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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 誰も立ち入ることは出来ぬ
 
【1】
老婆は椅子に腰掛けて静かなままを保っている。
その呼吸すら限りなく無音に近づけるかのように、ただただ静か。
視線はどうやら定まっていないようだった。
彼女の見る光景は日の光に満ちた世界。
開け放たれた窓。
そよ風にはためく紺色のカーテン。
そしてベッドの中で眠る、一人の少女。
他の誰でもない、その少女はルクラ=フィアーレ。
彼女は眠っていた。
呼吸一つせず、死んだように眠っていた。
 
「……お嬢さん……」
 
悲しみに満ちた声色は、涙を流す一歩手前でどうにか耐えている事を物語っている。
こうして声を掛けるのも最早何度目か、老婆は覚えてなどいない。
何度声を掛けても、ルクラは身じろぎ一つすること無かった。
いまや老婆の目にもはっきりと見える白い竜の翼に、布団から僅かにはみ出しだらりと垂れ下がっている尻尾も、ピクリと動こうともしない。
 
「『封印』、ですわ。それも飛び切り強力な。……貴女にも勿論、わかるでしょう?」
「手に負える代物じゃありませんわ。……貴女は勿論、このわたくしでさえも、足元にも及ばない。俗な言い方をすれば『神に等しい力』とでもいうのかしら」
「この娘自身が解くしかない。けれど……」
 
リズレッタの言葉が頭の中で蘇り、そして変わりもしない状況が目に映り、老婆の中には『絶望』の二文字しか浮ばなかった。
横たわるルクラの頬は、少し痩せこけていた。
 
【2】
「ルーちゃん、大丈夫かな」
 
唐突にポツリと愛瑠が呟いて、他の三人は表情を固くした。
話題が尽きて、無言の状況だった中に放り込まれた新たな、今現在最も彼女らが気がかりであろう話題だったので、正確には唐突というよりは必然であり、そしてその表情の硬さもより一層増したようなものだった。
彼女達が囲むテーブルの上には更に乗せられたいくらかのクッキーに、そして人数分のカップ&ソーサーにココアが注がれている。
だが、そのどれにも、誰もが口をつけてはいない。
ここは愛瑠が部屋を取っている小さな宿。
彼女達は今後の予定を相談しあっていたのだった。
議題は専ら探索の“中断”か“続行”の二者択一で、そして答えはまだ出ていない。
簡単に答えが出るような問題ではないのだ。そしてその問題を抱えることになった原因である出来事に、誰もがまだ戸惑いを隠せていないのだから当然だった。
初めは湯気が立っていたカップも最早冷め切って、ココアの表面には膜が張っていた。
 
「大丈夫ですわ。心配など必要ありませんの」
 
沈黙を破ったのは、リズレッタだった。
 
「此処で止まる必要性は見出せませんわ。確かにあの娘が寝こけていることでの戦力低下は否めない、けれどそれだけで中断をする理由にはなりませんの」
「でも」
「それに――」
 
反論しかけた愛瑠を留めて、リズレッタは眼を閉じつつ言葉を続ける。
 
「あの娘のことですわ。もし此処で中断の選択肢を取った事を目覚めた後に知れば、自分の所為だと鬱陶しい事この上ないことになるのは明白。中断は長い目で見ればお互いに損だと思うのだけれど?」
「ルクラ殿は目覚めてくれるのですか、リズレッタ殿?」
「今すぐに、とはいかないでしょう。けれどいずれは。命に別状はありませんし……あの宿の主にならば全面的に任せても大丈夫だと思いますわ。……わたくしは『続行』を推しますの」
 
それを聞いた三人は、しかしまだ悩んでいるようだった。
あまりリズレッタにとっては、好ましくない態度であり状況だ。
もう少し強めに切り出すべきかと溜息をついたその時。
 
「あら。どうしたの口もつけないで」
「あ、おばさま」
 
不思議そうな顔でやってきたのはこの宿の主である女性だった。
自分が用意した品が全く減ってもいない事に首をかしげている。
 
「ちょっと、相談してて」
「だから皆難しい顔をしてたのね。……よければ相談に乗りますよ?」
 
愛瑠の言葉に納得したように頷き、そんな返事を返し。
 
「……うん。よかったらおばさまにも聞いてほしい、です」
 
“いいよね?”といった表情の愛瑠に他の三人も軽く頷いてみせる。
新たに椅子を一つ持ってきて、宿の女主人は彼らの輪の中に加わった。
そして愛瑠から事情を一通り聞き終え、彼女は少し考える様子を見せた後“そうね”と前置いて切り出す。
 
「私も彼女と同じ意見かしら。つまり『続行』」
 
リズレッタを見つつ。
 
「その子の事はあなたからもよくお話を伺っていますからね。目覚めて、探検がその間中断して居たことを知ると酷くショックを受けるんじゃないかと思うわ。あなたを迎えに来た時の数えるほどしか会ってないし、話したのも少しだけだけれど、あの子はそんな性格の気がするのよ。……みんなのほうがよくわかっているんじゃないかしら?」
 
リズレッタ以外は顔を見合わせて、それからゆっくりと頷いた。
此処まで一緒に旅をしてきたのだ、大方それぞれがどのような人物かはみな看破している。
そして何よりルクラは人一倍“判りやすい”人物でもあった。
目覚めて、探検をその間中断をしていたことを知れば、動揺して泣きながら謝って来る、そんな光景すら目に浮ぶ。
 
「とても心配なのもよくわかるわ。だってみんなの仲間、お友達ですものね。けれど、ここで立ち止まるのは彼女の言う通りお互いにとってためにならないと思うの」
 
愛瑠を見やる女主人。
彼女の事情を一番知っているからこそだろう、口には出さないが、“ためにならない”という言葉はどうやら主に愛瑠に向けられているようだった。
“だから”と続けて。
 
「ここは探検を続けて、少しでもあの子に変な負担をかけないようにする道を選ぶべきだと思うわ。勿論この道だって全く彼女に罪悪感を植え付けないわけではないけれど、探索を中断するよりはきっと少ないと思うの。少しでも彼女が戻りやすい環境を維持しておくべきだというのが私の意見ね」
「戻りやすい、環境……」
「彼女が居てこそ……誰一人欠けずにいられる事こそが一番。……そうみんなが思っているから、こんなにも難しい顔をして悩んでいるのでしょう? 苦しい探検になるかもしれない、だけど後々に良い方向に生きるのは探索の続行をすることだと思うわ。『彼女が居ないと』っていう思いを、それこそみんなが身をもって経験して、目覚めた彼女に伝えることが出来るのだから」
 
再び、リズレッタ以外の三人は顔を見合わせた。
ラジオから小さく流れてくる音楽だけが無言となったその場を支配する。
 
「……決めた」
「……そうね」
「ふむ」
 
何処かほっとした表情になった三人は、
 
「続けよう」
「続けましょう」
「続行だ」
 
一斉にそう口に出して、意見を完全に一つに纏め上げたのだった。
 
「では、決まりですわね」
 
その様子を横目で見ながら、リズレッタはココアに出来た表面の膜をスプーンで取り払い、そしてカップに口をつけて味わう。
 
「………………」
 
泥水のような味に顔をしかめかけたが、なんとかポーカーフェイスを装う。
急速な再生のためとはいえかなりの無茶をしたお陰で、味覚が壊れているのをすっかり忘れてしまっていたのだ。
これが元に戻るには、まだ時間が必要だった。
やや大きな音を立ててカップを戻し、その動作の間に無理矢理喉の奥にココアを流し込んでおく。
 
「頑張ってらっしゃい。……ぼろぼろになって帰ってこないようにね」
「うん。……何だか決まったらお腹が空いてきちゃった」
 
愛瑠はひょいと皿の上のクッキーに手を伸ばし、そしてかじりつく。
さくさくという音を響かせておいしそうに食べる彼女を見て、エクトとスィンも彼女に倣うように皿の上に手を伸ばした。
 
【3】
 
町外れの小高い丘の上で、リズレッタは一人で居た。
既に日は落ち空には星々が、地には街の灯が煌々と輝いている。
その光景を無感動に眺めつつ、リズレッタはじっと時間が過ぎるのを待っていた。
 
「………………」
 
今頃宿の老婆は一人寂しく食事をして居るに違いない。
だが帰ろうという気にもならなかった。
何を口に入れても腐ったような、泥水のような味しかしない今、無理に食事を取る必要も無いリズレッタは暫く断食を老婆に申し出ていたし、夕食の時間に帰る理由も無いのだ。
だから帰らない。
 
「……建前ですわね」
 
立って眺めていた風景を座り込み、膝を抱えて眺める。
宿に帰らない、“帰りたくない”理由はもっと他にあった。
言うまでもなくそれは、ベッドの中で眠っているルクラの存在にある。
 
「……あぁ、もう」
 
苛々する。
自分で自分を封じ、目覚めることの無い眠りについた彼女の姿を見ているだけで無性に腹が立って仕方が無かった。
今の彼女の存在を目にするだけで、彼女を手にかけたいほどの怒りの炎がたぎるのだ。
だから帰りたくなかった。傍に居たくなかった。
だから、あの時愛瑠たちにも強く探索の続行を推したのだ。
 
「本当に、なんて娘なのかしら」
 
懐から取り出した布の塊を解き、露にしたのは壊れてしまったルクラのバングル。
はめ込まれた宝石は無傷のままだが、本体になる銀の輪は何か強い力によって引き千切られたようになってしまっている。
手に持っただけで伝わる不快感。
破壊された状態でも十分すぎるほどの感覚に、リズレッタは再び布を巻いて懐へ仕舞った。
壊れてしまう前のこれは、一体どれほどの力でルクラの力を封じていたのか想像もつかない。
 
【4】
あの時、リズレッタは今まで感じたことの無い感情を覚えた。
それは”恐怖”だった。
圧倒的な力を前に、本能的に自らを弱者に位置づけてしまったのだ。
今思い返しても、身震いがする。
喰い止めようと飛び掛ることができたのがまるで奇跡のようだと思い、自分が奇跡などと言う下らない単語に頼っていることに気付いて苦笑する。
其れが結局、ルクラを確実な死に追いやる原因になったのではないかと思い、その苦笑は一瞬で消え去った。
そして再び彼女の感情を埋め尽くすのは得体の知れない怒り。
 
「……あぁ、もう!」
 
手近な雑草を力任せに引き抜いて、空に向かって投げ捨てた。
 
命に別状はありませんし……
 
 
彼女は愛瑠達に一つ嘘をついた。
本当はこのままいけば、ルクラは死ぬのだ。
そう遠くない未来に、確実に死ぬ。
宿の主人である老婆もそれは気付いている。
封印状態にも拘らず徐々に衰弱しているのは、封印を施した本人が“自らの死”を望んでいる証拠だった。
救う手立ては、見つからない。
何度考えてみても変わらない現実に、リズレッタは何故だか胸が痛くなった。
得体の知れないそれに顔が歪む。
だから膝を抱えて、その間に顔を埋めて、また只管に時間が通り過ぎるのを待つことにした。

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 皆に忌み嫌われし化け物の子
 
 
【1】
それはとても嫌な夢だった。
もう二度と見たくも、思い出したくも無い過去の出来事。
自分は人と違う存在なのだと無理矢理理解させられ、苦悩に身を焼け焦がした、言うなればルクラの唯一の“汚点”だった。
 
「………………」
 
“どうして? 何故今になって?”
 
拭い去るなど到底出来ない罪悪感に胸が痛む。
明かりの点いていないテントの中は真っ暗で、どうしようもない孤独感に苛まれる。
 
“だれか”
 
「……だれ、か……」
 
喉が渇ききって、擦れたような音が出る。
不自然に体が重くて、じっと目の前の闇を見つめるしかない。
 
“たすけて”
 
「………………」
 
次の言葉を口に出したら、泣いてしまうと確信した。
 
“たすけて”
 
また皆に迷惑をかけてしまうと、必死に自分に言い聞かせても、治まる気配は無い。
気付けば口は何度も、その言葉の通りに動いて。
 
“たすけて”
 
「……たす――」
「ルーちゃん。起きてるかしら?」
 
寸での所でテントの中に響いた声は、ルクラのよく知る少女の声。
入り口が開いて、ひょっこり顔を覗かせたのはエクトだった。
彼女と一緒に飛び込んできた月明かりが眩しくて、眼を細める。
 
「あ……」
「調子はどう? ご飯が出来たけれど、食べれそうかしら」
「………………」
「どうしたの? ……まだ、調子がよろしくないかしら」
「い、いえ! もう、大丈夫です。……直ぐ行きます」
 
身体はいつの間にか軽くなっていた。
泣いてしまう前に、彼女が此処に顔を出してくれたことに、ルクラは心の底から感謝した。
眠る前に湧き起こっていたどす黒い衝動も今やすっかり影を潜めてしまっている。
きっと治ってしまったのだろう。
 
「えぇ。じゃあ一緒に行きましょう」
「はい!」
 
差し伸べられたエクトの手をしっかりと握って、共にテントを出る。
直ぐ視界には煌々とした焚き火に、それを囲む仲間達の姿が見えた。
それを見て、ルクラは“忘れよう”と思った。
過去の苦痛は忘れ去って、今のこの幸せな一時を楽しむのだと自身に言い聞かせたのだ。
 
【2】
「わたしほんとは、『りゅう』の血を引いてるんです!」
「えー、ほんとう?」
「うそじゃないです! ……みんなにはないしょだよ? 『しんゆー』にだけ、見せてあげる! ……ね! ほんとはこういうかっこうで……かわいいでしょ?」
「………………」
「……? どうしたの?」
「ほんとうに、そうなの?」
「うん! ……びっくりした? でも、かっこうがちがうだけで、みんなと同じ! 何もこわくなんて――」
「……やだ」
「え?」
「そんなかっこう、変だよ。ちがう。……こわい」
「……! そんな――」
「こないでよ。……こないで」
「で、でも! みんなと変わらないんだって……知ってるでしょ!?」
「こっちに、こないで。あっちにいって」
「どうして――」
「こないでよ、ばけものっ!!!」
「………………」
「どうして……?」
「わたしは、ばけものなんかじゃない……。かっこうがちがうだけで、どうして」
 
 
 
「……何でそうやって、人間は差別するの? 何で、受け入れてくれないの?」
「何も悪いことなんてしてないもん。……ずっと『いい子』でいるもん。それなのに、どうして?」
「わたしが、悪いの? ……わたしがドラゴニュートだから、いけないの?……そんなはずない
 
背を向けて逃げ出すかつての親友の姿を追う。
 
「……謝ってよ」
 
その手に風を集わせ、攻撃のイメージを持ちながら。
 
「謝って」
 
急激に近づく姿に向けて、集った力を――。
 
「謝れっ!!!」
 
【3】
はじめは何が起きたかわからなかった。
突然身体に強い衝撃を受けて、それから背中と頭に地面がぶつかる痛みが走って、ルクラは我に帰った。
慌てて痛む頭を上げて前を見やると、黒い艶のある髪の毛が見えた。リズレッタだと直ぐに認識する。
彼女の片手はルクラのローブの胸元にやられ、異様なまでに力を込めて生地を握り締めている。
 
――わたし……!
 
あろう事か戦闘中にその意識を夢の世界へ旅立たせていたことに気付き、ルクラは背筋が凍る思いをした。
 
「り、リズレッタ! わたし、わたし……ごめんなさいっ!!!」
 
慌てて彼女を抱き起こそうと手を伸ばし、しっかりとその手を彼女の両肩に持って行く。
 
「……きゃっ!?」
 
否、持っていこうとした。
左手に生暖かい感触が走って、思わず引き戻す。
 
「え……」
 
べっとりと付着した血液に、眼を疑う。
もう一度、リズレッタの姿をしっかりと見やる。
 
「……あぁ……!!!」
 
彼女の左肩から先が、まるで鋭い刃物で切り取られたように無くなって、真っ赤な切り口を晒し出していた。
傍の地面に無造作に投げ出された腕もすぐに視界に飛び込んでくる。
 
「……の……」
「リズレッタ!!!」
 
細かに震え、ローブを引きちぎらんばかりの強さを込めて引っ張りつつ、リズレッタは苦痛に歪んだ表情をルクラに向けていた。
 
「……この……馬鹿、娘……ぇ……!!!」
 
搾り出すように恨み言をぶつけ、そしてリズレッタは力尽きたのか、ローブを握り締める圧迫が一瞬で消え去る。
 
「リズレッタ!!!」
「リズレッタ殿!!!」
 
少し離れた場所から、あらん限りの大声でリズレッタの名を呼ぶ愛瑠とスィンの声がルクラの耳にも届いた。
リズレッタの体が、溶けていく。
全身から白い煙を噴出して、偽りの空へと消えていく。
後に残ったのは、水に湿っている彼女が身に着けていた服だけだった。
 
「リズレッタ……?」
 
残された服を何度も握り締めて、ルクラはただリズレッタの名を呼ぶ。
しかしもう、其処に彼女の姿、声は無い。
 
「ルーちゃん!」
「いけません姫様っ!!!」
 
エクトの言葉の後に続く、スィンの制止。
呆けてしまった表情で、そちらを見やれば、不安げな顔で自分を見やる愛瑠とエクト、そして彼女らを手で遮り制していたスィンの姿がある。
 
「スー……くん?」
「……ルクラ殿。何故あのような事をされたのです」
「え……?」
 
今まで見たことも無い、スィンの険しい表情。
後ろで静かに自分を見やる二人の表情も、今まで見たことの無い“不安”に染まっているのが見て取れた。
 
「わたし……が?」
 
辺りをゆっくりと見回してみる。
戦っていたはずの砂のエキュオスの姿は見当たらなかった。
しかし自分達が今立っているこの砂地には、まるで大規模な戦闘が行われたような傷跡が幾つも付けられている。
 
「……何故ですか、ルクラ殿。リズレッタ殿を――」
「スィン、止めなさい」
「………………」
「エーちゃん、メーちゃん……」
 
彼の言葉を頭の中で反芻しながら、掌に付いた血を眺める。
そして、気付いた。
 
「……うそ」
 
だが、認めたくは無かった。
 
「うそ……だ」
 
リズレッタはエキュオスにではなく。
ルクラ自身の手によって、消えてしまったのだと認められるはずが無かった。
 
「ちがう、わたしじゃない……わたしがやったんじゃない……」
 
ばけもの

あっちにいけ
 
頭の中に響く不気味な声の連鎖に、ルクラは耳を塞いだ。
 
消えてしまえ
消えてしまえ
消えてしまえ
 
それでも声は消えない。
血に汚れるのも構わずに、髪の毛を引っつかんで、何度も何度も頭を振った。
 
「ルーちゃん!」
「違う、ちがう! わたしじゃない!!!」
 
仲間達の声にもただ只管に否定の言葉を返すだけで、最早ルクラの耳には届いてはいないようだった。
 
「ちがうちがうちがう!!! ちがう――」
 
もう、『いい子』じゃなくなっちゃった
 
仲間の声の代わりに届いた声は、紛れも無く自分自身の声で。
 
「いやあああぁぁぁーーーーっ!!!」
 
意識が、白く染まっていく――。

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 マナ
 
 
【1】
「少し良いかしら? ……あぁ、手は止めなくても結構ですの。そのままお互い仕事を続けながら」
 
地面に落ちた枯れ枝や、時には小枝を刈り取りつつ、リズレッタとスィンの二人は着々と作業を続けていた。
薪を入れる袋はすでに半分も埋まっている。
 
「この島に来て、何か奇妙だと思ったことはなくて?」
「……ふむ。奇妙ですか」
 
スィンはばらばらと薪を袋の中に落としこんでから暫く考える素振りを見せて、それから作業に戻った。
 
「挙げればキリはありませんよ、リズレッタ殿。遺跡の内部、其処に巣食う連中――」
「異常に成長する自身の技量」
「……ふむ。言われて見れば」
 
挙げだした内容に最も求めるべき其れがないため、割り込んで付け足してみると、彼はもう一度考える素振りを見せ、それから剣を抜き放ち小枝をばらばらと切り落とした。
 
「特訓をしながらも少々感じていたのですが……姫様の技量が目覚しいほど成長している気がしていました。無論、私も自身の力が上がっていると」
「他の娘達はどうかしら?」
「愛瑠殿にルクラ殿ですか。……そうですね。初めて出会い、こうして此処まで共にやってきましたが……『見違えた』という言い方が最も合っているでしょうか」
「あまりにも早すぎると思わなくて? 年端も行かぬ子供達が、熟練した戦士や魔術士のような真似を軽々とやってのけている。貴方達の常識では、其れが普通かしら?」
 
氷のナイフで太い枝を、まるでプリンのように軽々と細く切り裂いて、リズレッタは袋の中にそれを纏めて突っ込む。
 
「……この短期間でここまで、と言うのは少し考えられませんね。長い時間、地道な訓練を重ね技量を磨く。其れが強き騎士の絶対条件のようなものです」
 
“この前契約したばかりの火の精霊も”と前置いて、スィンは掌の上に紅蓮を生み出し、そして握りつぶした。
 
「姫様に比べれば、私の精霊の使役技術など取るに足らないものです。しかし……既に此処までできるようになった。姫様にいたっては、もっと強い力を行使できる状態です。……思えば、この島に来てからです。リズレッタ殿の言う通り」
「『マナ』をご存知かしら」
「『マナ』? ……あぁ、ルクラ殿が以前話してくれました。目には見えませんが、彼女の術の行使に必要不可欠な物だとか。『故郷のとは性質が少し違う』ともルクラ殿は仰っていましたね」
「もし其れが、術の発動以外に何かわたくし達に影響を及ぼしているとすれば?」
「……ふむ」
 
スィンは袋に枝を放り込んだついでに持ち上げて、何度か持ち上げて地面に落とし容量を増やしつつ。
 
「つまり、その『マナ』が私達の成長にも大きく関わっていると云いたいのですね」
「話が早くて助かりますわね」
 
にっこりリズレッタが微笑みかけるが、表情一つ変えないスィン。
たまに彼の云う『姫様』がその性格をネタに話しているが、なるほど話し通りだと思った。
 
「メリットだけがあるように見えて?」
「今のところは。……しかしリズレッタ殿は、デメリットをご存知のようですね」
「えぇ。だからわたくしは一切『マナ』を触れさせていませんの。……どうやってかは省きますわ。あまり関係のないことだし、それを貴方達に施す術もありませんもの」
「そのデメリットとは?」
「『暴走』ですわ」
「……暴走?」
 
“もう十分でしょう?”“そうですか?”などと軽い会話を交わしつつ、リズレッタは古い切り株の上に腰掛けて笑う。
 
「長い間ここの『マナ』に触れていると、どうやら何か悪影響が出てくるような連中も居るようですわ。全員がそうではないようだけれど。……例えば、この遺跡にもそうなった二人組みが居ると聞きますわね」
「地下2階でしたか、確か」
「えぇ。最早正気を保てず、探索している連中を襲う化物……あぁ、『エキュオス』とか云っていたわね? それとなんら変わりない存在になってしまっているとか」
「……ふむ。しかし防ぐ手立ては無さそうですね」
「無い訳ではないけれど、それが酷く実行しにくいというだけですわね。まぁ、十中八九無理というもの」
「それでは何故お話に?」
「さぁ、何故かしら? あまりに暇だったからかもしれませんわね」
 
何せ袋が半分埋まるまで全くの無言だったのだ。
いまだ真面目に枝を切り袋に詰め込んでいるスィンを眺め笑いつつ、リズレッタはのんびり景色を眺めるにかかっている。
 
「まぁ、喚起の意味もありますわ。折角こうして共に探索を続けているのですもの。欠けて貰っては困るでしょう?」
「ふむ……。リズレッタ殿に言われなければ気付かぬ事でした。ありがとうございます」
「それで、どうするつもり?」
「と、いいますと?」
「防ぐ手立てはわからない、何時起こるとも知れないデメリット。今貴方はそれを知った。……どうするのかしら?」
「気をつけます」
「………………」
 
悩む姿を見て笑ってやろうと思っていたのに、あっさりスィンは質問に答えた。
 
「どれだけ強大な力を手に入れようとも、それに溺れることは即ち自らの向上を放棄したも同じです。……私は騎士ですから、けして現況に満足することはありません。この力は全て、姫様を守るために磨いているもの。私自身が『十分だ』とどうして判断を下せましょうか?」
「……はぁ」
「リズレッタ殿?」
「いえ、何でもありませんわ。……それならいいんですの」
 
“全く筋金入りだ”、とリズレッタはもう一度ため息をついた。
 
「姫様や愛瑠殿、ルクラ殿にも伝えなければなりませんね。……ふむ。『マナ』の例を用いて一つ姫様に心掛けを説くことも良いか」
「………………」
「あぁ、リズレッタ殿。そろそろ戻りましょう。この通り袋も一杯になりましたし」
「……えぇ、そうしましょうか」
 
今度は別の相手と来よう。
そんな事を思いながらリズレッタは、袋を抱えて来たときと同じようにさっさと帰り始めたスィンの後ろをのろのろついて行くのだった。
 
【2】
 
「……こないで」
「こっちに、こないで。あっちにいって」

「こないでよ、ばけものっ!!!」
 
 
少女が一人、恐怖を湛えた表情を張り付かせたまま、逃げていく。
 
「………………」
 
白い竜の翼、尻尾。
そして黄色い瞳の自分は、ただただ、立ち尽くしていた。

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○闘技お疲れ様でした!

6回戦からネタに走り始めた闘技も無事終了。三勝しました。
奇しくも巷で噂のおまわりさんが相手だったので最後のネタはこれしかない! と思って選択したのは『ポートピア連続殺人事件』。
そして知ってる人は知っている、ルクラのようでルクラでない謎の人物『くろまくさま』の合わせ技でした。
ポートピア連続事件をくわっとプレイしながら真犯人を探るくろまくさま。果たしておまわりさんは逃げ切れることが出来たのでしょうか!

くろまくさまとは?・・・くわっ、となんか迫力のある効果音をつけつつなんかくろまくっぽいことをするなんかルクラそっくりの人です。くろまくさま、までが名前です。くわっ。

ちなみにスィンさんも殺人事件ネタでした。奇しくもお互いのネタは『助手が犯人』という……。
おまわりさんの事を表すのに一番ぴったりなネタではなかったでしょうか!
多分。
9f73c279.jpeg


○通常戦

丘巨人×1
エンシェントレスト(若)×2

でした。全く問題なく撃破完了。
お姉さま単独になったりネタに走ると異様な回避力を見せますね……。

○今回の日記

ルクラが何だか調子が悪いようですね。
続き物なので、次回をお楽しみに。

○今回の必殺技

くわっ
65b629dd.jpeg


くろまくさまの謎の必殺技。
なんか痛いらしいです。

○恒例の

ネタ絵祭りです。
本日はマムルクラ祭りです。

mamulucra3.jpgmamulucra4.jpgmamulucra5.jpg











リーチャ・ミレッタPL様よりいただきましたマムルクラストーリー。
路線変更を本気で考えてしまった作品です。
ほのぼの、和む……。

punirukuraA.gifmamurukuraB.gif




この子……動く!
(鵺栢 縁PL様の手によって動くようになりました!)


donut.png










リリィズ=G=アンセムPL様よりいただきましたマムルクラ。
ドーナツを咥えてご機嫌のようです。
見た目によらず食べるので食費に注意。

mukyura.jpg










シスターさんPL様よりいただきましたマムルクラ。
キャタピラの中に入って……と考えたようですが結果はご覧の有様に。

mamurukuraC.gif










再チャレンジ。
(これも鵺栢 縁PL様の手によって動くように!)

以上、数々の絵をいただきました。
この場で御礼申し上げます!ありがとうございました!

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猛る何かに苦悩した日
 
【1】
「ルーちゃん、大丈夫?」
「あ……はい。もうかなり落ち着いた感じです」
「そっか。今日はもうここに腰を落ち着けるから、ゆっくりしててね。ご飯の時は呼びに来るから」
「ごめんなさい……」
「いいのいいの。気にしないで」
 
野営のテントの中に首を突っ込んで、自分の様子を見に来たらしい愛瑠とそんな短い会話を交わし、彼女が再び外へと戻っていくのを見送ると、ルクラは再びごろりと毛布の上に横たわった。
 
「……風邪ひいたのかなぁ……」
 
ポツリと呟いたのは独り言ではなかった。
憮然とした面持ちで二人の会話を聞いていたリズレッタに向けてのものだ。
 
「この前『竜は風邪ひかない』などと自慢げに語っていたのはどこのおチビさんだったかしら」
「……うん」
 
申し訳なさをそれらしい理由で着飾って、なんとか胸のうちから消してしまおうと、あまり考えもせず“風邪をひいた”などと彼女に言ってみたのは、どうやら悪手であったことをルクラは悟った。
結果的に、胸の内のもやもやとした感情は減るどころか増えてしまう。
 
「起こった事は仕方ありませんわね。……行程に遅れが出るのは腹立たしいけれど、無理して歩かせても結局遅れが出る結果に違いありませんもの。そう思っておくことにしますわ」
「……ごめんなさい」
「大人しく寝てなさい。……わたくしは暇だから外に出ますわ」
「うん……」
 
後姿を見送りながら、“間違いなくリズレッタは怒っている”、とルクラは思った。
思ったとおりに事が運ばないという事態は彼女が嫌う物の上位に位置するものであり、更にその事態を引き起こしたのが、ある意味今彼女の最も身近な人物である自分自身だったのだから、それも無理は無いと思い、ますます気分は落ち込んだ。
“もっとわたしがしっかりしてれば”と思うのも、最早何度目か。
一人きりになったテントの中で、ルクラは寝返りを打って、それからぎゅっとローブの胸元を握り締めて、身体を丸めた。
いよいよ地下二階へと足を踏み入れようと話が纏まり、その一歩を踏み出そうとしたはずが、突然ルクラに襲い掛かってきた体調不良。
多少のことなら空元気で跳ね飛ばせるほど自分の体は丈夫なはずなのに、そのときはどうしても我慢が効かず、罪悪感で胸を一杯にしながらも恐る恐る仲間達にそれを告げた。
それを聞いた仲間達は驚いた表情を見せて、それから“疲れが溜まっているのかもね”と笑って、その日の探検の中止を早々と決定してくれて――勿論リズレッタはその決定に不服そうな表情だったが――今に至る。
身体の内から沸き起こる奇妙な不快感、働かない思考、重だるい四肢。
これが人の症状で言う“風邪”なのだとルクラは必死で自分に言い聞かせる。
そう信じたかったのだ。
 
「……わたし、どうしちゃったんだろう」
 
それらの症状にあわせて沸き起こる、もっと別のどす黒い何かが湧き上がっていることすらも、“風邪”という存在に押し付けたかったから。
 
【2】
以前海岸に隠されていた宝の一つシャドウバックラーを探し当てたときのように、今度は人工の大地の上を別行動を取って探索していたときから、その症状はじわじわと現れていた。
その違和感に気付いたのは、そこでの戦闘中だった。
 
――……あれ……?
 
自分の思った以上に、自分の魔術の規模や威力が強まっている気がした。
外敵の力を完全に殺ぐだけの力は元より意識して作り出して入るが、その時は何故か、それ以上に強い力を自分が発揮しているような気がしたのだ。
その違和感が確信に変わったのは、彼女が戦況を一気にひっくり返そうとより集中し錬度を高めた魔術を繰り出そうと集中したときだ。
 
――いっけぇぇぇーっ!!!
 
繰り出した魔術は、捻りも何も無い、巨大な光球を生み出し相手にぶつけるだけの単純な魔術。
複雑怪奇な魔術を使う習慣がルクラにあるわけでもないが、そのとき彼女は光球を作り出し、そして相手に叩きつけるように思い切り投げつけるその瞬間まで、その行いをなんら疑問に思わなかった。
 
――……あれ……?
 
直前までもっと別の魔術を使おうと考えていたはずだったのに。
思考の大部分がその魔術のイメージで固まっていたはずなのに、繰り出したのはまるで違う魔術で。
そして異常に力を、本当なら恐れて出来ないぐらいその魔術に込めていたことに気付いた。
目の前の敵に対して、ある種の殺意まで抱いていたことに気付いたのだ。
一度別の場所の人工の大地で同じように別行動を取り、そこでも戦闘をし、そして痛み分けという負けず嫌いな自身にとっては納得の行かない結果に終わってしまった事を心のどこかで悔やみ、二度と同じ結果は出すまいと張り切った結果だったのかもしれない、と一度はそのときの状況をそう分析して彼女は忘れようとした。
しかし――。
 
「……ゆっくり今は……休まなきゃ。今日は訓練もお休みだから……戦いの練習する必要もないから……」
 
その衝動は今も、ずっと続いている。
遺跡から戻り、宿で寛ごうと思っていても、宿の庭で客人たちとお茶を楽しんでいるときも、今後の探検の予定を仲間達と立てているときも。
つい先ほど愛瑠やリズレッタと話している間にも、“戦いたい。魔術を使いたい。暴れたい”と彼女の身体は訴え続けていた。
 
「休まなきゃ……だっ……め……だから……!」
 
苦しい。
何がそんなに自分を駆り立てているのかわからない。
自分が自分でなくなってしまうような不安さえ、浮んでいる。
ローブを握り締める力が限界まで高まり、自分の爪がローブ越しとはいえ掌に食い込む痛みが感じられた。
こんな姿は決して、仲間達には見せられない。心配を余計にかけるだけだから。
その思いだけで必死に押さえつける。
油断したら大声で叫びそうになってしまうそれを息を殺して阻止する。
限界まで身体をこわばらせて、その場に身体をがっちりと縫いつける。
 
「……っ……」
 
日に日に強くなっていくそれと、ルクラは必死で戦っていた。
 
【3】
「あ。リズレッタ、ルーちゃんのところに居なくてもいいの?」
「別に……子供じゃないのですから睡眠ぐらい一人でできるでしょう」
「ルクラ殿の調子は?」
「特に問題は無いように見えましたわ。……明日にはあの娘も元の調子を取り戻しているのではないかしら」
 
愛瑠やスィンの問いに、リズレッタはあまりルクラを心配している様子も見せず答えた。
すわり心地の良さそうな岩を見つけ、それに腰掛けて、心底暇そうに頬杖を付く。
 
「ルーちゃんが風邪……でいいのかしら。ひくなんて珍しいわね」
「結構大変な道のりもあったから、知らないうちに疲れが溜まっていたのかも。……ボク達も今日は一日お休みして、しっかり疲れを取っておこう?」
「そうね。……だそうよ、スィン」
「そうですね。我々も気をつけましょう」
「と云いつつ、何故素振りを始めているの」
「日課ですから」
「疲れを取るのは」
「これぐらいは疲れの内に入りません。寧ろしなければ逆に身体が鈍ってしまいます、姫様。……姫様もまだまだ剣の腕を磨かなければなりませんよ」
「今日はダメよ」
 
適当な木の棒を拾ってきて、早速打ち合いの準備をしようとしたスィンにそう声を掛けて、続いてエクトは愛瑠の方を向いて“そうよね?”と声を掛ける。
愛瑠はそれを見て軽く頷いた。
 
「そうだね。ルーちゃんのために、今日は結構手の込んだ元気の出る料理作ろうかなって思ってた」
「手伝うわ。手は多いほうがいいでしょう?」
「うん。その方が助かる」
「ふむ。では私は薪を集めてきます。いつもより多く使う事になるのでしょうから」
「わたくしも手伝いますわ。……料理は二人に任せますの」
「ん。わかった。それじゃあよろしくね、二人とも」
「ではいきましょうか、リズレッタ殿」
「えぇ」
 
立ち上がり、スカートの裾を叩きながらリズレッタは返事を返す。
そして先に行くスィン――エスコートの素振りも見せないことについては減点ではあるが、このような集まりだし、とある種の納得もリズレッタは見せている――の後をやや駆け足で続く。
その途中、一度だけテントの方を振り向き、食事の献立を考え始めた愛瑠とエクトのほかに、テントの中に居るもう一人の少女の事を少しだけ気にかけて、近くの森の中へと向かったのだった。

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