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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
「こ、今度は三匹っ!?」

気持ち悪い。

その緑の存在は、一言で表すならこうだった。

頭の天辺からつま先から緑色、体躯はお世辞にも逞しいとは言えず、所謂ビール腹。

しかめっ面をした中年男のような顔つきで、それは永劫変わることが無い。

先ほどまで土の下に眠っていた存在が当然衣服を見につけているわけは無く、全裸。

そう、この存在は最初からその辺を適当に歩き回っているわけではない。

土の中に潜み、獲物が近づけば一瞬にして地上に飛び出し、襲い掛かってくるのだ。

よくみれば身体のところどころから飛び出ている茶色く細長いものは根っこで、髪の毛は草であることが判る。

信じられないが、植物の一種らしい。

――た、戦いたくないなぁ……。

もっさぁもっさぁとよくわからない、そしてあまり聞きたくない音で騒ぎまくる相手なのは、前回戦ってよく判っている。

戦い自体を好まないのもあるが、特にこの相手とは戦いを避けたい思いがルクラにはあった。

怖いわけではない。

重ねて言うが気持ち悪いのである。

視界の端にスィンが顔をしかめて、それから額を押さえて頭を振っているのが見えた。

どうやら同じ気持ちらしい。

それでも戦いを放棄するわけには行かない。

「モッサァァァァァァァァァッ!!!」

雄たけびが響き渡り、戦いの火蓋は切って落とされた。

【2】
メルが斧を力任せに振り回し、エクトの補助魔術を受けたスィンが、前回の戦闘より素早い動作で確実にダメージを与え、ルクラが後ろから魔術を用いて一匹ずつ、確実に仕留める。

突っ込みすぎた所為かメルが何度か攻撃に晒されている場面もあったが、特に苦戦することも無く戦闘は終了した。

力尽き倒れた歩行雑草達はその姿をぐずぐずに崩し、頭の草だけを残して消えてしまう。

「よくやったわ。私たちの勝利ね」

細剣を鞘に戻し、エクトが満足げに頷く。

「はい、戦利品」

メルが渡してくれた草は、ルクラには見覚えがある。

それはどう見ても街の店で無料で配られていた『おいしい草』だった。

今までの過程で食料として何度と無くお世話になった、あの草である。

「……あのお店で売られてる草って……。……今まで食べてきた草って……」

知りたくなかった事実が、今目の前にある。

――ほんとに……戦いたくなかった……。

大した怪我もなく戦いには勝ったものの、心には致命傷を負ってしまったルクラであった。

【3】
「………………」

メルがおいしい草を使って作ってくれたサラダをもぐもぐと食べる。

味は、美味いの一言に尽きる。

手作りのドレッシングが単調な味をかき消しているのもあるが、何より素材自体が美味なのである。

――でもこの草、あれの頭の上の草……。

しかし心中複雑であった。

「どう? 美味しい?」

「えっ!? あっ、はい、メルちゃん! これ、すっごく美味しいです!」

「そっか。よかった。なんかフォークがあんまり進んでないから、口に合わなかったのかと思ってね」

「そっそんなことないです! 美味しいですよ!」

メルに声を掛けられ、味を問われて、美味しいと答えた以上、『あれ』の頭の上の草を使った料理だと判っていても食べきるしかない。

そもそも不味い訳ではないのだ。

――魔法陣でも見て早く忘れよう……。

そう思いながら、ルクラはサラダを口いっぱいに頬張って、よく噛み、ごくりと飲み込んだ。

人工的な素材で作られた床の上に作ったキャンプの傍に、今まで見たことも無い魔法陣が描かれている。

あの戦いの後自然の橋を渡りきり、平原から砂地に変わった地形を東に向かった先、それが今ルクラ達が居る場所だった。

『シリウス浮ぶ河』と壁に記された文字が、焚き火の炎に照らし出されている様子を眺め、それから床に描かれた文様へと視線を動かす。

「問題なく到着できたな」

「えぇ。これからもこれぐらい順調だといいのだけれど」

「次の目的地どうするー? それとも戻る?」

傍でメル達が話しているのを聞き流しながら、ルクラはこのメンバーで始めてのキャンプに少し緊張していた。

寝相が悪くないかとか、寝言言ったりしないかとか、とにかく迷惑をかけないだろうか、と些細なことでの緊張だが、彼女にとっては大問題に等しい。

「ふむ、戻るほど疲労が溜まっているわけでもないし、できたらもう一つぐらい魔法陣を覚えておきたいんだが」

「近くに無いかしら?」

「南に下った所に一個、この壁の向こうに一個あるね。どっちを覚えに行くにしても、南に行く必要があるよ」

「ふむ、決まりだな。南に行こう」

「ねえ、それでいい?」

「ふぇっ!?」

だから突然メルに話を振られたとき、咄嗟に反応できずに間の抜けた声を上げたのも仕方の無いことだった。

――ぜ、全然聞いてなかった……!

話し合いの場で自分だけ全く話しを聞いていないことに気づいて、ルクラの顔は真っ赤に染まる。

「な、なんでしょうかっ!」

「まだ街には戻らずに、南に行くの。それでいい?」

「は、はいっ! それでいいです!」

「じゃ、決まりだね。……ボーっとしてたけど、大丈夫?」

「無理はいけないわ」

「だっ大丈夫です! ちょっと別の事を考えてて……ごめんなさい!」

「ふむ、よくある事だ。そんなに謝る事は無いだろう」

「うん。そんなに気にしなくてもいいよ」

「あはは……」

――よ、よかったぁ……。

話を聞いていなかったことを咎められなかったことにほっと胸をなでおろし、照れ隠しにルクラは笑ってみせる。

少しのことで罪悪感を生み出す、というのが彼女の欠点――そんな要素が、彼女の素直すぎるとも言っていい性格を形作っているので一概に欠点、とは呼べなかったが――だった。

悪い方向へ考えをシフトさせやすく、抱かなくてもいい畏怖を常に抱えている。

だが。

「それじゃあ、明日は南ですね! 明日も頑張りましょうね! えいえいおー!」

彼女の行動は何時だって、その畏怖に囚われて尻込みするようなものではなかった。

「「おー!」」

ルクラの鬨の声に応え、右手を高く突き上げる彼ら一行の姿は、他の冒険者にはどう映ったのだろうか。

少なくとも、何事かと顔を向け、そしてその光景に思わず頬を緩ませた冒険者が多かったことは、確かである。

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