忍者ブログ
六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
[87]  [86]  [84]  [83]  [82]  [81]  [80]  [79]  [78]  [77]  [76
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 いつもと違う一幕
 
 
【1】
 
「ど、どうかしら?」
「……これは……」
「……そうですねぇ……」
 
珍しくエプロンを身につけ菓子を振舞っているのはリズレッタ。
テーブルにどんと乗せられたクッキーは大きさも形も不ぞろいで、それらを口にしたルクラと老婆の顔は複雑なものであった。
 
「焦げてしまってますね……」
「し、しっかり火を通した弊害ですのよ!」
「なんか、酸っぱい味がする……?」
「アレンジしてみましたの!」
 
無言。
贔屓目に見ても“まずい”と二人の表情は物語っていた。
ややしばし居心地の悪い時間の経過を持って、ようやく老婆が口を開く。
 
「そうですね……初めて作ったお菓子にしては上出来だと思いますよ、お嬢さん」
「本当ですの?」
「えぇ。でも上達にはいくつか課題が残ります。……何といってもまずは、大きさを整えることですね。不ぞろいだと均一に火を通すことが難しくなって、たとえばこの大きなクッキーにしっかり火を通そうとすると、これより小さなクッキーは焦げてしまうでしょう」
 
続けてルクラが、半分だけようやく齧って飲み込んだクッキーを皿に戻してリズレッタに聞く。
 
「えっと……レモンの汁入れたんですね」
「そ、その通りですわ。……わかりますのね。隠し味だったのに」
「……どれぐらい入れた?」
「二つですわ」
「……大匙?」
「ですから二つですの」
「……全然隠れてないし、慣れないうちのアレンジは失敗の元だよ? と言うかいくらなんでも、レモン二つ分の果汁は入れすぎだと思います……」
「そ、そうですの? でも生地が多かったしこれぐらい入れなくてはと……」
「目分量とかも慣れないうちはだめ」
「う……」
 
ぴしゃりぴしゃりと指摘するルクラに、リズレッタはやや涙目を見せて。
 
「……はぁ。本当にわたくし、だめですわね……。こんなことも満足にできないなんて」
「ちょ、ちょっと。すぐ落ち込むんだから!」
「そんなに気を落さないで、お嬢さん。誰だって始めはそうなのですから」
「そうですよ! わたしだってひっどいのを最初は作り上げましたよ!」
「でも……わたくしの失敗作なんかより全然良いものでしょう……?」
「私は最初にクッキーを作ったとき、砂糖と塩を間違えましたねぇ……」
「わたしは岩みたいに硬いクッキーとオーブンをダメにしかけました!」
 
“それに比べたらまだ……”“ねー!”などと昔の失敗談を笑い話に変えつつ、老婆とルクラは笑っている。
 
「ふふ……なんですの、わたくしよりよっぽど酷かったのですわね」
「えぇ。だから言ったでしょう? 初めてにしては上出来だと……」
「確かに酸っぱくて食べ辛いけど……でもまだ食べられますもん! 練習したら美味しいお菓子が作れるようになりますよ!」
「そう……ですわね……。えぇ、わかりましたの。もっともっと、頑張らないと」
「そう! その意気です!」
「また作りましょうね、お嬢さん」
 
三人分の笑い声が響く……。

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
secret (管理人だけにコメントする。)
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新CM
最新TB
プロフィール
HN:
鐘の音
性別:
非公開
自己紹介:
SD
-Eno.850セサリカ=ゴトランド(終了)
-Eno.37シルヴェリア・ミューアレネンス
偽島
-Eno.455ルクラ=フィアーレ→リズレッタ・メリゴール(終了)
六命
-Eno.1506レミス&ミーティア
バーコード
ブログ内検索
カウンター
リンク
酪農戦隊
酪農兵器
功夫集団
アクセス解析

Copyright © おしどり夫婦が行く。 All Rights Reserved.
Material & Template by Inori
忍者ブログ [PR]