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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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皆に愛されし人の子
 
【1】
「あら。珍しいわね? ルーちゃんがそんなかっこでソファーで寝っころがってるなんて」
 
そう声を掛けられて、ルクラは今の自分の状況を見直してみた。
下着姿で、だらしなくソファーに横になっている。
風呂上りでぽかぽかした身体が心地良く重く、ついついこんな格好で寝ていたのだ。
じっと自分の顔を覗き込む若い女性の表情は微笑であり、掛けた言葉はお咎めのそれではないことがすぐ判る。
 
「ん……あ。ご、ごめんなさい、お行儀悪いですよね」
 
それでも、生真面目なルクラにとってはそれは十分お咎めの言葉に聞こえたようで、やや慌てた様子でその身を起こそうとした。
 
「いーのよそんなの、気にしない気にしない。だって我が家じゃない?」
「で、でもお母さん」
「ルーちゃんがお行儀いい子なのはお母さんよくわかってるんだから。たまにはだらけたっていいのよ?」
 
そんな事を言いながら、若い女性、ルクラの母親であるミーティアは、ソファーから起き上がろうとしたルクラをそのまま抱きかかえ、あっという間に自分の膝に乗せて、一緒にソファーに座る形を取る。
 
「寧ろ、だらけちゃいなさい!」
「お、お母さん……」
 
後ろからぎゅっと抱きしめられて、お互いの頬をすり合わせてなんだか盛り上がっている母親の姿に、ルクラは苦笑を見せつつも満更でもない様子でその行為を受け入れていた。
 
「だって滅多に見れないもの、こんな可愛い我が子の姿~!」
「もー。お母さんったらー」
 
だから直ぐに二人してきゃいきゃいと騒ぎ出す。
そうしている姿を誰か見れば――勿論娘のあられもない姿をミーティアが家族以外の人間に見せるはずも無いが――“親子”というより“姉妹”だと評するに違いない。
小さなルクラをぎゅっと抱きしめる母親の体躯は決して大きすぎるものではなく、身体を丸めて普段より小さく見えている事を考慮しても、ルクラと酷く差を持った身長の持ち主でないのは明らかだった。
抱擁を緩め、ミーティアは子供っぽい笑みをうかべる。
 
「……ふふっ。おっきくなったわねぇ、ルーちゃん。……うんうん。翼なんか一回りぐらい大きくなってないかしら? 尻尾もちょっと伸びた気がするわね?」
「そうかな……?」
「抱きしめてみると、『あっ、前とちょっと違うな』って判るのよ。日に日に可愛くて素敵になってるわよ、ルーちゃん?」
 
“もちろんノーちゃんだってね”と、今はこの場に居ない双子の妹についても触れて、ミーティアは優しくルクラの翼を撫でながら言った。
 
「ほんとに……少し前までハイハイしてた感じだったのに」
「もう。13歳だよ? ハイハイしてた頃って……すっごく昔じゃない」
「そうなのよねぇ。もう13歳……13歳かぁ」
「あと一年したら“大人”だよ」
「うん、うん。本当に、時間の流れはあっという間……。気が付いたらお父さんもあたしもおじいちゃんおばあちゃんになってるかもしれないわねぇ、このままだと……」
 
再びルクラを優しく抱きしめ、ミーティアは眼を閉じる。
その感触が心地良いのか、呼吸が深くゆっくりなものへと変わっていくのが、ルクラにも耳元に聞こえる吐息でわかった。
背中に感じる暖かさに、ルクラも心地良いまどろみの中に身を任せようとする。
 
「……ごめんね」
「え?」
 
しかしミーティアのそんな言葉に、意識は引き戻された。
突然の謝罪の言葉。
思わず振り向いて母親の顔を見てみれば、それはとても悲しげな様子で。
 
「辛い思いをしてるんじゃないかな、って。貴方達は、皆と違う。だからずっとその事で、要らない負担をかけてるんじゃないか……って」
「お母さん……」
「違うのよ。違うの。貴方達が嫌いなわけじゃない。大好き。目に入れたって痛くないぐらい、愛しいわ。貴方達を身篭って……そして、貴方達が生まれたときの嬉しさは、世界で一番幸せな……嬉しさだった。でも……貴方達は生まれてくることを望めはしなかった。望んだのはあたし」
「……ちがう」
「あたしが望まなかったら、……産んだりしなければ、貴方達が苦しむことも無かったんじゃないかって――」
「違うよっ!!!」
 
【2】
「……ちょっと」
「……はぇ」
「いきなりなんですの……? 夜中にいきなり怒鳴らないで欲しいのだけど」
「ん……」
 
時計を見ればまだ時刻は日付が変わったあたりのところを指しており、辺りは月の光でぼんやりと満たされているだけだった。
寝ぼけ眼を擦りつつ、もぞもぞと起き上がったルクラを、ベッドに横たわったままリズレッタは少し睨みつけた。
折角深い睡眠に身を任せていたのに、突然大きな声で――相手が寝ぼけていたとはいえ――怒鳴られもすれば、流石の彼女も機嫌を悪くする。
 
「……ごめん、なさい。なんか……夢、見ちゃって」
 
ばつが悪そうに寝ぼけ眼を擦りながら、素直に謝罪したルクラを見て幾らかその不機嫌も和らぐが、失った眠気はなかなか戻って来そうに無い。
再び自分の隣に体を横たわらせて、浮かない顔をしているルクラを見て、せめて眠気が来るまではこの娘に付き合ってもらおうと考える。
 
「夢?」
 
夢を見ている時、ルクラはいつも自分にぎゅっと抱きついてくる
この前は妹扱いされ、その次は父親扱いされた。そして今度は母親扱いだ。
初めの内は戸惑いもあり、安請け合いしたのを後悔した物だが、慣れてしまえば余り気にならない。
寝相も特別悪いわけではないし、抱きついてくることさえ慣れてしまえばなんと言うことはなかったのだ。
今日は母親に甘えでもしている夢でも見ていたのだろう。
そこまでは容易に想像できたが、先ほどの怒鳴り声とは結びつかない。謎が残る。
故に時間を潰すのに手頃な話題として選び、たった一言そう聞き返して更に深いところへ立ち入ろうと目論む。
 
「……うん。お母さんの、夢」
 
静かに頷き、枕の感触を確かめるように手を動かしながらルクラは答えた。
 
「でも……あんまりいい夢じゃなかった、かな。……あ、ううん。お母さんが嫌いなわけじゃないよ。大好きだもん。でもお母さんったら……あんなこと言って」
「あんなこと?」
「……わたしがドラゴニュートだってこと、リズレッタも知ってるでしょ?」
「……一応ですけれど」
 
リズレッタの目にもルクラは普通の少女――耳が細長い事を除けば本当に普通だ――に見えている。
しかし、ひょんなことから彼女が竜の血を引いた存在である事を知った。
別段何か力を感じるわけでもないし、そんな事をルクラに告白された時は疑念ばかりが浮かんでいたが、それも彼女の言う証拠に手を触れたことで信じざるを得なくなった。
目には見えないが確かにそこにある翼と尻尾。
それは確かに彼女が人ではない何よりの証拠だった。
尤も、本当にドラゴニュートかどうかはまだ半信半疑といったところであった。
半分も受け継いでいれば圧倒的な何かを感じるはずなのだが、目の前に横たわり、悲しげに夢の話を続けるこの少女にはなんら特別な力を感じない。
 
「わたしの故郷、ね。わたしみたいな子は……『異端』なんです。居ちゃあいけない……怖がられる対象。だから、こうして姿を偽ってる。翼も尻尾も、黄色い瞳だって、全部素敵なものだって思って、お気に入りで……きっと他の人もそう思ってくれるはずだって信じきってた。でも……お父さんもお母さん……ううん。それだけじゃない、おばあちゃんだって、他のドラゴンさんだって皆口をそろえて『人に見せてはいけない』って言うの。初めは何故か判らなかった。何で隠しておかないといけないのか……。そのことでお父さんやお母さんと喧嘩した事だってあったよ。偽った自分の姿はわたしには判らなくて。一体わたしは、他の人にどんな姿で映っているのか、わからなくて。自分のはずなのに自分じゃない誰かがいつも友達と話してる。それが心底、嫌だった。でも……思い知った。そうしなければいけない理由を……」
 
一度言葉を切り、考えている。
悩むといった方が正しいのかもしれない。
 
「……ううん。夢の話だったよね。ごめんなさい。夢の中でお母さん、わたしに謝ったの。なんて謝ったと思う? ……『あたしが貴方達を産まなければよかった』……って言うの。わたし達が竜の血なんて引かずに、普通の女の子として生まれたら辛い思いもしなくて済んだかも知れない。だから、お母さんはわたし達を生まないほうが、わたし達にとって幸せだったのかもしれない……って」
 
“全然、そんなことないのにね”と困ったように笑みを浮かべる。
 
「だって、お母さんが産んでくれなかったら……わたしはここに居ないもの。もしどこかに同じ『ルクラ=フィアーレ』が居ても、わたしじゃ無い。わたしはここに一人しか居ない。家族だって、同じ。お母さんが産んでくれなかったら、わたしのお母さんは居ないし、お父さんも居ないし、妹だって、おばあちゃんだって、きっと居ない」
 
ルクラが右腕を掲げて、その手に嵌められたバングルを月明かりに照らす様を眺める。
 
「……『わたしの偽者』を作ってくれるこのバングルは、わたしの周りの人達が一杯考えて作ってくれた一つの答え。不便だし、辛い事もあるし。こんなの、無い方がいいって思うこともあったけど、今はもう、違う。これを見るたびに思うんだ。……わたしは、幸せだって」
 
段々とルクラの表情が明るくなっていくのがよくわかる。
話すことで実感を深めているのだろう。
 
「それにね? わたしがドラゴニュートだからって怖がったりしない、可愛いって言ってくれたり、凄いって褒めてくれたりする人だって一杯居る。色んな人と、本当の自分で仲良くなれた。種族なんて飛び越えて仲良くなれることの証明が出来るって、実感できた。“ドラゴニュートは全然怖くないんだよ”って、わたしがこれからも皆に行動で示していけば……『いい子』で居れば……きっと、わたしの故郷の人達とだって仲良くなれるはずなんです。……自分の寝言で起きちゃって夢の中じゃ言えなかったけど……ホントはこういうこと、お母さんに伝えたかった。また会えるかなぁ?」
「……さぁ。わたくしに聞かれてもわかりませんわ。ただでさえあやふやな夢の話だというのに」
「そうだよね……。でも、会えるといいな。今度は絶対、伝えるんだ。『お母さんは何も悪くないよ』って。それから、ぎゅーって抱きついて、思いっきり甘えるの。……そろそろ、寝るね。ごめんね、起こしちゃって」
「……いえ。いい時間つぶしでしたわ」
「うん、よかった。……おやすみなさい、リズレッタ」
「えぇ、おやすみなさい」
 
この調子だと、今日もまた抱きつかれる。
それもいつもより強くだろう。
そんな事を思いながら、先に眼を閉じてしまったルクラを暫し眺め、リズレッタもそれに倣うのだった。

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