六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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故郷への道、突然に
【1】
ぼうっと突堤の淵に座り込み、海を眺める。
響く音は、波の音と海鳥の声だけで、人気もなく静かなものだった。
ぶらぶらと垂れ下げた足を動かしながら、ルクラは遠く見える船出を見送っていた。
その船が何処に行くかなどは知らない。ただ、故郷での光景をそれに当て嵌め、想起していた。
静かに目を閉じて、音だけに神経を集中させる。
そうすると不思議な事に、故郷の音までもが蘇る。
積荷を運ぶ水夫達の威勢の良い声、船が海面を切り裂き進む音、大通りにまで続く露店が扱い品は、みな此処で降ろされた品物ばかりだ。
水夫達とはまた違う威勢の良い声で商人達は道行く人に声をかけ、一人でも多く惹きつけて、あわよくば品を買ってもらう。
客と商人の間での値切り合戦はどちらも負けじと声を張り上げ、時には見物人が出来るほど、一つの芝居として成り立ちそうなぐらい、実に見ていて小気味の良いやり取りは日常茶飯事だ。
再び視界を開かせて、明るい真昼の太陽の光を受ければ、故郷の音は静かに薄れていく。
後ろに手を付いて空を見上げる。まだ風は寒いが、太陽の光は暖かかった。
これから徐々にこの風も、今の太陽のように温かくなるだろう。
年明けと共に、気候もまた春へと移り変わろうとしている。
そしてまた暑いあの夏が来て、哀愁すら漂わせる秋がきて、全てを白く染めていく冬が来て。
今やルクラはこの島の四季を、知り尽くしていた。
一年と言う年月を此処で過ごした事で手に入れた、経験の一つだった。
【2】
今日は一日、何も無い。
次の探検の準備は万全に整っているし、愛瑠の一件が無事に解決した事でようやく働く事ができるようになった“かぼちゃの涙亭”での仕事も今日は休みだ。
珍しいぐらい何も無い日で、ルクラは何をするも自由だった。
さて何をするか、と候補を選び出す。
一つ目、自分の技能を磨く事。
所謂特訓だ。
だんだんと強くなるエキュオス相手には、実力を幾ら高めておいても悪い事ではない
二つ目、買い物。
特にこの場合はお菓子類の購入である。
冒険者が大半を占めるこの島でも、食べ物全般に関しては結構なこだわりがあるルクラでも満足するだけの美味なお菓子が沢山売っている。
冒険者と一括りにしても、実際はさまざまな人々がいる。
ルクラが働いている“かぼちゃの涙亭”の店主だって、立派な一料理人なのだ。
この島の食事は、そんな料理人達に支えられているのかもしれない。
三つ目、仲間の所へ遊びに行く。
ロニアのところか、エクトとスィンの所か。
彼らを誘ってどこか買い物に行くのもいいな、とも思う。
と、ここまで考えてルクラはそのどれもに余り乗り気でない事に気づいた。
なぜかと思い返してみると、どうも先ほどの想起が原因らしい。
未だに帰る手段が見つからない現状に落ち込んでいるつもりはないのだが、なんとなく先ほど考えたそれらを実行している自分を考えてみると居心地が悪い。
しかし此処で延々と留まるわけにも、と悩みかけたその時に頭に浮かんだのは、あの老婆の顔に、宿“流れ星”だった。
今日は一日、あの優しい老婆の手伝いでもしよう。
そう決めるのに時間は掛からない。
【3】
ただいまと見慣れた扉を開いて、奥にいるであろう老婆にも聞こえるようにルクラは元気な声を上げる。
そして小走りでいつものリビングへと向かえば、果たしてそこは少々見慣れぬ光景が広がっていた。
老婆と向かい合って座っている見知らぬ男が、老婆の用意してくれたコーヒーを味わいつつ、帰ってきたルクラをじっと見ていたのだ。
見慣れぬ人物に不思議そうな視線を返していると、老婆は横から嬉しそうに声を掛けてきた。
“きっと貴女にとっていいお話だから”、そう言われるとますますルクラの好奇心は高まる。
言われるままに老婆の隣の席に着き、ルクラはじっと男を見た。
【4】
真っ黒な髪の毛は短く刈り上げられて、同じように黒いあごひげは綺麗に切り揃えられている。
薄汚れた白衣や服に包まれた身体は、細いががっしりと引き締まっており、かなり鍛え上げられているものだと瞬時に判断できた。
男は名をラウルバーフ・ゴトランドと名乗り、紫色の瞳をルクラに向けて、笑みを浮かべて握手を求める。
握り返したその男の手は大きく硬いが、それとは裏腹に指先はとても器用そうだった。
ラウルバーフは自身をアルケミストと称し、あらゆる素材を求めてメルディア中を回っているのだとルクラに説明した。
そんな生活の中彼もまた、この島の入場券である招待状を手に入れたらしい。
財宝などに興味は無いが、新天地でならまた何か珍しい素材が手に入れられるはずだ、そう考え彼はこの島にやってきたのだ。
自身が生み出した、巨大鳥に乗って。
庭の方を見てみれば、太陽の光すら吸い込んでしまいそうなほど真っ黒な身体を持った、大きな鳥が羽を休めているのが見えた。
「遥々海を越えてやってきたのはいいのだが、流石に長旅だったのでな。何せ一週間殆ど飛び続けだ。私も疲れていた」
うっかり居眠りをして、空高く飛んでいる最中落ちたらしい。
落ちた先がたまたまこの“流れ星”の庭、正確には主である老婆の設けていた小さな畑だったらしく、老婆が大きな音に吃驚して庭を見たときは、彼は頭から畑に突き刺さっていたそうだ。
「はっはっは! 柔らかい地面で助かったと言うものだな!」
普通の人間なら死んでいる筈だが、目の前に座り豪快に笑うこの男に傷などは見当たらない。
疑いたくなるようなタフネスだがそれは置いておいて、ルクラは老婆と一緒に苦笑を向けつつ彼に問う。
「えっと……それでその、ラウルバーフさん。お話っていうのは……?」
「あぁ。失礼。自分の事はこれぐらいにしておこうか。……む、モノクルは何処へ行った」
「……畑に落ちていたものかしら? それならここに……」
「助かった、ご婦人。いや、これが無いと調子が出なくてな……」
白衣の裾で軽くレンズを磨き、ラウルバーフは老婆から受け取ったモノクルを身につけた。
金縁のそれの奥にある瞳が、じっとルクラを見据えて言う。
「単刀直入に言おう、少女よ。私は君を故郷へ連れて帰ることが可能だ」
「……え?」
「何を隠そう、私もメルディアからこの島へ来たのだよ。ディカーセイトは知っているかね?」
「は……はい。機帝国……ですよね」
「そうだ。そこから遥々海を越えて私はやってきた。一週間掛けてだ。寝ずにだ。あそこまで水平線が続くルートを取ろうとは夢にも思わなかった」
メルディアの一週間は、七日で換算するこの島に当て嵌めると十二日に相当する。
どうやらあの巨大鳥も規格外のタフネスらしい。
今は羽を閉じ首をうずめている。呑気に眠っているようだ。
「このご婦人から君の事情は少し聞かせてもらった。メルディアに帰る手段をずっと探しているのだろう?」
ルクラは無言で頷く。
「私でよければ力になろう。セイディラハのメジーナ、そこまで責任を持って送り届ける」
「え……でも……」
「戸惑うのも無理は無いだろう。何しろ突然だからな。……それに、だ」
コーヒーを一口含み間を空けて、ラウルバーフは再び口を開く。
「私も何も君を連れ帰るために此処に来た訳ではない。目的はこの島での素材収集だからな。今すぐにと言うのはこちらも首を縦には振れん。それに何より、私は君の信用をなんら得ていないという問題点まである。これでは到底連れ帰れないだろう。……そこでだ」
ラウルバーフはにやりと不敵な笑みを浮かべた。
「島の探索はまだ続けているのかね?」
「え……あ、はい。まだ探検はしてます」
「好都合だ。しばらくの間同行しても構わんかね? ……私は素材収集がスムーズにできる、君は私の事を知ることが出来る。お互いにとってプラスではないか」
「それは……ですけど」
「なに、足手纏いにはならんさ。それなりに荒事の経験はある。……確か仲間と共に探索していたのだったな。すぐに答えは出せないだろう。しばらく考えてくれたまえ。……さて、私はそろそろ宿を探さねば。いやその前に金を稼ぐか」
言いながら椅子から立ち上がると、ルクラが見上げなければ顔が見えない長身がそこにあった。
180は超えているに違いない。
「お部屋が空いていなくて、ごめんなさいねぇ……」
「いやいや、謝ることはないだろうご婦人。寧ろ謝るのは私のほうだ。畑に大穴を空けて済まなかった。しかも此処の金を持っていなくて弁償まで出来ない身、どうか許して欲しい。必ずこの件に関しては償いをしよう。……バルミアラ、行くぞ!」
バルミアラと声を掛けられた黒い巨大鳥は、少し面倒臭そうに動くと、羽を大きく広げて一時的に光を完全に遮ってしまう。
「少女よ。三日後、私は再び此処を尋ねよう。そのときに答えを聞かせてもらいたい。……では、失礼する」
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