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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
ルクラの用いる『魔術』とは、大気中に満ちる『マナ』を集わせ、術者のイメージによって力を持たせるという術だった。

「大丈夫。ルーなら上手にできるよ。『風』を思い描いてごらん?」

初めて『魔術』という存在に触れたあの頃の事が思い出される。

まだ『魔術』とは何たるものかを微塵も知らず、その発動すらできないことのほうが多かった――できたとしても、制御も何もあったものではない、とても危険な魔術だった――あの頃の事が。

――わたしが……5歳の頃だっけ。

「はは。難しく考えなくていいさ。ほら、この前皆でピクニックに行っただろう? あの時の春風は、とても気持ちよかった。覚えてるかい、ルー?」

上手くできるようになるまで、ずっと付きっ切りで教えてくれた優しい父親の姿がルクラの脳裏に蘇る。

「それを思い出してごらん。どんな風だったか……どんなふうに僕達の傍を通り過ぎていったのか」

島に訪れてから、その手段は一切通用しなくなってしまっている。

この島の『魔術』と、ルクラの故郷の『魔術』は微妙に、そして大きく違っているようで、一度はそれで苦い思いをした経験がルクラにはあった。

――お父さんの言う通りにしたら、なんだか不思議な感じがした。風が『見える』ようになった気がした。

「ルー。今自分の周りに、風が集まっているのが判るね? 今度は、風さんにお願いしてみよう。自分の思ったとおりに動いてくれますか、ってね」

どれだけ頑張っても、この島で自分の『魔術』が発動することは無かった。

見知らぬ場所で一人ぼっち、何もできないまま、帰る術を自分で見つけられないまま時間を過ごすのかと絶望した。

忘れることなどできない経験だった。

しかし今、ルクラは立派に『魔術』を行使しようと魔石に力を込めている。

【2】

「大いなる力よ」

――そうだ。

魔石に青白い光が宿る。

「わが掌中に集い」

――そうだ。

それは強さを増していく。

「形を作り意味を持ち」

――その調子だ。

それは徐々に魔石を飲み込むように広がる。

「その姿を白き光の矢に変えて」

――いける……いけるぞルー。

かと思えばそれは魔石の中心に収束し、白い一個の点となり。

「わが眼前の敵を貫け!!!」

一瞬点は静止して。

「マジックミサイル!!!」

――今だ!!!

記憶のはずの父親の声が、一瞬だけはっきりと耳に届いた気がした。

瞬間、点が消えたと思えば、それは白い矢となって、対峙する緑色の化物に向かって飛来していた。

矢は正確に化物の身体を貫き、そして――。

【3】
「ばっちりおっけーですっ!」

メルの元気な声にルクラは我に帰る。

周りに化物の姿はもう無い。

代わりに草と、肉、そしてウサギの足を模ったアクセサリーが地面に転がっている。

戦いに勝利したのだ。

そしてその勝利は、三人の仲間と力を合わせて手に入れたのだとルクラには確信できた。

魔術を使ったことにより起こる不思議な高揚感が、自分も立派に戦いに参加した事を何より物語っていたのだ。

――あの時確かにわたしは、風とお話してた。……ううん、風じゃない。『マナ』とお話してたんだ。

8年前、父親との特訓で感じた不思議な感覚の正体を、ルクラは今になって知ることになる。

そしてそれは、自分の故郷の『魔術』も、この島の『魔術』も、多少の発動方法は違えど、力の根本は同じものであるという何よりの証拠にもなったのだった。

――お父さん……ありがとう。わたし、ちゃんと『魔術』使えるよ。

今この場には居ない相手に、ルクラはそっと感謝を捧げ、そして――。

「やっ……ったぁー!」

喜びの歓声を上げたのだった。

「うさぎさんごめんなさい……。……でもなんだったんでしょう、あの緑色の変なの……?」

敵だったとはいえ小動物をやっつけたことを、肉とアクセサリーに変わってしまった相手に謝り、そして草に変わった緑色の妙な化物に対して疑問を口に出す。

ルクラはもう、すっかり余裕を持てるまでになっていた。

一種のトラウマだった経験を、完全に吹き飛ばした瞬間である。

【4】
戦闘が終わり、品物の整理を終わらせ、ルクラ達は一旦その場に腰を降ろして休憩を取っていた。

敵を倒して周りに気配が無いうちに、色々と済ませておこうという考えである。

「雑草といえどもちゃんと料理すれば……」

「わぁ……!」

「たんぽぽがアクセント。はい」

「ありがとうございます!」

メルが食材を用いて全員分の弁当を作り。

「よし、合体させるわ」

「頑張ってくださいっ!」

「ガンガンガンガン♪ 若井おさ○が真っ赤に燃えてー♪ 見ーたかー、合体ー♪」

「聞いたこと無い歌だけど……なんだかかっこいい……!」

エクトが歌を歌いながら、食材同士を掛け合わせ、全く異質なものを作り出す。

合成と呼ばれる技術で、様々な用途に使われるらしい。

完成したのは一体何に使えばいいのかわからない『どうしようもない物体』だが、話によればこれでもなかなか使い勝手が良い、とはエクトの話である。

「はい、草一個目……これが二個目」

「ありがとうございます! スィンさん!」

エクトの合成をルクラも自分の食材を用いて頼んでいたのだが、はじめは食料が足りなくなるのではないか、という懸念からエクトの誘いをやんわりと断っていた。

だが、余っているからとこうして草二つを分けてもらえることになり、ルクラも『どうしようもない物体』を一個手に入れることができた。

こうして腰を落ち着けて色々やっているのを見ていると、メルもエクトもスィンも、結構子供っぽい所があるのにルクラは気づいている。

――……よかった。みんなすっごく落ち着いてるから、ちょっと緊張してたけど……。

自他共に認める慌てんぼうであるルクラだ、故郷の同年代の友達の間でもその慌てっぷりには定評がある。

恥ずかしい思いをするのではないか、という恐れもここで解消され、最早ルクラの悩みの種は殆ど尽きてしまった。

残るは『どうやって故郷に帰るか』という悩みの種を残すばかりである。

【5】

少しの休憩を置いて、それから。

左手に川を眺めながら、ルクラ達は獣道を行く。

途中右手にぽつんと存在する森が見えたのだが、不用意に立ち入ってしまうと危険な目に遭うかもしれない、とメンバー全員の意見が一致したことにより遠巻きに眺めるだけに終わらせる。

やがて左手の川を渡れる自然の橋が見えてきたので、これを渡ろうとしたそのときである。

「……っ!?」

ここで再び、自分達に敵意を向ける何者かの出現。

しかもそれは――。

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