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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
 何処までも続く青い空、そよ風が通り道にした獣道、煌めく透明な川。

 太陽が堂々輝き、眼下の冒険者達を照らし出すその様は、正に地上と変わらない。

――ほんとうに、不思議なところだなぁ……。

 道を行きながら、ルクラはそう思った。

 遺跡の中なのに、外と全く変わらない光景。

 既に辺りの人影はまばらだった。
 
――……財宝かぁ……。

 島の奥深くに眠ると云われる、財宝。

 それを求めている人間が殆どなのだから、こんな遺跡の入り口に燻るはずが無かった。

 ましてや、『自己紹介装置』に構って数時間、最早入り口の人波が完全に掻き消えてしまった頃合にようやく遺跡に侵入を果たしたのだから、尚更人など居るはずがない。

 自分の故郷にも『冒険者』なる存在はごまんと居るが、やはり彼らもこの島に訪れたら、あれだけ遺跡の入り口にひしめいて、いまやその姿を遺跡の奥深くへと進めた人々のように、目にも留まらぬ速さで遺跡を行くのだろうかとルクラは考えた。

「あ……」

 全くの無害な小鳥がすぐ傍を掠めて飛んでいったのをきっかけに、その姿を追うことに集中する。

 目もくれず蒼穹に飛ぶ小鳥の姿に、思わず笑みがこぼれる。状況が許せば何時までもここで日向ぼっこをしていたい、そう思えるほどにその光景はルクラにとって、平和だったのだ。

――……幾ら財宝が欲しいからって……。喧嘩はいけませんよね。

 時にはライバルを蹴落とすために襲い掛かる『冒険者』も居るという笑えない話もルクラは知っていた。

 しかし遺跡の探検はとにかく『無茶をしない』事を前提として行うつもりで居るから、間違ってもそんな連中と合間見えることは無い、そう思っている。

 だが、万が一が在り得ないわけではない、ということも彼女は重々承知していた。

――どうか……、そんなことありませんように、お願いします……。

 だからルクラはそっと、視線の先の光景に祈りを捧げたのだった。

 その祈りが聞き入られるかどうかは判らない。

 だが、何もしないよりもこうして、戦いや財宝探しなど全く関係無いとばかりに空を行く小鳥に祈りを託す方が、幸運が舞い降りてくれるような気がルクラにはしたのだ。

 傍にいた三人の少年少女達も、彼女の行動に倣った。

【2】
 遺跡に入るまでは一人だったルクラだが、遺跡に入ってからは四人での集団行動を行っていた。

 一人目は右側に出したブラウンのポニーテールに、同じ色の瞳、桜色のワンピースに身を包んだ少女メルこと、『愛瑠=M=エスカロニア』。

 一見すれば極普通の少女だが、その手に持った身の丈以上もある大斧が、戦う術を知っている立派な戦士であることを示していた。

 二人目は桃色の髪の毛を赤いリボンで結んだツインテール、同じ色の瞳、白のシャツに明るいブラウン色のパーカー、水色のショートスカートといった出で立ちの少女『エクト』。

 彼女もメルのように一見すれば極普通の少女に見えるが、実は普通の少女とは大きく異なる点がある。

 頭の上から飛び出た二本の桃色の触覚、その存在が彼女を人ならざる物であることを証明している。

 また、帯刀した一振りの細剣が、彼女がただ変わった外見の少女ではなく、戦う力を持った存在という評価に押し上げていた。

 最後の三人目は、深緑の髪に同じ色の瞳、蜂の巣を思い起こさせるような鎧に身を包み、深紅のマントを羽織った騎士の少年『スィン』。
 
 彼もエクトと同じように、頭の上から二本の緑色の触覚が顔を覗かせていた。

 ひと時もエクトから離れず、危険が迫れば迷い無くそのショートソードを抜き放たんと警戒しているその姿は、『従者』という言葉がぴったりと合っている。

 『無茶をせず、のんびりと遺跡を探検する』。

 という同じ志を持った、ルクラにとってはこの島に訪れてからのはじめての仲間で、友達。

 それが彼ら三人だった

【3】
 『自己紹介装置』に自己紹介をする前に、装置から発せられた沢山の人の声――それらは全て自己紹介で、友人や仲間を募っている旨の内容ばかりだった――を聞いて、ルクラは初めて、この島を共に冒険する仲間が欲しいと思った。

 この妙な物体に自己紹介して、それがきっかけで仲間や、心を許せる友達ができれば。

 そんな期待を胸に彼女は自分の紹介を始める。

 やがてそれが終わり、ぺこりと装置に向かってお辞儀をして勢いよく頭をぶつけ、痛むそこを撫でさすっていたその時に、彼ら三人は現れたのだった。

 その内の一人、メルが『自己紹介装置』を利用し始め、装置から発せられた声や、先ほど利用したルクラなどと同じように仲間を募っている姿を見て、ルクラは自分にまたとないチャンスが訪れた事を知った。

 それは仲間や友人ができるだけでなく、そして贅沢だと思っていた、『自分と同年代』という条件まで付随したまたとないチャンス。

 興奮で頬にさっと赤みが差す。

 今『自己紹介装置』を使用している一人が、成すべき事を済ませたその瞬間に声を掛けるのが、最初で最後の機会。それを逃すわけには行かない。

――こんな感じかな。ふふ、知り合いいっぱい増えるといいなぁ。

 期待に満ちた表情でメルがそう言った瞬間、ルクラはさっと近づき、そして――。

 ――元気に遺跡内を行くルクラ達四人の姿が、その後の事を何よりもはっきりと物語っていた。

 ちなみに彼らのパーティネームは『おこさまたんけんたい』。

 自分達の特徴を表し、そして自分達の行動方針をも表した名前、なのだろう。

【4】
 西に進路をとり、歩き続けたルクラ達。

 何処までも続くかと思えるほどの平和な光景にルクラが少し気を緩ませたその時だった。

 突如、前を歩いていたメルが歩みを止めた。

 何事かと問う前に、スィンがショートソードを抜き放っているのに気づき、ルクラは状況を把握した。

 魔物だ。

 一瞬にして緊張感が辺りを包み込む。

 だが、その緊張感は恐怖を呼び覚ます物ではない。寧ろやってやろう、そんな気持ちすら奮い起こす。

 一人ぼっちだった今までとは違うのだ。今は、仲間が居る。

――さぁ……何でも来なさいっ!

 宿屋の主人である老婆から貰った魔石を構え、ルクラも仲間達の視線の方向をじっと睨みつけた。

 やがて――。

「……う、うさぎさん?」

 ――二匹のウサギが怪しく眼光を発しながら現れ――。

「えっ……」

 そして――。

「えぇぇーっ!!!???」

 長閑な風景、可愛らしい――眼光は怪しいが――ウサギ二匹、それらと対峙する少年少女という絵面には似合わない、緑色の『何か』が姿を現したのだった。

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