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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 彼女の求めるものは何か
 
【1】
控えめなノックの音が廊下に響いた。
 
「リズレッタ? 入りますよ」
 
ノックの音と同じようにドアを開いて、中を見渡せば、椅子に腰掛け、膝の上に組んだ手を置いて静かに眼を閉じたリズレッタの姿がルクラの視界にも飛び込んでくる。
 
「……リズレッタ?」
「起きてますわ」
 
リズレッタの向いている先は開け放たれた窓だった。
目の覚めるような青空が、そこには広がっている。
 
「特に何かすることも無いから、景色を眺めていただけ」
「うん……そういうの、いいよね。窓からの眺め、わたしも好きです」
 
ルクラは後ろ手に持った紙袋をちらりと確認した。
この中には、リズレッタが喜ぶであろう品が入っているのだ。
そしてルクラは、それを今彼女に渡しに来たのである。
 
「あのね、リズレッタ」
「ん……何ですの?」
「これ……リズレッタにあげる」
 
紙袋を受け取ったリズレッタは、怪訝な顔をして暫くルクラを眺めていた。
 
「……あら」
 
ルクラの促されるままに袋の中身を取り出せば、意外そうな表情を見せる。
それは上質なシルクで作られた、純白のパジャマだった。
フリルまで付いてなかなかに可愛らしい。
 
「前々からね、わたしとリズレッタと、リーチャさん……覚えてるでしょ? 一緒にお泊り会しようね、って相談してたんです。ずっと内緒にしてたんだけど、この前、やっと出来たから……」
「……随分、上質な素材みたいですけれど。よくそんなお金を出せましたわね?」
「えへへ……ちょっとずつ貯金したの。10ヶ月ぐらい……かなぁ?」
「……呆れた。隠さずに云えばいいじゃありませんの」
「だめだめ! ずーっと内緒にして、こうやって渡すのが楽しみだったんだから!」
 
子供らしい回答にリズレッタも苦笑するしかない。
 
「だけどね……」
「何か問題でも?」
「うん……もうすぐわたし、帰っちゃうでしょ? お泊り会、できそうになくて」
「……何時帰りますの?」
「わからないけど……多分、そう遠くないと思う」
「ふぅん……」
「あの……ごめんね、リズレッタ」
「謝る必要はないでしょう?」
「……でも……」
 
リズレッタの小さなため息が部屋に響き渡った。
そして彼女は黙って紙袋の中へパジャマを戻すと、ルクラの前へ突き出した。
 
「受け取れませんわ」
「え?」
「受け取れない、と言ったの。持って帰りなさい」
「ど、どうしてっ――!? い、いたたたっ!?」
 
無理矢理紙袋を押し付けて、それからリズレッタは思い切りルクラの頬を抓る。
堪らずその手を跳ね除けて後ろへと逃げたルクラの頬には、真っ赤な痕が残っていた。
 
「理由は貴女が考えることですわね。とにかく、それは受け取れない」
「リズレッタ……」
「さぁ、用事は済んだのでしょう? 出て行きなさい」
 
取り付く島も無い、
そんな様子のリズレッタに、ルクラは何も言えないようだった。
ただ、悲しげな表情を見せて、静かに部屋を出て行く。
 
「……全く」
 
そう呟くと、リズレッタはぼんやりと外を暫く眺め、そしてまた静かに目を閉じた。
 
【2】
紙袋を力無く自分のベッドの上に置いて、ルクラは途方にくれていた。
喜んでもらえるプレゼントだったはずなのに、自分の予想した展開とはかけ離れた状況に、頭は混乱してまだ現実について来ていない。
何度考えても、何故受け取ってもらえなかったのかが判らず、気分は沈むばかりだった。
 
「……はぁ……」
 
ため息しか出てこない。
 
――コン、コン。
 
小さなノックの音が響いたのはそんな時だった。
 
「……」
 
――コン、コン、コン。
 
「………………」
 
――ゴンッ!
 
「っ!?」
「ドラ子ーッ!!! 居るのでしょう! 返事ぐらいしなさい!」
「は、はいっ!?」
 
終いには思い切り蹴飛ばされたらしい音を立て始めた扉を慌てて開ければ、そこには。
 
「全く! 最初のノックで出てきなさい! この私を待たせるとはいい度胸をしているじゃないのドラ子!」
「ラ、ラズレッタちゃん……」
 
ラズレッタがじろりとルクラを見上げて睨みつけていた。
 
「え、えと……なかなかでなかったのは謝ります、ごめんなさい。それで……何か用ですか?」
「えぇ、用事よ。ドラ子すぐに支度なさい、温泉に行くわ」
「……温泉、ですか?」
「鸚鵡返ししなくても良い! ほら、40秒で支度なさい! 私がお姉様をお誘いするまでに終わらせる事、いいね!?」
「え、あ、はい!」
 
ぱたぱたとラズレッタは廊下を走り、一目散にリズレッタの部屋へと向かう。
用意をするといっても、大した荷物は無いしすぐ手の届く場所にそれは全て纏めて置いてあった。
カバンの中にそれを入れれば、40秒も掛からずに準備は終わる。
 
「……でも……お姉様」
 
開けっ放しの扉の先からラズレッタの食い下がる声が聞こえる。
先ほどあんな事を言われた手前会いに行くのは気が引けるが、出ないわけにも行かず、ルクラは意を決してリズレッタの部屋の前へと歩みを進めた。
 
「……あら」
 
再びルクラの姿を目にしたリズレッタは、別に怒った様子を見せるわけでもなく、ルクラを無感動に眺めているだけのようだった。
すぐに視線は眼下のラズレッタへと向き、優しい、姉としての言葉で彼女に語りかける。
 
「今日はわたくし、用事があってどうしても一緒に行けないの。我慢してもらえるかしら、ラズレッタ?」
「……むー……」
「二人で行ってらっしゃい。埋め合わせはまた今度しますわ」
「……判りました。では、お姉様」
 
静かに扉を閉めたラズレッタは、膨れっ面を隠そうともしない。
 
「……何をぼさっとしているの! ほら、行くのよ!」
 
傍のルクラに気づいて挙げた第一声は、やはり表情どおり不機嫌そうだった。
 
【3】
妖精の宿と呼ばれる場所は、これまで度々ルクラも訪れた事があった。
季節が変わればその景色も変わり、時には庭先に妙な扉が現れ、やはり季節に合った場所に通じている事がある。
夏には広大な海に繋がっていたが、冬の今は――。
 
「わぁ……!」
 
――かぽーん。
 
そんな音が響く、温泉だった。
想像していたよりずっと大きな、そして広大な白銀の世界を一望できる『お風呂』に、ルクラは思わず辺りを見回してしまう。
 
「……そんなにキョロキョロと見るものじゃないよ。それじゃあ、自分は田舎者ですと言っているようなものよ、ドラ子」
「だって、こういう大きなお風呂は初めてで……」
 
そう応えながら振り向けば、ぺたぺたと音を立てて自分のところに歩いてくるラズレッタの姿があった。
 
「これだから下々は困るわ。私とお姉様のお風呂はもっと大きくて……」
 
生身ではない腕は既に自分で外したらしく、片腕だけの姿になっている。
その表情は相変わらず不満げだった。
 
「しかも今、誰も居ませんよ! 『貸切』って言うんですよね、こういうの!」
「貸切と、閑古鳥は紙一重よ。流行っていないだけかも知れない」
「いつでも来れる場所ですから、流行っていないことはないと思うけど……。まぁ、今日はわたしは静かな雰囲気の方がいいかな、って思ってるので良かったです」
「まあ、騒がしいよりは、同意するよ。耳障りなものは、好きじゃないから。……全く、お姉様もいれば最高だったのに」
 
その原因は勿論、リズレッタがこの場に居ないからであった。
彼女としては、三人で此処に来るのが目的だったのだろう。
 
「……今日は我慢しましょう? 用事があるんだったら仕方ないですよ……」
 
本当は用事なんて無い事をルクラは知っている。
そして断った理由も、なんとなくだが察する事ができた。
 
「この私に我慢だなんて。お姉様の、いけず。ふン」
 
ぶつぶつと言いながら桶を持つラズレッタだが、片腕故にかなりやりにくそうな様子を見せている。
 
「……む。むぅ」
「あっ。ごめんなさい気づかなくて、わたしがしますよ」
「いい、自分でできる……あっ」
「まぁまぁ。遠慮しないで下さい」
 
暫し温泉には水の流れる音に、二人分の少女の声が木霊する。
 
【4】
「ん……。ふぅ。やっぱり暖かくて気持ちいいですね。景色も綺麗だし……」
「私は二度目だから、特に感慨は無いのよ。……お姉様もくれば良かったのに。ねえ」
「そうでしたね、リズレッタと一緒に来たんでしたっけ。……本当に、リズレッタも来ればよかったのになぁ」
 
本当は来て欲しくない気持ちが大きかったが、そう答えないとラズレッタが怒り出すに決まっていた。
ちくりと胸が痛む思いをしつつも、ルクラは平静を保ちながら改めて周りを見渡して、その景色に思わず目を細める。
宿『流れ星』のそれとはスケールの違う眺めに、身も心も震える思いだったのだ。
そしてそれは、胸の痛みを確かに一時的に忘れさせてくれた。
 
「………………」
「あ……ラズレッタちゃん、よかったら、膝の上に座ります?」
 
ふと気づけば、立ったままのラズレッタの姿。
彼女はその小ささ故に、その状態でもう肩まで浸かってしまっていたのだ。
しかしそれでは休まらないだろうと思っての親切からそう言葉をかける。
 
「……ふン、まあ、座ってやらない事も無いわ。ドラ子、私の椅子になりなさい!」
 
その提案にラズレッタは暫し思案していたようだったが、相変わらずの尊大な物言いをしつつルクラに近づいて、そして彼女の膝の上にちょこんと納まった。
丁度良い高さになったようで、ラズレッタも満足そうな顔を見せる。
 
「……ふふン、勝った」
「……勝った?」
「ふふン、ドラ子ったらぺったんこなんだもの。私の勝ちなのよ」
「ぺ、ぺったんこ?」
「まあ、お姉様も似たようなものだけど。まだまだ精進が足りないようね、ドラ子」
「は、はぁ……がんばります?」
 
どうやら他にもその満足の理由があるらしいが、ルクラには判らず、くつくつと笑うラズレッタを眺めるしかなかった。
 
「まぁ今回はお姉様については良しとするわ。また来ればいいのだから」
「……また、ですか」
 
再びルクラの胸がちくりと痛んだ。
本当にその『また』が自分に残されているのだろうかが判らなくて。
 
「なに? この私の言う事が聞けないっていうの?」
 
顔を上げてじぃっとラズレッタがルクラの顔を見つめている。
 
「……実は、故郷に帰る手段が見つかったんです」
 
そんな彼女に困ったような笑みを浮かべながらも、ルクラはぽつりぽつりと話し出した。
 
「……へえ、それは良かったじゃないか」
「うん、それは嬉しいです。わたしがずっと探してた事だから。……でも、その故郷に帰るのが……多分、そう遠くない日になるんです。だから……また一緒に此処にはこれないかも」
「そうなの。それは、寂しく……別にならないけど。まあ、急ぎの話でもないのだから、またこれる機会はあるんじゃないの?」
「うーん、そうだといいんですけど……。その、故郷につれて帰ってくれる人のお仕事がいつ終わるか、よくわかんないんです。一週間先か、一ヶ月先か……。遺跡を探検する必要もあるし、こうやってまたラズレッタちゃんと一緒にのんびりできる時間がまたいつできるかもわかんなくて……。だから、約束、出来ないんです」
「何、それじゃあ、明日帰っちゃうかもしれないって事?」
「明日は流石にないとおもいますけど、もしかすると次の遺跡探検が終わったら、ってことも十分に……」
 
沈黙。
風に撫でられ揺れる枝の音と、温泉に注ぐ湯の水音が辺りを包む。
 
「……そ、そうなの。ふン、お姉様についていた悪い虫が居なくなると思うと清々するわ」
 
ラズレッタはルクラから視線を外すと、俯くような形になって、鼻先までを湯船に浸けた。
 
「……うん。リズレッタも、ラズレッタちゃんがいるしもう大丈夫、ですよね」
 
そんな彼女をルクラは撫でるしかない。
 
「……勝手にお姉様の友達になっておいて、勝手に何処かへいってしまうドラ子なんて、好きにすれば良い!」
 
だがラズレッタはそれが気に喰わなかったようで、怒気を少し含ませた声を挙げた。
 
「……ごめんね」
「謝る人間が違うでしょう。このドラ子が! ドラ子が!」
 
ルクラが謝れば、今度は身体ごとくるりと翻し、ぽかぽかとルクラの胸元を拳で叩きつける。
痛みなど微塵も感じないので、そのままルクラは彼女の頭を撫でながら、つい先ほどの出来事を思い返しつつ答えた。
 
「う、うん……。リズレッタにももう話はしたんだけど……謝ったら抓られちゃった」
「ふン、下々とはやはり最後まで解り合えなかったようね。お姉様を捨てていくなんて、一体何を考えているのだか。いいもん、私が慰めてあげるんだから。お前のような奴はどこへなりともいってしまえばいい!」
 
やはり姉妹は似るのか、続いてラズレッタは手をルクラの頬へと伸ばし始めた。
 
「………………」
 
何をするのか想像がついたが、ルクラは逃げない。
そしてラズレッタの手は彼女の頬をしっかりと掴み――。
 
「いたたたたた!?」
「お姉様はもっと痛いんだから!」
 
確かにその通りだ、とルクラは思いつつ。
 
「……お姉様は、お顔にはお出しにならないけど……」
「……うん……」
「……ふン、まあ、いいわ。お姉様は私が慰めてやるんだから。もうドラ子になんて、渡さないんだからね!」
 
ラズレッタが皆まで言わなくともルクラにも判っていた。
だから自分は、寂しい思いをさせてごめんと、リズレッタに謝ったのだ。
だが、それは正しい道ではなかったらしい。
そうでなければ、この温泉には二人ではなく三人で訪れていたはずなのだから。
 
「何か……何か帰る前に、出来たらいいなぁ……」
 
何が間違っていたかわからない、だが、何かしてあげたい。
そんな思いから、ふと呟く。
 
「……私、お姉様にチョコ作ってあげようと思ってたんだけど。お前もなんか作ればいいんじゃないかしら。……ふン」
「チョコ……?」
「ああもう! ドラ子の頭にはカレンダーも無いのかしら!」
「……あ!?」
 
頭の中のカレンダーを眺めれば、数日後に控えたある特別な行事の存在を思い出す。
 
「……バレンタインデーでしたね、もうすぐ!?」
「きゃあ!? ちょ、ちょっといきなり! 下ろしなさい、このドラ子!」
 
居てもたってもいられずに、ラズレッタを抱きかかえたままルクラは立ち上がった。
ざばぁ、と大きな音が立つ。
足は既に出口へと向かっていた。
 
「うんうん! 作ります! 去年よりうーんと美味しいのを作ります!」
「勝手にすればいいわ。言っておくけど、私は食べてあげないからな!」
「そんなこといわずに! ラズレッタちゃんの分もちゃーんと、作りますよ! よーし、そうと決まれば! 早速準備しなきゃ! ね!」
「お、下ろせ! この私を気安く抱えるな! っていうか、ドラ子、前々から疑問だったんだけども。何でお姉様だけ呼び捨てで、私はちゃん付けなんだー……」
 
猪突猛進の勢いに攫われ、そんなラズレッタの声が温泉の中に虚しく響いた。

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