六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
戦いは圧勝に終わったと評するべきだろう。
巨大蟹の放つ、砂浜を引き裂く衝撃の波をリズレッタは軽々とあしらい、関節部への正確無比な斬撃を見舞う。
腕や足が切り落とされ、ついに見上げるほどに巨大な蟹は、たった一人の小さな少女に完膚なきまでに叩きのめされたのだ。
バランスを崩し、動かす足も腕も無くなった巨大蟹はその活動を止める。
恐る恐るといった様子で、ルクラがその胴体からゆっくりと降りる。
「リズレッタ!」
「全く……」
砂の上に着地して、駆け寄ってくるルクラを呆れたような表情で出迎えた後、リズレッタは未だにしぶとく生き残っている巨大蟹を一瞥し、そして――。
「目障りですわ、死に底無いが」
自分の背丈ほどの巨大な氷の剣を形成し、胴体目掛けて思い切り突き刺した。
腹から背中へ、甲羅を貫き通した剣は一瞬の間を置いて崩れ落ち、消える。
しかし与えた傷までは消えず、ぽっかりと縦に細長く空いた穴は残る。
今度こそ巨大蟹はその活動を停止させる。
……笑顔で。
【2】
ルクラにとってリズレッタは保護者のような物だった。
本人が望んだわけではないが、何時しかそうなっていたのだ。
個人個人で見れば、ルクラ自身も決して頼りない、情けない人物ではない。
だが、リズレッタはルクラ以上にしっかりとした性格であり、またその性格を裏付けるだけの技量を持っていたのだ。
リズレッタからルクラへの力の流れはあれど、その逆は決してない、そんな関係が何時しか二人の間には生まれていた。
「良い事? わたくしが付いているからといってあなたが警戒を解いていいという理由にはなりませんのよ。幾らなんでもわたくしに頼りすぎでしょう。気持ちが弛んでいますわ」
「……ごめんなさい……」
「謝るだけなら馬鹿でもできますの。……次に同じ事をしたら。容赦しませんわよ」
「は、はいっ!」
ルクラからすれば、その関係はあまり好ましくない。
世話を焼かれるのが嫌いというわけではないし、彼女の小言が嫌いというわけでもない。
そもそも無闇に世話を焼かせているのは自分の所為であるし、小言だって一々的を射ていた。
無闇にリズレッタに負担をかける自分が嫌だったのだ。
「よろしい」
小言を言い終わって満足したらしいリズレッタを見ながら、ルクラは改めて、自分の中の甘えを認識し、それをなんとか失くす様に意識する。
それぞれの思いはあれど、何だかんだでお互いに良い方面に働きかけているようではある関係であった。
「でっかい蟹さんだったんですね……」
「そうですわね」
「リズレッタ、知ってます? ……蟹のお肉ってすっごく美味しいんですよ」
「……ふぅん」
この少女、見かけによらずよく食べる。
普段は見せない物の、実は食い意地も張っている。
大きなボウル一杯に盛られた野菜サラダを殆ど一人で食べきってしまったときは、流石のリズレッタも眼を疑った物だった。
そんな彼女が、極上の素材がたっぷり詰まった超巨大な生物の死骸を前にして何もせず背を向けるはずは無いのだ。
「……やるならあなた一人でなさい」
「はい! 休憩しててくださいね、リズレッタ!」
しかしそんな性格を咎める事は出来ない。
リズレッタ自身もルクラのその性格の恩恵を確かに受けてはいるのだから。
彼女が美味しいと評した食べ物は、確かにリズレッタをも満足させるだけに値する物ばかりなのだ。
食事という行為が必要無く、ルクラと出会うまではリズレッタの中で”あまり意味の無い行い”だったそれは、今や楽しみの一つとなっていた。
それは”ルクラ=フィアーレ”という存在なくしては決して昇華し得ぬ物だったに違いなかった。
「……っ……」
嬉々として巨大蟹に駆け寄っているルクラを見送っていたリズレッタだが、突然ずきり、と頭の奥に鈍い痛みが生まれた。
その痛みに耐えかね、額を押さえて蹲る。
「あぁ……もう。だから嫌だったのですわ……」
【3】
巨大蟹との戦闘でリズレッタは命術を二度用いた。
何気なしに、ルクラと同じように使って見せた彼女だが、実はそのために大きな犠牲を払っていた。
本来彼女に命術を用いる力は存在しない。
彼女が用いる力の源は”水”と”氷”であり、そしてその力の行使の意義は”殺戮”の二文字であった。
”命を生かす術”が命術であり、いわばリズレッタのそれとは真逆の性質を持つ物。
使おうと思っても術自体が彼女を拒むのだ。
しかし彼女はその拒みすら乗り越えて、命術を使用した。
自らの力を触媒として捧げ、術の拒みを一時的に解除したのだ。
今彼女を襲うあらゆる不快感は、力を捧げ消失させた事による反動のような物だった。
――これでまた、元の力になるのに2、3歩遠のいたわけですわね……。
その行いは、身体的にも負担が掛かるのはもちろん、リズレッタにとっては精神的に苦痛だった。
命術という概念に賄賂を持って只管平伏して頼み込んだような物だったからだ。
彼女の中で最も大切とも言える自らの力を幾らか差し出し、胡麻を摺って揉み手をして一瞬だけ得た力は雀の涙程度で。
自尊心を傷つけるには十分すぎる結果であった。
――使わなければ良かった……と思いたいところなのだけれど。
不思議とこういう結果を招いたルクラへの怒りは湧いてこない。
先ほど口に出した言葉も、自分の身を襲う不快感をなんとか紛らわしくて出た様なもので、他意はなかった。
どころか、蟹の足を器用に解体してその身を透明なパックに――宿の老婆から貸してもらった保存袋で、”じっぷろっく”というらしい――詰め込んでいる彼女の姿を見て、胸をなでおろしている自分に気づく。
「………………」
慎重すぎる判断で、しかも愚策であったかもしれないが、ルクラが無事である事に何より落ち着いた気分である自分を見て、その行いを批判する事など、リズレッタには出来なかった。
”殺戮”を行使する少女は徐々に”救済”への道へと歩みを進めていた。
「リズレッタ?」
収穫を終えて戻ってきたルクラに声を掛けられ、リズレッタは我に帰った。
「……あぁ。もう良いの?」
「はい! こーんなに一杯!」
”じっぷろっく”六袋に詰められた新鮮な蟹の肉を見せびらかし、ルクラはにっこりと笑う。
「リズレッタはもう大丈夫? まだ休憩してもいいけれど」
「……もう十分ですわ」
「うん、よかった! さぁ、今度こそ帰りましょう? いいお土産も出来ましたし」
くるりと踵を返すルクラ。
「……ちょっと」
「はい?」
しかしすぐに呼び止められ、またリズレッタのほうに向き直る。
「――手を貸すぐらいなさい」
「……! は、はいっ!」
リズレッタからしてみれば、未だに頭痛やらで体が重いため、何気なしに注文しただけだった。
しかしそれはルクラにとって見れば驚くに値する言葉だった。
今まで何をするにしても決してルクラの力は借りず、自分一人で何もかもをやっていたリズレッタが、初めてルクラに力を貸すように頼んだのだから。
お互いの関係は、此処に来てゆっくりと、しかし確実に変性を起こし始めていた。
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