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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
「ほら、リズレッタ、こっちこっち!」
「別にそんなに急がなくてもいいんじゃありませんこと……?」
 
夜。
15隊をお望みどおり全力で蹴散らしたその日、ルクラは予告していた通り、リズレッタを連れ出し草原を駆けていた。
二人っきりになれる場所、として、ある程度人気がなくなるところまで走ったところ、ようやく止まる。
 
「ふぅ……!」
 
緊張か興奮か、普段では乱さないような短い距離でも、やや彼女の息は荒い。
 
「……それで? わざわざこんなところにまで連れて来たのだから、それなりの理由があってのことでしょう?」
「うん! えっとね……」
 
ルクラは息を整え。
 
「わたし……リズレッタのことも全部、思い出した! 『あの夜』の事も、思い出したの!」
 
その言葉に、リズレッタは目を見開いた。
 
寂しくないように
 
 
【2】
『……お前、莫迦?』
『なのかなぁ』
 
“莫迦な小娘”、最初はそう本気で思ったものだった。
無闇と笑顔を振りまいて、誰にだっていい顔をしてそうな、そんな存在にリズレッタは最初吐き気を思えるほどに嫌悪した。
今までの彼女からすればそんなものは無意味で、無駄。
一刻も早く自らの手で破壊したくなるほどに見苦しい、最悪な物だったといえる。
 
『……じゃあ、わたくしが何かを望めば何でもするのかしら?』
『はい! して欲しい事はなんでもしようと思ってます!』
『ふぅん……そう』
 
だから彼女は、なんでも言う事を聞くと後先考えずに言い出したルクラに、ある残酷な行いを始めた。
 
『……じゃあ、聞いてもらおうかしら』
 
思えば既にそれらの行動が、“紛らわせ”の行動だったのかもしれない。
妹を失くし、喪失感に苛まれていた自分への慰みのための行為だったのかもしれなかった。
でもそれは結局――。
 
『お前など……ラズレッタなんかじゃありませんわっ!!! わたくしの……わたくしの愛しくて可愛いラズレッタは、お前なんかよりずっと……! ずっと……!!!』
 
彼女が莫迦だったのではない、自分こそが莫迦だったのだと思い知らされた。
今思い返しても。何故そんなことをしたのか理解に苦しみ、そして恥ずかしくも思う。
ただ、その恥ずかしさは決して居心地の悪いものではなかった。
何故なら――。
 
「わたし……あの時、約束したんですね。リズレッタと」
「……えぇ、そうね」
「ずっと忘れてた……なんで、こんな大切なことだったのに忘れてたんだろう?」
 
『……泣かないで』
『うる……さいっ……だまれ……ぇ……!!!』
『代わりになれなくて……ごめんなさい』
『……!?』
 
しっかりと抱きしめてくれた温もりを忘れることなどはできなかった。
そして――。
 
『でも……約束する……! あなたが寂しくなんて無いように、わたしがする! 頼りないし、妹の代わりにもなれなかったけれど……寂しいの、わたしが全部引き受ける! 寂しいのが無くなるまでずぅっと、こうやってぎゅーっとしてあげる! だから……! だからもう泣かないで……! 泣かないでぇ……!!!』
 
自分も恐怖で、そして今になってわかるが、寂しさで一杯だったであろう筈なのにこうして掛けてくれた言葉に、救われた事を忘れたくはなかった。
 
「でももう、大丈夫! ぜーんぶ思い出しましたから! ね!」
「………………」
「……あ、あれ。……もっとその、驚かないんですかリズレッタ」
「別に。……というか、遅すぎますわ。本当に貴女はいつもいつも遅い」
「……ご、ごめんなさい」
「褒めているのよ」
「そ、そうなの!?」
 
言葉で言われなくても、ルクラがずっと忘れていたとしても、それはもうリズレッタにとっては何の意味も無い。
 
「全く……本当に莫迦ですわね」
「……褒められた……んですよね?」
「えぇ、そうよ。お莫迦さん――」
 
彼女はずっと自分を思ってくれていたのだから、今こうしてはっきり思い出しても、変わらないのだとリズレッタは今までを顧みて、笑った。
急に抱きつかれて目を白黒しているであろうルクラには、決して見えることの、見せることの無い表情だった。
 
【3】
辺りは静まり返っている中、リズレッタは一人テントの外に出て、星空を眺めていた。
仲間は皆、今頃夢の中にどっぷり浸かっている事だろう。
起きればすぐに遺跡の外へと帰る予定なのだ。誰もが緊張することもなく、珍しくスィンも熟睡している。
星空に何気なく腕を伸ばした。掌一杯に光り輝く粒を乗せる。
静かに握り締めて、眼前で開いてもその手の上には何も無い。手を伸ばしたぐらいでは届かないところにあの輝く宝石たちはいるのだ。
 
「全てが、わたくしたちの物、思うが侭……。全てが、わたくしたちに平伏し、わたくしたちが、頂点」
 
いつかはあの星空すら、そう思っていた頃が酷く懐かしい。
妹と二人、いつも一緒だった頃の自分はそうだった。
しかし妹が死に、自分も重傷を負い、そしてルクラと出会い。
その揺ぎ無い、硬い信念は彼女と接するうちに罅が入り始めていた。
見た目から強固で、崩れることのなさそうなそれは、実は妹と言う存在が居て初めてそうなるものであり、妹が居ない今はただただ虚栄の象徴でしかない。
皹など容易く入った。
しかし彼女は頑固にも、何処にも傷などついていないように振舞った。そう思い続けた。
だがそれすらも砕ける時が来た。
ルクラの力の暴走による一件で、完膚なきまでに破壊しつくされた。
正確には、自分自身で壊したのだ。
これから行う、“救う”という行為には不必要で、邪魔なものだとリズレッタ自身が手を下したのだ。
その選択が間違っていたとは今でも思わない。あのとき自分が行動しなければ、この今の時間は存在しえなかったと自信を持って云える。
こうしてまたルクラが傍にいてくれる、それがリズレッタの安らぎになっているのは、疑いようの無い事実なのだ。
だから、誇り高き信念を自ら捨て去った事については、なんら間違いだとは思っていなかった。
 
「……あの子は、許してくれないでしょうね」
 
それでも、リズレッタの胸の内には幾許かの後悔と罪悪感が残っている。
共に同じ信念を持ち、そして死んでいった妹。
今こうしてむざむざと生き永らえる姉の姿を見て、妹はきっと激怒するに違いない。
誇りも信念も捨て去り、のうのうと一人のなんでもない少女と過ごす姉を見て、殺意に駆られるに違いなかった。
 
「………………」
 
今この場に居なくとも、謝罪の言葉を。そう思っても口には出せなかった。
最早それすらも自分には許されない。
“今の自分”が妹に謝罪など、愚弄にしかならぬと悟っていた。
もう、戻れないのだ。
 
「……ラズレッタ……」
 
何度腕を伸ばしても、星空は掴めない。
 

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