六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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マナ
【1】
「少し良いかしら? ……あぁ、手は止めなくても結構ですの。そのままお互い仕事を続けながら」
地面に落ちた枯れ枝や、時には小枝を刈り取りつつ、リズレッタとスィンの二人は着々と作業を続けていた。
薪を入れる袋はすでに半分も埋まっている。
「この島に来て、何か奇妙だと思ったことはなくて?」
「……ふむ。奇妙ですか」
スィンはばらばらと薪を袋の中に落としこんでから暫く考える素振りを見せて、それから作業に戻った。
「挙げればキリはありませんよ、リズレッタ殿。遺跡の内部、其処に巣食う連中――」
「異常に成長する自身の技量」
「……ふむ。言われて見れば」
挙げだした内容に最も求めるべき其れがないため、割り込んで付け足してみると、彼はもう一度考える素振りを見せ、それから剣を抜き放ち小枝をばらばらと切り落とした。
「特訓をしながらも少々感じていたのですが……姫様の技量が目覚しいほど成長している気がしていました。無論、私も自身の力が上がっていると」
「他の娘達はどうかしら?」
「愛瑠殿にルクラ殿ですか。……そうですね。初めて出会い、こうして此処まで共にやってきましたが……『見違えた』という言い方が最も合っているでしょうか」
「あまりにも早すぎると思わなくて? 年端も行かぬ子供達が、熟練した戦士や魔術士のような真似を軽々とやってのけている。貴方達の常識では、其れが普通かしら?」
氷のナイフで太い枝を、まるでプリンのように軽々と細く切り裂いて、リズレッタは袋の中にそれを纏めて突っ込む。
「……この短期間でここまで、と言うのは少し考えられませんね。長い時間、地道な訓練を重ね技量を磨く。其れが強き騎士の絶対条件のようなものです」
“この前契約したばかりの火の精霊も”と前置いて、スィンは掌の上に紅蓮を生み出し、そして握りつぶした。
「姫様に比べれば、私の精霊の使役技術など取るに足らないものです。しかし……既に此処までできるようになった。姫様にいたっては、もっと強い力を行使できる状態です。……思えば、この島に来てからです。リズレッタ殿の言う通り」
「『マナ』をご存知かしら」
「『マナ』? ……あぁ、ルクラ殿が以前話してくれました。目には見えませんが、彼女の術の行使に必要不可欠な物だとか。『故郷のとは性質が少し違う』ともルクラ殿は仰っていましたね」
「もし其れが、術の発動以外に何かわたくし達に影響を及ぼしているとすれば?」
「……ふむ」
スィンは袋に枝を放り込んだついでに持ち上げて、何度か持ち上げて地面に落とし容量を増やしつつ。
「つまり、その『マナ』が私達の成長にも大きく関わっていると云いたいのですね」
「話が早くて助かりますわね」
にっこりリズレッタが微笑みかけるが、表情一つ変えないスィン。
たまに彼の云う『姫様』がその性格をネタに話しているが、なるほど話し通りだと思った。
「メリットだけがあるように見えて?」
「今のところは。……しかしリズレッタ殿は、デメリットをご存知のようですね」
「えぇ。だからわたくしは一切『マナ』を触れさせていませんの。……どうやってかは省きますわ。あまり関係のないことだし、それを貴方達に施す術もありませんもの」
「そのデメリットとは?」
「『暴走』ですわ」
「……暴走?」
“もう十分でしょう?”“そうですか?”などと軽い会話を交わしつつ、リズレッタは古い切り株の上に腰掛けて笑う。
「長い間ここの『マナ』に触れていると、どうやら何か悪影響が出てくるような連中も居るようですわ。全員がそうではないようだけれど。……例えば、この遺跡にもそうなった二人組みが居ると聞きますわね」
「地下2階でしたか、確か」
「えぇ。最早正気を保てず、探索している連中を襲う化物……あぁ、『エキュオス』とか云っていたわね? それとなんら変わりない存在になってしまっているとか」
「……ふむ。しかし防ぐ手立ては無さそうですね」
「無い訳ではないけれど、それが酷く実行しにくいというだけですわね。まぁ、十中八九無理というもの」
「それでは何故お話に?」
「さぁ、何故かしら? あまりに暇だったからかもしれませんわね」
何せ袋が半分埋まるまで全くの無言だったのだ。
いまだ真面目に枝を切り袋に詰め込んでいるスィンを眺め笑いつつ、リズレッタはのんびり景色を眺めるにかかっている。
「まぁ、喚起の意味もありますわ。折角こうして共に探索を続けているのですもの。欠けて貰っては困るでしょう?」
「ふむ……。リズレッタ殿に言われなければ気付かぬ事でした。ありがとうございます」
「それで、どうするつもり?」
「と、いいますと?」
「防ぐ手立てはわからない、何時起こるとも知れないデメリット。今貴方はそれを知った。……どうするのかしら?」
「気をつけます」
「………………」
悩む姿を見て笑ってやろうと思っていたのに、あっさりスィンは質問に答えた。
「どれだけ強大な力を手に入れようとも、それに溺れることは即ち自らの向上を放棄したも同じです。……私は騎士ですから、けして現況に満足することはありません。この力は全て、姫様を守るために磨いているもの。私自身が『十分だ』とどうして判断を下せましょうか?」
「……はぁ」
「リズレッタ殿?」
「いえ、何でもありませんわ。……それならいいんですの」
“全く筋金入りだ”、とリズレッタはもう一度ため息をついた。
「姫様や愛瑠殿、ルクラ殿にも伝えなければなりませんね。……ふむ。『マナ』の例を用いて一つ姫様に心掛けを説くことも良いか」
「………………」
「あぁ、リズレッタ殿。そろそろ戻りましょう。この通り袋も一杯になりましたし」
「……えぇ、そうしましょうか」
今度は別の相手と来よう。
そんな事を思いながらリズレッタは、袋を抱えて来たときと同じようにさっさと帰り始めたスィンの後ろをのろのろついて行くのだった。
【2】
「……こないで」
「こっちに、こないで。あっちにいって」
「こないでよ、ばけものっ!!!」
少女が一人、恐怖を湛えた表情を張り付かせたまま、逃げていく。
「………………」
白い竜の翼、尻尾。
そして黄色い瞳の自分は、ただただ、立ち尽くしていた。
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