりと開いた。
ランプもつけていないその部屋は、窓からの光も遮っている所為で真っ暗だった。
うっすら見えるシルエットからすると、どうやら彼女はベッドの中で毛布に包まっているらしい。
手探りでランプを探し当て、そして火をつけると、芋虫のように丸まっている姿がはっきり映し出された。
ベッドの端に腰掛けて静かに毛布を捲ると、ぎゅっと目を瞑って、身体を強張らせるルクラの姿がそこにあった。
ついさっきまで明るく振舞っていたとは思えないその姿に、老婆は表情を暗ませる。
何が彼女をこんなにまで悲しませているのか、見当がつかなかったのだ。
 
「……何か、あったのですか……?」
 
そう質問してみても彼女は薄目を開いて、悲しげな表情のままで喋らない。
だから老婆は、そんな彼女の頭をゆっくり静かに、撫で始めたのだった。
 
【3】
「……ごめんなさい……」
 
そうルクラが呟いたのは、老婆が彼女を撫で始めて幾らかの時間を経てからだった。
 
「……ごめん、なさい……」
「……辛い事でも……?」
「そうじゃないんです……ただ……。寂しくて……」
 
――寂しい。
その言葉を聞いて老婆は全てを悟った。
そして何故気づけなかったのかを、悔やんだ。
 
「……手がかりは、全然……?」
「……はい……」
 
彼女がこの島に来た理由、そして遺跡を探索し続ける理由。
それは唯一つ、“故郷に帰るため”だった。
しかしそれはまだただの一歩も進展がないことを、ルクラの涙声が痛々しいまでに表している。
 
「……困ったわねぇ……」
 
気づけば、一年が経過しようとしていた。
まだまだ家族に甘えたいであろう彼女が一年も、家族と会えない日々を過ごす。
その苦しみは老婆にも想像がつかなかった。
 
「宝玉は全部揃えると、過去を操れる……。そう、ベルクレアの人達は言ってました」
 
再び彼女は呟く。
 
「過去を操って……、此処に来たことを『無かったこと』にすれば」
「それは……!」
 
彼女の言う方法、それが何を意味するかは老婆もすぐに気づいた。
しかし咎める事などできるはずもなかった。それが後に彼女に暗い影を落すことが判っていても。
 
「判ってるんです……そんなこと、絶対にダメだって。それが何を意味するのか……わたしだって判ります。でも……! 寂しくて、気が付けばそればっかり考えてて……!」
 
気が付けば抱きしめていた。痛いほど強く、強く。
 
「『信じることが力になる』」
「……!」
「貴女が私に教えてくれた、言葉です」
「おかあ、さんの……口癖……」
「ルクラちゃん。とても辛いのは、よくわかります……。そしてそれをどうにもできない私を、許してください。でも……決して諦めてはいけません。希望を全部捨てては……歩けなくなってしまう」
「貴女は無力ではありません。……いろんなことを、貴女は貴女自身の手で成し遂げてきたんです。気づいてないかもしれないけれど……それは本当に沢山のことを」
「自分を……信じて下さい。きっと、大丈夫です。貴女なら……」
「……おばあさん……ありがとう……」
 
本当にありふれた月並みの言葉ばかり。
しかしそれにお礼を述べる彼女の健気さに、老婆は胸が張り裂けそうな思いだった。
 
「そうですよね……信じなきゃ……。まだ、帰れないって決まってないもん……!」
 
ぐっ、とルクラは手に力を込めて老婆の抱擁を解くと、涙を乱暴に拭う。
 
「お庭に……戻ります。ご飯一杯食べて、一杯お話して……一杯元気になって……一杯……頑張る……!」
 
決意を固めて空元気でも無理矢理に動こうとするルクラの姿を見て、こうまでして彼女を突き動かす自分の残酷さと、彼女が取ろうとした行為の残酷さは、どちらがより上なのか。
答えは出せそうも無かった。

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