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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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届け眠り姫の下へ
 
 
【1】
“アマノガワ”と呼ばれる巨大な光の帯は、街の灯があまり届かないここ、宿“流れ星”へと続く道ではよく見える。
しばし頭上の届かぬ場所にあるそれらを眺めながら、四人はやってきた。
そしてその先に広がる光景に、思わず息を呑んだのである。
 
「これは……」
 
庭に設置されていたテーブルも椅子も日除けも全て隅の方へ追いやられ、庭は本来の広さを取り戻していた。
この宿に住む主は、なかなか裕福な生活を送っているのだと改めて認識させられる。
しかし今は、庭の広さに気を取られる暇は無かった。
 
「魔方陣のようですね」
 
レオノールが呟いた言葉に、ルークが返す。
冷静に返事を返してはいるが、彼の視線も目の前にある魔方陣に釘付けになっていた。
いま、庭には淡く輝く文様が刻み込まれていた。その殆どを占領するほどに巨大な魔方陣である。
 
「あっ! おばーちゃん!」
 
その魔方陣の中で、彼らも良く知るこの宿の主である老婆が何かをしているのを見て、リーチャが声を上げて小走りに近づいた。
どうやら老婆は、皮袋の中からきらきらと光を受けて反射する色の付いた粉をあちこちにうず高く盛っているようだった。
赤、青、黄色、緑、そして白色と五種の粉の山。
 
「あぁ……来て頂けたんですね、皆さん。こんな時間に、ごめんなさいねぇ……」
「あの……ルクラちゃんを助けるって本当なんですか!?」
 
リーチャの問いに、老婆はゆっくりと肯いて見せた。
しかし、至極真面目な顔つきで言葉を続ける。
 
「……これは、賭けになるわ。必ず助けられるという保障は、どこにも無い」
「そんな……!」
「でも、私は必ず助けられると信じています……。あの子の事を想う人が、沢山いるのだから、きっと」
 
そこまで言って、老婆はふっと顔に笑みを浮かべた。
それはティアには、リーチャや自分達だけではなく、老婆自身にも向けられていた様な気がしてならなかった。
笑みの中に見える瞳の光には、過剰なまでに力が篭っている。
老婆の感情がとても張り詰めている事を察知したのだ。
多少なりとも知識は持ってはいるが、この老婆が何をしようとしているのかまではティアにも判らない。
だから下手に言葉をかけて緊張を高めるよりも、今は黙っているほうがいいだろうと彼女は判断する。
 
「準備はできたみたいですわね」
 
その声に振り返ると、リズレッタが立っていた。
いつもの様にその感情が窺い知る事の出来ないどこか冷めた様な表情で、老婆や呼ばれた四人の客人たちを眺めている。
 
「……えぇ。いつでも、できますよ」
「では始めましょう。……連れて来て頂戴?」
 
リズレッタが自分の後にそう声を掛けると、宿の影からルクラを抱き抱えたスィンが現れ、その後にエクトや愛瑠達が続いて現れる。
スィンはゆっくりと慎重に、ルクラを抱き抱えたまま魔方陣の中央まで行き、そしてそこに彼女を降ろした。
 
「何か手伝えることは無いのか?」
 
じっとその様子を見守っていたレオノールが、悔しそうな様子を隠そうともせずそう言葉を発した。
老婆はそんな彼女の顔をじっと見つめて、小さく肯く。
 
「……皆さん、手を繋いで頂けますか」
「手を……?」
 
老婆の指示にレオノールたちはきょとんとした表情を見せるが。
 
「いいから、いいから」
 
愛瑠が彼らの間に飛んできて、指を一生懸命に引っ張って手を繋ぐように促す。
彼女に倣う様にめるやスィンやエクトも手を繋ぎ始めた。
 
「……皆さんには、願っていただきたいのです」
 
魔方陣の外に出て、手を首の後ろに回しながら老婆は言った。
再び手を前に戻した時、その手の中には古ぼけた銀製のペンダントが収まっていた。
竜の姿を模った、ペンダント。
 
「……あの子達の、無事を」
 
布に包まれた壊れたバングルを取り出しているリズレッタの姿を見つめ、老婆は言った。
 
「始めなさい」
 
布を捨て去り、バングルを直接リズレッタは掴んでいた。
余程の苦痛が彼女を襲っているのか、時たまその表情は歪んでいる。
 
「では……皆さん。始めます」
 
老婆がペンダントを固く握り締め、何かに祈るような仕草を見せた。
それと同時に、淡く輝くだけだった魔方陣が急にその輝きを増す。
そして、ゆっくりとルクラは宙に浮き始めたのだった。
 
【2】
 
相も変わらず、今にも涙を流しそうな表情で眠り続けている。世話の焼ける小娘だ。
お人好で、悪意の欠片も無い、莫迦な小娘。あれだけ自分に大口を叩いたというのに――。
 
……あぁ、そうか。

まだ、この小娘は思い出していないのだった。

本当に莫迦な小娘だ。ずっと思い出すのを待ってやっているのに、何時まで経っても思い出さない。

このまま永遠に、思い出すことなく命の火を消すつもりか?
 
 
……そんなこと許しはしない。思い出させてやろう。
口に出したことはやり遂げてもらう。このままでは逃さない。
機は熟した。この力全て、最後の一滴まで、お前にくれてやる。その代わり、絶対に――

絶対に、連れ帰ってやる!
 
 
壊れたバングルを、リズレッタはルクラの右手首にそっと嵌めた。
破壊された部分が、氷によって補われていく。
形が氷で補われていくにつれて、リズレッタは自分の力が吸われて消えていくのを感じた。
感覚が消え、聴覚が消え、そして最後に視覚が消える。
それでも彼女は止めることは無い。
最後の一滴まで、バングルに注ぎ込んだその瞬間。
 
「……あなたは、だぁれ?」
 
真っ暗に染まった視界の中、その目の前に一人の少女が現れたのだった。
 
【3】
「おかしいな、だれも入れないようにしてたのに」
 
少女はそう言いながら首をかしげ、白い翼と尻尾を無造作に動かした。
 
「みたことない、おねえちゃんだね。なにしにきたの?」
 
明るい黄色、細長い瞳孔の瞳はさながら蛇のそれで、じっと少女はリズレッタを見つめている。
しばしそんな少女の様子を無視しながら、体の異常が特に無いことを確認し終えたリズレッタは、改めて少女を眺める。
少女は驚くほどルクラによく似ていた。
もう少し彼女が幼くなれば、ちょうどこんな感じなのだろうと容易に想像が付く。
それほどまでに似ている。
ただ、一つだけ決定的な違いがあった。
その表情は、疑心暗鬼に満ち溢れている。
全てを恐れて、頑なに近づけようとしない様子が見て取れる。
 
「ねぇ、こたえてよ。おねえちゃんは、なにしにきたの?」
「……起こしに来たのですわ」
「おこしに? だれを?」
「延々と眠り続ける莫迦な小娘を一人」
「ふーん」
 
興味なんて無い、とでも言うかのようにそう返して、少女は自分の尻尾を弄んでいる。
 
「此処は何処ですの?」
「ここはわたしのへやだよ」
「こんな暗い場所が?」
 
辺りを少女は見回して、それからこくりと肯いた。
 
「そうだよ。ずーっとここにいるの。わたしはいたくないのに、だしてくれないんだ。……つまんないばしょだよ」
「何故出してもらえないのかしら?」
「『めいわく』がかかるから」
 
道端に転がった小石を蹴る様な仕草を見せながら、少女は続ける。
 
「ひどいよね。わたしをおいていって、あのこはひとりでいっちゃった。『めいわく』だなんていうのも、あのこがかってにきめたこと。……でも、いいの。あのこはまちがってたことにきづいて、ここにかえってきたんだから」
 
にっこりと少女は笑う。
陰のある、嫌な笑みだった。
 
「……っ!」
 
その後に、巨大な鳥籠のような場所に囚われているルクラの姿が浮かび上がる。
笑みを浮かべたままの少女を無視して、リズレッタは一目散にその場所へと駆け寄った。
 
「ちょっと……!」
 
その巨大な鳥籠には入り口がなかった。
何処からも入ることが出来ない巨大な籠。
 
「痛っ……!」
 
籠に手を掛ければ、何処からか蔦が伸びて、邪魔をする。
蔦に生えた棘がリズレッタの手を傷つけた。
 
「あかないよ」
 
あざ笑うかのように、少女は後から面白そうに声を掛けてくる。
それが無性に腹立たしくて、リズレッタは少女を睨み付けた。
 
「……どういうことですの」
「あのこがじぶんでつくってじぶんではいってるんだよ」
 
蔦に覆われてしまった籠の中、少ししか見えなくなったルクラは、泣いているようだった。
 
「ごめん……なさい……ごめんなさい……ゆるして……ゆるして……」
 
すすり泣くような声で、壊れたようにただひたすらに誰かに許しを請うている。
 
「わるいことしたら、はんせいしなきゃいけないもんね」
 
面白そうにそれを眺めている少女をもう一度睨み付けて、リズレッタは再び巨大な鳥篭と対峙する。
 
「此処を開けなさい! 何時までも莫迦みたいに泣いてどうするというの!」
「わたしは悪い子です……反省してます……ゆるして……ゆるしてぇ……」
「あぁもう! 聞こえないの!?」
 
思わず鳥篭に掴みかかって、また蔦に邪魔をされていくらか血を零す。
 
「どんなに『良い子』でいたってわたしは『化け物』なんだから。だれともなかよくなんてなれない。なのにこのこは、それをみとめずに、わたしをおいていったんだ」
 
「だれにもきらわれたくない。だれもきらいたくない。だれからもあいされたい。だからずっといいこでいる。でも、むりだったね。けっきょくだれかをきずつけて、いいこじゃなくなっちゃった。なんねんもわたしをここにとじこめて、けっきょく、こんなけっか」
 
「ばかみたい。もうずっと、そこでないていればいい。どれだけはんせいしたって、もうここからはでられない」
 
少女が鳥篭に近づく。
そして、邪魔をされることなく、すっと鳥篭の中へと入っていく。
泣き続けるルクラを抱きしめた。
 
「もういいじゃない。このままずっとここにいよう? ずっと『反省』していよう? ずーっと――」
 
何かが強烈な勢いで鳥篭に叩きつけられる、凄まじい音が響いた。
音の方向へ少女は視線を向けて、そして顔をこわばらせる。
 
「……勝手なことを、いつまでも無駄に喋るんじゃありませんわ、小娘。……切り刻みますわよ?」
 
叩き付けた衝撃に耐え切れず飛び散った氷のナイフの残骸をぐしゃりと握り締めて、殺意の篭った視線を少女に向けるリズレッタが、そこに居た。

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