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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】 
 二度目の鳩の強襲は、またもルクラの勝利で幕を下ろす。

 ついさっき見たように地面に倒れ伏し、そしてついさっき見たように大きな肉の塊に変わってしまった。

 その反応にもうルクラは驚くことはない。

 正確にはそんな余裕がなかった。

 連続で行われた戦いは、彼女の体力を大きく奪い取っていたのだ。

 ぺたりと地面に座り込み、空を仰いで息をする。

 その動作の途中に周囲の気配を彼女なりにしっかりと探り、もう危険な存在が近くにいないことを悟った。

 耳元でがなり立てている自分の拍動音を聞きながら、ルクラは自分の胸に手を当てて深呼吸をし始める。

 ローブ越しからでもわかるほどの強い拍動。

 それも10回目の深呼吸で若干弱まり、15回目の深呼吸を終わらせる頃には穏やかな物に変わっていた。

 これでもルクラは、外で身体を思い切り動かし遊ぶことに慣れている。

 ドラゴンの血を血を引いている事による高い身体能力のおかげで、同年代の異性にだって負けないぐらいの体力を持っていた。

 だが、ここでの戦いはそんなルクラの体力をいとも簡単に消耗させていく。

 外で遊ぶのと、外で戦うのとでは、まるで違うのだ。

 改めて自分が選んだ道の険しさを、文字通り身をもって知ったルクラは、呼吸の調子が整った後もしばらくは座り込んでいた。

「………………」

 目を閉じる。

 何かを想うように。

 それは数分程度の物だったが、彼女の決意を揺るぎない物にするには、十分すぎる時間だったらしい。

「よしっ! 頑張ろう!」

 ルクラは自分に聞かせるように、明るく大きな声でそう言ってみせると、元気よく立ち上がった。

 目の前に落ちている肉の塊を拾い上げ、紙に包んで丁寧に鞄の中に入れる。

 そしてしっかりとした足取りで、自分のキャンプへと向かい歩いて行くのだった。

【2】
 ルクラが一人で作った小さなキャンプからは、肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってきていた。

 先ほど手に入れたばかりの肉を、調理したのである。

「えへへ……♪」

 我ながら良い出来栄えだ、ルクラはそう思って顔を綻ばせる。

 料理をしたことが無いわけではない。母親や父親の傍に立って、自分なりに手伝いをすることはよくあった。

 それでもこのように、周りに誰も居ないたった一人の状況で、食欲をそそる焦げ目まで付けて肉を焼けたというのは、ルクラにとっては今後のキャンプ生活の不安を僅かに取り除き、また僅かに楽しさをも呼び起こす。

「残ったお肉も……うん。大丈夫かな」

 焼けた肉は、手に入れた肉一個に対し大体半分ぐらいの大きさになっている。

 残りの肉はどこへ行ったのかというと、彼女が今手に持っている少し大きめな容器の中に収まっていた。

 今までルクラが見たことも無い不思議な材質でできた容器。軽くて丈夫、理想的な容器だ。

「逆さにしても大丈夫みたいだし……すごいなぁ。『たっぱー』って」

 気温は涼しい。まだ寒いぐらいだ。

 これならこの冒険の間ぐらいは、しっかり鮮度を保てるだろうとルクラは思った。
  
「それじゃあお肉の保管もばっちりですし」

 テーブル代わりの切り株の上に置かれた、紙で作られた簡易的な皿。

 その上に載った、バードステーキに再び視線を戻すルクラ。

 狐色に焼けた姿。あふれ出る肉汁。塩と胡椒だけで味をつけ、アクセントに少しのマスタードとケチャップ。美味しい草に一工夫して作ったサラダ。

 肉のいい匂いが鼻腔を刺激して、よだれが滾々と湧き出る。

 それをごくり、と飲み込み。

 椅子がないので正座をして、皿と真剣に向き合い、手に取り。

「いっただっきまーす♪」

 小さなナイフとフォークを取り出し、心底幸せそうな笑みを浮かべて食事を始めようとした――。

「……?」
 
 ――その時だった。

 なにやら、雑音が聞こえてくる。

 音の質としては、それは酷く低い。

 そして持続的に一定の高さを発し続けている。それもかなりの高速で。

 どうやらキャンプの周囲にその音の発生源があるようだった。
 
「この音……どこかで……」
 
――そんなことより食べましょうよ!

――一体なんなのか正体を探るのが先です! 魔物だったらどうするんですか!

――食事が冷めちゃう!

――安全確保!

――食事!

――安全!
 
 記憶の発掘は遅々として進まない。

 思考に潜む天使と悪魔が――というには些か可愛すぎるが――食事か、探索かを議論する。

「そう……たしか、春によく家の花壇で」

 天使と悪魔の戦いは、どうやら天使が勝利を収めたようだった。

 徐々に徐々に、ルクラの記憶が掘り起こされ、鮮明になっていく。

「……そう! ハチの羽音! 間違いないです!」

 ようやくたどり着いた結論に、ルクラは一人満足そうに頷いた。

 その答えから導き出される今の状態を考えると――。

「この近くにハチさんがいる――」

 再び止まる思考。

 それは何故か。

「え……ちょ、ちょっと待って……こんな」

 ――あまりに音が大きすぎたのだ。

 魔物だ。ルクラはそう直感した。

 このキャンプのすぐ近くに魔物が潜んでいる。

「……や――」

――もう何度も戦ったじゃないですか! わたしにだって魔物が倒せるんです! 怖がる必要なんて……無いの! さぁ、立って! 動いて!

 恐怖によってその現状を彼女は拒絶しようとした。

 だがすぐに眼を白黒させて、頭を振って、自分を叱咤する。

 反射的に震える身体を、ぴしゃりと叩く。

 杖を握り締め、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、一目散に外へ向けて駆け出し――。

「……ふぇ?」

 ――そこで意識が沈んだ。

【3】
「……ふぇ?」

 間の抜けたような自分の声に、ルクラの意識は急速に覚醒し始めた。 

 ふかふかのベッドに沈む自分の身体。

 古びた窓に天井。

 差し込む光。

「ここ……『流れ星』……?」

 目の前に広がるその光景は、つい最近彼女が部屋を借りた宿『流れ星』のものだった。

「あれ……わたし、さっき……。……あれ?」

 ベッドから起き上がり、記憶を整理しようと呟いて、彼女は再び首をかしげた。

 ついさっき、自分は何をしていたのだろうか。

 一度遺跡に潜って、それからまたこの宿に戻って、大泣きしたところまでは覚えている。

 その先が全く思い出せなかったのだ。

 不自然に抜け落ちたような、そんな感覚。

「何か忘れてるような……あれ? あれぇ……?」

 「?」が頭の上で乱舞している。

 そんなルクラの耳に遠くから届く、小さな低音の羽音。

「そう、丁度こんな音が……。もうちょっと、もうちょっと考えたら思い出せそう……」

 音は近く大きくなってくる。

「そう、こんな感じに大きな……。……大きな?」

 ふとルクラは、顔を音の方向へ向けた。

 そこには小さなミツバチが居り、ちょうど顔を向けたルクラの鼻先にぴたりと着地する。

「――――――」

 一瞬の無音。

「○△×◆▼※~!!!???」
 
 響く素っ頓狂。

【4】
「それじゃあ、行ってきます!」

「はい。行ってらっしゃい、ルクラちゃん。気をつけてね」

 朝ごはんをしっかり頂いて、ルクラは宿【流れ星】の主である老婆に元気よく声を掛けた。

 旅立つには良い天気だ。

「はい! 何日か遺跡の中でキャンプするので、暫く会えませんけど……。おばあさんも、身体に気をつけてくださいね! 最近寒いですから!」

「えぇ、ありがとう。忘れ物はありませんか?」

「大丈夫です! キャンプの道具に、食べ物に……おばあさんからの贈り物も、ほら!」

 鞄からルクラは、一冊の薄い本と、拳大の石ころを取り出して見せた。

 それは『命術』と呼ばれる術の基礎が書かれた本に、『魔石』と呼ばれる石だった。

「遺跡でお勉強して、身に着けてきます!」

「貴方なら大丈夫。きっとすぐに覚えられるし慣れ親しめると思うわ。……気をつけて行くんですよ」

「はい! ……行ってきます!」

 ぎゅっと抱擁を交わして、名残惜しそうに離れてから、二人は笑みを浮かべ。

 ルクラは踵を返し、町の中央へ向かって駆け出した。

【5】
「わぁ……。人が一杯です」

 遺跡の入り口は、大混雑していた。

 数え切れない人の山。それら全てがこの一つの遺跡を目指しており、流れは一つだった。

「今入ろうとしたら怪我しちゃうかな……」

――あれだけ混雑してるから普通の人でも危ないだろうし……、それにわたし背が――。
 
「……子供ですから気づかれにくいですもんね」

 理論的な思考を途中で思いっきり叩き切り、感覚的な思考に無理矢理切り替えるルクラ。

 遺跡を遠巻きに眺める彼女の姿は、とても小さい。

 本来の年齢より半分以上下に見られるほどなのだ。

 彼女はそれをとても気にしている。

 だからちゃんと物事を分析して考えられたはずの、『混雑した人ごみの中に自分が行くとどうなるか』という問題の思考を無理矢理に切り替えたのだ。

 何故だかそれが恥ずかしくて、ルクラはふいと視線を逸らした。

「……あれ?」

 そしてその先に、奇妙な物体が置かれているのに気づいた。

 銀色の四角いそれは、途中からすっぱり刃物で切られたように斜めの切り口を晒しており、その上には透明で光り輝く板が浮いている。

 四角いボディにぺたぺたと張られた紙にはこう書いてあった。

――遺跡探索の同志を探そう! 自己紹介装置。

「……じこ、しょうかい、そうち?」

 その物体が何かを説明しているのだろうが、いまいち意味がわからない。
 
――でも、あんなに混んでるし、何もしないよりはいいかな……。

 ルクラはそう思って、自己紹介装置へと近づくのだった。

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