六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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その愛情は誰が為に
【1】
遺跡の入り口に寂しくぽつんと建っている奇妙な館がある。
その館の名は『南海荘(なんかいそう)』と言い、今日ルクラがダンスパーティを楽しみに訪れた会場だった。
「……ここですの」
月明かりに照らし出されたその外見は奇妙だ。
というより、古臭くボロ臭い。
大きさは立派だが、これをダンス会場と言い張るには少々無理があるのではないだろうか。
「まぁ、予想通りですわね」
やはりちゃんとしたダンスパーティなどではない、真似事に過ぎない事はこの建物を見ても明らかだった。
「………………」
あの時妖精の宿で浮かべたような意地悪な笑みは、浮べなかったが。
不思議とそんな気分にならなかったのだ。
寧ろ、中でルクラがどうしているか気になって仕方が無い。
その思いは、直ぐに館の窓から中を覗き込む、という行動となって現れた。
室内は様々な音楽が入り乱れているようだった。
静かに雄大なるクラシックが勢いに任せたブラスバンドにかき消されたり、和太鼓の軍団が更にそれを覆していたりする。
混沌であった。
まず間違いなく自分であれば、すぐさまこの場を後にするであろうに違いない、混沌とした場だった。
音も混沌していれば参加者も混沌としている。
踊りなど一つも統一していない、思い思いの踊りといえば聞こえはいいものの自分勝手にして居るだけで、優雅なんて言葉とは無関係のように見えた。
「……醜いですわ」
思わずそんな言葉が口をついて出てくるが、聞いている人間など誰も居ない。
配慮する必要など無かった。
「……あ」
暫し眺めていると、ルクラの姿が見えた。
一人の青年と一緒に、どうやらフォークダンスを踊っているようだった。
しかしそれはとても。
「……醜いですわね」
酷い出来であった。
相手方にフォローさせっぱなしで、なんとも情けないフォークダンスを披露している。
本人もそれはわかっているのか、煙が出そうなほど顔を真っ赤にして踊っている。
それでも時折相手が声を掛けてくれれば、照れ隠しに笑みを浮べて、踊りを楽しんでいるようだった。
思った通りには行ってない様だが、どうやらしっかりと楽しさを噛み締めている、そんな様子。
「……!?」
気づけば、笑みを浮かべていた。
その笑みは嬉しさから来るものだった。
ルクラが楽しんでいる様子を見て、僅かながら嬉しさに顔を緩ませたのだ。
それに気づいて、微笑んでいた口元を押さえて、そして窓を覗き込むのを止めるがもう遅い。
否定をするには遅すぎた。
代替の答えを見つけるには、あまりにも難しかった。
「……」
受け入れはせず、見て見ぬ振りをすることにした。
ゆっくりと、南海荘を後にする。
【2】
「あぁ、おかえりなさい……」
「ただいま戻りましたわ」
懐中時計を開いてみれば、どうやら自分が宿を出てから一時間ほどの経過をしていたらしい。
再び戻ってきた宿のダイニングには老婆の姿があった。
自分を待っていたらしいことは想像に難くない。
お互いが浮かない表情で顔を見つめ、無言で過ごす嫌な沈黙が始まる。
「さっきは……ごめんなさいねぇ」
沈黙を先に破ったのは老婆だった。
本来先に破るべきは自分だったのに、先を越されてリズレッタは内心焦る。
「いえ……謝る必要などありませんわ」
「……?」
「貴女の言葉で、目が覚めましたわ。あれでは無様なだけで、ちっとも褒められたものではありませんものね」
「いえ……私も言い過ぎた気がするのよ……ごめんなさいねぇ」
「良いのですわ。……それが事実だったのですし、あのままではわたくしは、偽の王座に腰掛けたままでしたもの。本当に感謝します、ミセス」
その焦りに突き動かされてか、思った以上にすらすらと、老婆へ感謝の言葉を述べることが出来た。
再びお互いが無言で顔を見つめあう。
しかし先ほどと違うのは、その表情が笑みに変わっていることだろう。
「……お夕飯にしましょうか」
「……えぇ」
老婆が席を立ち、リズレッタが入れ替わるように席に着く。
「はい、今日のお夕飯ですよ……」
「……?」
目の前に出されたそれを見て、リズレッタは怪訝な顔をして見せた。
【3】
大小二つの箱が今、リズレッタの目の前に並んでいる。
箱はそれぞれ丁寧に紙とリボン――紙はオレンジ色で、涙を流す南瓜のプリントがされている。リボンは緑色で、紙製だった――で包装されていた。
「……これは?」
見れば老婆も全く同じものを食卓に持ってきている。
「あの子が貴女と私に、ってお弁当を買って来てくれたのよ。今日は一人、パーティに出かけるからか気を利かせてくれたのね……。『南瓜の涙亭』ってレストランのお弁当だそうですよ……」
「『南瓜の涙亭』……」
その名前は聞いたことがあった。
ルクラがとても親しくしている相手の一人が経営するレストランの名だ。
以前練習試合をした時酷い目に遭わされたが、それも今となっては良い思い出――。
「………………」
――にはなりえなかった。
忘れたかった記憶が呼び覚まされて幾らか不快になったものの、ぐしゃぐしゃぽいと丸めて捨ててついでに踏んづけておいて落ち着きを取り戻す。
とりあえず、老婆が包装を解き始めているのを見てリズレッタもそれに倣う。
「まぁ……」
出てきた中身に、老婆は嬉しそうな声を上げた。
大きな弁当箱の方に入っていたのはレタスハム、タマゴ、トマトチーズというサンドイッチ三種。
玉葱のコンソメゼリー。
ミニエビフライ串、タルタルソース付き。
プチトマト串。
ミートボールが3個。(食べてみてうずらの卵が入っているのに気づいた)
マッシュバターポテト。
ザウアークラウト。
そして小さな弁当箱に入っていたのはミックスベリーパイ。
見た目にも美しい、ちょっとしたご馳走がこの弁当箱には詰まっていた。
「頂きましょうか……」
「え、えぇ」
何を食べようか迷った――それほどまでにこの弁当の中身が魅力的であった、ということだ――が、とりあえずレタスハムのサンドイッチに手を伸ばす。
水々しいレタスが顔を覗かせたそれを、小さく口を開けて一口齧る。
パンの仄かな甘みに、レタスの甘み、ハムの塩辛さに、それを纏め上げるマヨネーズのアクセント。
「……美味しい……」
「えぇ……すごく美味しいわねぇ……」
それ以上の言葉は必要なかった。
中身をすっかり平らげた後、リズレッタはルクラに付いて昼のランチを食べに行ってもいいだろう、そう思えるまでに心境を変化させていた。
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