六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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猛る何かに苦悩した日
【1】
「ルーちゃん、大丈夫?」
「あ……はい。もうかなり落ち着いた感じです」
「そっか。今日はもうここに腰を落ち着けるから、ゆっくりしててね。ご飯の時は呼びに来るから」
「ごめんなさい……」
「いいのいいの。気にしないで」
野営のテントの中に首を突っ込んで、自分の様子を見に来たらしい愛瑠とそんな短い会話を交わし、彼女が再び外へと戻っていくのを見送ると、ルクラは再びごろりと毛布の上に横たわった。
「……風邪ひいたのかなぁ……」
ポツリと呟いたのは独り言ではなかった。
憮然とした面持ちで二人の会話を聞いていたリズレッタに向けてのものだ。
「この前『竜は風邪ひかない』などと自慢げに語っていたのはどこのおチビさんだったかしら」
「……うん」
申し訳なさをそれらしい理由で着飾って、なんとか胸のうちから消してしまおうと、あまり考えもせず“風邪をひいた”などと彼女に言ってみたのは、どうやら悪手であったことをルクラは悟った。
結果的に、胸の内のもやもやとした感情は減るどころか増えてしまう。
「起こった事は仕方ありませんわね。……行程に遅れが出るのは腹立たしいけれど、無理して歩かせても結局遅れが出る結果に違いありませんもの。そう思っておくことにしますわ」
「……ごめんなさい」
「大人しく寝てなさい。……わたくしは暇だから外に出ますわ」
「うん……」
後姿を見送りながら、“間違いなくリズレッタは怒っている”、とルクラは思った。
思ったとおりに事が運ばないという事態は彼女が嫌う物の上位に位置するものであり、更にその事態を引き起こしたのが、ある意味今彼女の最も身近な人物である自分自身だったのだから、それも無理は無いと思い、ますます気分は落ち込んだ。
“もっとわたしがしっかりしてれば”と思うのも、最早何度目か。
一人きりになったテントの中で、ルクラは寝返りを打って、それからぎゅっとローブの胸元を握り締めて、身体を丸めた。
いよいよ地下二階へと足を踏み入れようと話が纏まり、その一歩を踏み出そうとしたはずが、突然ルクラに襲い掛かってきた体調不良。
多少のことなら空元気で跳ね飛ばせるほど自分の体は丈夫なはずなのに、そのときはどうしても我慢が効かず、罪悪感で胸を一杯にしながらも恐る恐る仲間達にそれを告げた。
それを聞いた仲間達は驚いた表情を見せて、それから“疲れが溜まっているのかもね”と笑って、その日の探検の中止を早々と決定してくれて――勿論リズレッタはその決定に不服そうな表情だったが――今に至る。
身体の内から沸き起こる奇妙な不快感、働かない思考、重だるい四肢。
これが人の症状で言う“風邪”なのだとルクラは必死で自分に言い聞かせる。
そう信じたかったのだ。
「……わたし、どうしちゃったんだろう」
それらの症状にあわせて沸き起こる、もっと別のどす黒い何かが湧き上がっていることすらも、“風邪”という存在に押し付けたかったから。
【2】
以前海岸に隠されていた宝の一つシャドウバックラーを探し当てたときのように、今度は人工の大地の上を別行動を取って探索していたときから、その症状はじわじわと現れていた。
その違和感に気付いたのは、そこでの戦闘中だった。
――……あれ……?
自分の思った以上に、自分の魔術の規模や威力が強まっている気がした。
外敵の力を完全に殺ぐだけの力は元より意識して作り出して入るが、その時は何故か、それ以上に強い力を自分が発揮しているような気がしたのだ。
その違和感が確信に変わったのは、彼女が戦況を一気にひっくり返そうとより集中し錬度を高めた魔術を繰り出そうと集中したときだ。
――いっけぇぇぇーっ!!!
繰り出した魔術は、捻りも何も無い、巨大な光球を生み出し相手にぶつけるだけの単純な魔術。
複雑怪奇な魔術を使う習慣がルクラにあるわけでもないが、そのとき彼女は光球を作り出し、そして相手に叩きつけるように思い切り投げつけるその瞬間まで、その行いをなんら疑問に思わなかった。
――……あれ……?
直前までもっと別の魔術を使おうと考えていたはずだったのに。
思考の大部分がその魔術のイメージで固まっていたはずなのに、繰り出したのはまるで違う魔術で。
そして異常に力を、本当なら恐れて出来ないぐらいその魔術に込めていたことに気付いた。
目の前の敵に対して、ある種の殺意まで抱いていたことに気付いたのだ。
一度別の場所の人工の大地で同じように別行動を取り、そこでも戦闘をし、そして痛み分けという負けず嫌いな自身にとっては納得の行かない結果に終わってしまった事を心のどこかで悔やみ、二度と同じ結果は出すまいと張り切った結果だったのかもしれない、と一度はそのときの状況をそう分析して彼女は忘れようとした。
しかし――。
「……ゆっくり今は……休まなきゃ。今日は訓練もお休みだから……戦いの練習する必要もないから……」
その衝動は今も、ずっと続いている。
遺跡から戻り、宿で寛ごうと思っていても、宿の庭で客人たちとお茶を楽しんでいるときも、今後の探検の予定を仲間達と立てているときも。
つい先ほど愛瑠やリズレッタと話している間にも、“戦いたい。魔術を使いたい。暴れたい”と彼女の身体は訴え続けていた。
「休まなきゃ……だっ……め……だから……!」
苦しい。
何がそんなに自分を駆り立てているのかわからない。
自分が自分でなくなってしまうような不安さえ、浮んでいる。
ローブを握り締める力が限界まで高まり、自分の爪がローブ越しとはいえ掌に食い込む痛みが感じられた。
こんな姿は決して、仲間達には見せられない。心配を余計にかけるだけだから。
その思いだけで必死に押さえつける。
油断したら大声で叫びそうになってしまうそれを息を殺して阻止する。
限界まで身体をこわばらせて、その場に身体をがっちりと縫いつける。
「……っ……」
日に日に強くなっていくそれと、ルクラは必死で戦っていた。
【3】
「あ。リズレッタ、ルーちゃんのところに居なくてもいいの?」
「別に……子供じゃないのですから睡眠ぐらい一人でできるでしょう」
「ルクラ殿の調子は?」
「特に問題は無いように見えましたわ。……明日にはあの娘も元の調子を取り戻しているのではないかしら」
愛瑠やスィンの問いに、リズレッタはあまりルクラを心配している様子も見せず答えた。
すわり心地の良さそうな岩を見つけ、それに腰掛けて、心底暇そうに頬杖を付く。
「ルーちゃんが風邪……でいいのかしら。ひくなんて珍しいわね」
「結構大変な道のりもあったから、知らないうちに疲れが溜まっていたのかも。……ボク達も今日は一日お休みして、しっかり疲れを取っておこう?」
「そうね。……だそうよ、スィン」
「そうですね。我々も気をつけましょう」
「と云いつつ、何故素振りを始めているの」
「日課ですから」
「疲れを取るのは」
「これぐらいは疲れの内に入りません。寧ろしなければ逆に身体が鈍ってしまいます、姫様。……姫様もまだまだ剣の腕を磨かなければなりませんよ」
「今日はダメよ」
適当な木の棒を拾ってきて、早速打ち合いの準備をしようとしたスィンにそう声を掛けて、続いてエクトは愛瑠の方を向いて“そうよね?”と声を掛ける。
愛瑠はそれを見て軽く頷いた。
「そうだね。ルーちゃんのために、今日は結構手の込んだ元気の出る料理作ろうかなって思ってた」
「手伝うわ。手は多いほうがいいでしょう?」
「うん。その方が助かる」
「ふむ。では私は薪を集めてきます。いつもより多く使う事になるのでしょうから」
「わたくしも手伝いますわ。……料理は二人に任せますの」
「ん。わかった。それじゃあよろしくね、二人とも」
「ではいきましょうか、リズレッタ殿」
「えぇ」
立ち上がり、スカートの裾を叩きながらリズレッタは返事を返す。
そして先に行くスィン――エスコートの素振りも見せないことについては減点ではあるが、このような集まりだし、とある種の納得もリズレッタは見せている――の後をやや駆け足で続く。
その途中、一度だけテントの方を振り向き、食事の献立を考え始めた愛瑠とエクトのほかに、テントの中に居るもう一人の少女の事を少しだけ気にかけて、近くの森の中へと向かったのだった。
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