六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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白翼の児竜と霧氷の女帝
【1】
凄まじいスピードで真正面からぶつかり合ったのは、リズレッタとスィンだった。
氷で作られた堅牢な双剣と鋼の長剣が互いの刀身を叩き折らんばかりに激しく音を立てる。
リズレッタの後方からは彼女の後を追うように、氷と死の世界が広がりだしていた。
ニブルヘイム。いまや完全に力を取り戻してしまったこの女帝の云わば縄張りのような世界が着実に相手を不利に追い込もうとする。
更に剣を持つ手に力を込めつつも、スィンにはリズレッタの背中越しに見えるルクラが、翼をはためかせこちらを見据えているのをしっかりと眼に映し出す。
彼女の眼が琥珀色となり、人のそれではない威圧感を一瞬発したのを確認し、予想通りの出方だと顔をしかめた。
慧眼。物事の本質を見抜くとされるその竜の瞳は、こと戦闘に関しては先読みという能力に本領を発揮する。
自分達の勝利を見据えているのか、それは自信の輝きに満ち溢れていた。
此処までは僅か、数秒。
剣を押し付け合い睨み合っていた両者が瞬時に飛び退く。次の瞬間にはエクトの放った大火球がその場を焼き尽くしていた。
「流石」
「ふむ……。そっちも、か?」
「云いますわね」
大火球のお返しとばかりに、氷の矢が嵐のように飛来する。
見ればニブルヘイムには、リズレッタを援護するかのように氷の騎士が弓を番えて狙い定めていた。
「貴方達ですもの、遠慮はしませんわ。数で押しつぶす事も厭わない」
「それは、どうも――」
素早く剣の腹で矢を受け止め、破片を払いのけるが早いか一気に距離を詰めたスィンが、リズレッタの身体を串刺しにせんと腕を突き出した。
「光栄だな」
「えぇ、光栄に思うことね」
剣はリズレッタの腹を貫いた。
しかし、手ごたえがまるで無い。
彼女は霧散し消えていた。
背に感じた殺気に、スィンはあえて使わなかった左手で素早く自身のもう一つの獲物である短剣を鞘から引き抜き、振り向きざまに彼女の攻撃を捌く。
「此処まで共に来たのだもの。……簡単に潰れないようになさい?」
「ふむ……善処しよう、と言いたいが。そちらこそ油断で足を掬われない様にな」
矢は途切れることなく降り注ぐ。
リズレッタに当たってしまうような物もあるが、彼女は涼しい顔でその矢を一瞬で取り込み治癒力にしているようだった。
「……それは無いんじゃないか?」
「あら、わたくしの立派な能力ですわ」
二人は一歩も引かない斬撃の応酬を続けていく。
【2】
「あの戦いに横槍は入れるだけ無駄ね」
あの朴念仁の足手纏いになるだけだ、そう判断したエクトは彼らの戦いを尻目に、一目散にルクラの元へ駆け出す。
ルクラも同じ考えだったのだろう。初めからエクトを狙っていたらしく、迫り来る彼女にも落ち着いたものだ。
「いい勝負をしましょう」
「えぇ! お互い悔いの無いように!」
レイピアを抜き放ち、切っ先をルクラに突きつければ、既にいつでも発射できる状態だった火球が六つ彼女へと飛来する。
それはあっさりと地面から出現した氷壁に遮られるが、エクトにとってはその方が都合がいい。
隙を作る事が狙いなのだから。
「魔法じゃルーちゃんには勝てそうも無いわ、だから――」
「えっ」
懐に飛び込み、レイピアを鞘に収めて。
「こうやって無力化してみようかしら!」
「ちょっ!? な、なにするんですかエーちゃーん!!!???」
そのローブを引っぺがしに掛かろうと掴みかかった。
「こんな寒い季節でもローブ一枚? だめよルーちゃん、破廉恥。とにかく破廉恥極まりないわ。ここで恥辱のきわみを与えて猛反省させてあげる」
「ちょ、ちょっと止めてくださいよー!? 真面目にしてくださいっ!」
「何を言うのルーちゃん、私は大真面目よ。ちょっと大真面目にふざけているだけ。……あら。青と白のストライプ」
「何言ってるんですか白ですよ!!! ……はっ!?」
「うふふふふふ」
「もうっ!」
ルクラの周囲に、敵を弾き飛ばさんと氷の柱が突き出す。
突き上げられる寸前に、ぱっとローブを離してエクトは軽くステップを踏み回避した。
「じゃ、ここから大真面目に戦いましょうか」
すらりとレイピアを抜き放ち、構えるエクト。
「……あら?」
しかし、その先にいる筈のルクラがいない。
「エーちゃん」
「ッ!」
声がしたのは真後ろ。
とっさに前転で飛び込むと、自分が先ほどまで立っていた場所に大きな氷の塊が飛来していたのが逆さになって見えた。
「魔法じゃわたしに勝てない。そのとおりです負けてやるつもりはありません。じゃあ近接戦闘を、って考えましたね?」
淡々と語る氷の塊を飛来させた主。
「残念だけど……。こっちでも負けてやるつもりないですからねっ!!!」
先ほどのローブ攻撃でどうやら怒ったらしい。
「ただの魔術士だなんて」
手に持った杖を空に投げ捨てたかと思えば、彼女は素手で魔術の展開を開始した。
「思わないで下さいっ!!!」
「ちょ、ちょっとルーちゃん」
前方から放たれる火球に眼を奪われたが、エクトは次の瞬間大きく横っ飛びして大げさなまでにそれを避けた。
先ほど杖を放り投げた理由を、その身で感じ取ったからだ。
「……ふざけない方がよかったかしら」
さっきまで立っていた場所の地面が大きな爪で引っかかれたように抉れている。
風の刃がそこを傷つけた証拠で、そしてそれを放ったのは、宙に浮き自分を完全に捕捉してしまっているルクラの杖、アスピディスケだった。
「でも、そうこなくちゃ。お互い本気が面白い」
そうでなければこの練習試合の価値が損なわれる。
エクトは不敵な笑みを浮かべて、再びルクラ目掛けて駆け出した。
「来なさい!」
ルクラの手から火球が放たれ、同時に風が空を裂き、かと思えば地面から岩槍が突き出し、雷撃がそれらを破壊する。
杖から放たれた水流が地面を抉り、神聖なる光が降り注ぎエクトを倒そうと襲い掛かる。
しかしエクトは、それらを華麗なステップで避け、魔術展開の合間を狙い一気にルクラに肉薄した。
今度こそ、その手に持ったレイピアを彼女目掛けて突き出す。
「……ッ!」
届かない。
いや、何かの力で阻まれた。
そう認識した瞬間、その何かはエクトの身体を思い切り吹き飛ばす。
「クッ!」
風の盾。
今まで風系統の術を使い続けたルクラならではの芸当である。
「……まさか、私のレイピアを止めるなんてね。ルーちゃん正確すぎるわ」
途中で体勢を立て直し、すぐさま構えなおしたエクトは感心したように呟く。
無論エクトもルクラの前に何らかの防御手段があるとは予想していたが、それを貫き通す自信があった。
その防衛手段の先にある、彼女の身体全体をあらゆるダメージから身を守る盾を破壊するつもりで、今まで培ってきた技術と経験から繰り出された一分の無駄も無い突きで破壊しようとしたのだ。
しかし彼女は、それを跳ね除けた。
針の穴を通すような正確さで繰り出した突きを完全に読みきり、その一点のみに風の盾を集中させていたのだ。
慧眼を発動させた彼女の力量を、見誤っていたと云わざるを得ない。
「あの頃と比べると見違えたわ」
「エーちゃんだって」
魔術の展開を続けながらも、ルクラはエクトの言葉に返す。
初めてこの遺跡に足を踏み入れた時の、自分達の姿が今、二人の脳裏に蘇る。
「ルーちゃんは、ちょっと大人になったわね。ステキよ」
「エーちゃんも、ずっとずっと素敵になったと思います。判断力があって、強くて……。スー君だって、本当に頼り甲斐があって。……立派なお姫様と、騎士様です」
「ありがとう」
静かに睨み合いは続く。
「あの朴念仁もなんだかんだで、変わったわ。良いことね。リズレッタちゃんも、この旅楽しんでくれてるかしら?」
「大丈夫ですよ。みんな……とっても楽しくて、素敵な旅だって思ってます」
「メーちゃ……じゃないわ。今はローちゃんか。……覚えてる? 私たちが初めて遺跡に入った時の事」
「勿論、覚えてるよ。忘れられない。……とっても素敵な、夢だった」
じっと試合を見守るロニアが、エクトの問いにそう答えて柔らかな笑みを浮かべた。
「みんなハッピー。なによりね」
「うん。……そうですね」
彼女の笑みに釣られて、二人も笑う。
そして、エクトが地を蹴り、再びルクラへと肉薄する――。
【3】
「姫様ッ!」
エクトの華奢な身体が地面より突き出された氷の柱に吹っ飛ばされた光景は、スィン達にも良く見えた。
「余所見の暇があるのかしら? 首を落としますわよ」
その言葉通り首筋を狙った冷酷な一撃を長剣で受け止めたスィンだが、リズレッタはにたりと笑みを浮かべ。
「ッ!?」
一瞬の早業で長剣を空高く打ち上げ、続いて短剣も地面へと叩き落す。
そして再び首筋に突きつけられた氷の双剣。限界まで引き絞られ狙い定められた氷の騎士の弓矢。
打ち上げられた長剣が、少し離れた地面にざくりと突き刺さった。
スィンは静かに両の腕を上げ――。
「……見事だ。こちらは降参だ」
決着は、付いた。
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