六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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皆に忌み嫌われし化け物の子
【1】
それはとても嫌な夢だった。
もう二度と見たくも、思い出したくも無い過去の出来事。
自分は人と違う存在なのだと無理矢理理解させられ、苦悩に身を焼け焦がした、言うなればルクラの唯一の“汚点”だった。
「………………」
“どうして? 何故今になって?”
拭い去るなど到底出来ない罪悪感に胸が痛む。
明かりの点いていないテントの中は真っ暗で、どうしようもない孤独感に苛まれる。
“だれか”
「……だれ、か……」
喉が渇ききって、擦れたような音が出る。
不自然に体が重くて、じっと目の前の闇を見つめるしかない。
“たすけて”
「………………」
次の言葉を口に出したら、泣いてしまうと確信した。
“たすけて”
また皆に迷惑をかけてしまうと、必死に自分に言い聞かせても、治まる気配は無い。
気付けば口は何度も、その言葉の通りに動いて。
“たすけて”
「……たす――」
「ルーちゃん。起きてるかしら?」
寸での所でテントの中に響いた声は、ルクラのよく知る少女の声。
入り口が開いて、ひょっこり顔を覗かせたのはエクトだった。
彼女と一緒に飛び込んできた月明かりが眩しくて、眼を細める。
「あ……」
「調子はどう? ご飯が出来たけれど、食べれそうかしら」
「………………」
「どうしたの? ……まだ、調子がよろしくないかしら」
「い、いえ! もう、大丈夫です。……直ぐ行きます」
身体はいつの間にか軽くなっていた。
泣いてしまう前に、彼女が此処に顔を出してくれたことに、ルクラは心の底から感謝した。
眠る前に湧き起こっていたどす黒い衝動も今やすっかり影を潜めてしまっている。
きっと治ってしまったのだろう。
「えぇ。じゃあ一緒に行きましょう」
「はい!」
差し伸べられたエクトの手をしっかりと握って、共にテントを出る。
直ぐ視界には煌々とした焚き火に、それを囲む仲間達の姿が見えた。
それを見て、ルクラは“忘れよう”と思った。
過去の苦痛は忘れ去って、今のこの幸せな一時を楽しむのだと自身に言い聞かせたのだ。
【2】
「わたしほんとは、『りゅう』の血を引いてるんです!」
「えー、ほんとう?」
「うそじゃないです! ……みんなにはないしょだよ? 『しんゆー』にだけ、見せてあげる! ……ね! ほんとはこういうかっこうで……かわいいでしょ?」
「………………」
「……? どうしたの?」
「ほんとうに、そうなの?」
「うん! ……びっくりした? でも、かっこうがちがうだけで、みんなと同じ! 何もこわくなんて――」
「……やだ」
「え?」
「そんなかっこう、変だよ。ちがう。……こわい」
「……! そんな――」
「こないでよ。……こないで」
「で、でも! みんなと変わらないんだって……知ってるでしょ!?」
「こっちに、こないで。あっちにいって」
「どうして――」
「こないでよ、ばけものっ!!!」
「………………」
「どうして……?」
「わたしは、ばけものなんかじゃない……。かっこうがちがうだけで、どうして」
「……何でそうやって、人間は差別するの? 何で、受け入れてくれないの?」
「何も悪いことなんてしてないもん。……ずっと『いい子』でいるもん。それなのに、どうして?」
「わたしが、悪いの? ……わたしがドラゴニュートだから、いけないの?……そんなはずない」
背を向けて逃げ出すかつての親友の姿を追う。
「……謝ってよ」
その手に風を集わせ、攻撃のイメージを持ちながら。
「謝って」
急激に近づく姿に向けて、集った力を――。
「謝れっ!!!」
【3】
はじめは何が起きたかわからなかった。
突然身体に強い衝撃を受けて、それから背中と頭に地面がぶつかる痛みが走って、ルクラは我に帰った。
慌てて痛む頭を上げて前を見やると、黒い艶のある髪の毛が見えた。リズレッタだと直ぐに認識する。
彼女の片手はルクラのローブの胸元にやられ、異様なまでに力を込めて生地を握り締めている。
――わたし……!
あろう事か戦闘中にその意識を夢の世界へ旅立たせていたことに気付き、ルクラは背筋が凍る思いをした。
「り、リズレッタ! わたし、わたし……ごめんなさいっ!!!」
慌てて彼女を抱き起こそうと手を伸ばし、しっかりとその手を彼女の両肩に持って行く。
「……きゃっ!?」
否、持っていこうとした。
左手に生暖かい感触が走って、思わず引き戻す。
「え……」
べっとりと付着した血液に、眼を疑う。
もう一度、リズレッタの姿をしっかりと見やる。
「……あぁ……!!!」
彼女の左肩から先が、まるで鋭い刃物で切り取られたように無くなって、真っ赤な切り口を晒し出していた。
傍の地面に無造作に投げ出された腕もすぐに視界に飛び込んでくる。
「……の……」
「リズレッタ!!!」
細かに震え、ローブを引きちぎらんばかりの強さを込めて引っ張りつつ、リズレッタは苦痛に歪んだ表情をルクラに向けていた。
「……この……馬鹿、娘……ぇ……!!!」
搾り出すように恨み言をぶつけ、そしてリズレッタは力尽きたのか、ローブを握り締める圧迫が一瞬で消え去る。
「リズレッタ!!!」
「リズレッタ殿!!!」
少し離れた場所から、あらん限りの大声でリズレッタの名を呼ぶ愛瑠とスィンの声がルクラの耳にも届いた。
リズレッタの体が、溶けていく。
全身から白い煙を噴出して、偽りの空へと消えていく。
後に残ったのは、水に湿っている彼女が身に着けていた服だけだった。
「リズレッタ……?」
残された服を何度も握り締めて、ルクラはただリズレッタの名を呼ぶ。
しかしもう、其処に彼女の姿、声は無い。
「ルーちゃん!」
「いけません姫様っ!!!」
エクトの言葉の後に続く、スィンの制止。
呆けてしまった表情で、そちらを見やれば、不安げな顔で自分を見やる愛瑠とエクト、そして彼女らを手で遮り制していたスィンの姿がある。
「スー……くん?」
「……ルクラ殿。何故あのような事をされたのです」
「え……?」
今まで見たことも無い、スィンの険しい表情。
後ろで静かに自分を見やる二人の表情も、今まで見たことの無い“不安”に染まっているのが見て取れた。
「わたし……が?」
辺りをゆっくりと見回してみる。
戦っていたはずの砂のエキュオスの姿は見当たらなかった。
しかし自分達が今立っているこの砂地には、まるで大規模な戦闘が行われたような傷跡が幾つも付けられている。
「……何故ですか、ルクラ殿。リズレッタ殿を――」
「スィン、止めなさい」
「………………」
「エーちゃん、メーちゃん……」
彼の言葉を頭の中で反芻しながら、掌に付いた血を眺める。
そして、気付いた。
「……うそ」
だが、認めたくは無かった。
「うそ……だ」
リズレッタはエキュオスにではなく。
ルクラ自身の手によって、消えてしまったのだと認められるはずが無かった。
「ちがう、わたしじゃない……わたしがやったんじゃない……」
ばけもの
あっちにいけ
頭の中に響く不気味な声の連鎖に、ルクラは耳を塞いだ。
消えてしまえ
消えてしまえ
消えてしまえ
それでも声は消えない。
血に汚れるのも構わずに、髪の毛を引っつかんで、何度も何度も頭を振った。
「ルーちゃん!」
「違う、ちがう! わたしじゃない!!!」
仲間達の声にもただ只管に否定の言葉を返すだけで、最早ルクラの耳には届いてはいないようだった。
「ちがうちがうちがう!!! ちがう――」
もう、『いい子』じゃなくなっちゃった
仲間の声の代わりに届いた声は、紛れも無く自分自身の声で。
「いやあああぁぁぁーーーーっ!!!」
意識が、白く染まっていく――。
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