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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 杖と招待状
 
【1】
「それで、ルクラちゃんは見た感じ武器っぽそうなものを持ってないけど、何で動物たちを追い払ったりしてるの?あたしはこの杖なんだけどー」
 
猫の耳を生やした元気な桃色、あんずの言葉――。
 
「あ、そういえばルクラは突然この島に来たのよね。招待状は見てないのかしら?」
「私たちがこの島に観光にきたきっかけがその招待状なんだよね」
 
賑やかな二人の金色、キキとララの言葉――。
 
「杖……。招待状……」
 
ふと彼女達との会話の中で飛び出た二つの単語、それはルクラの頭にこびりついて離れる事は無かった。
 
【2】
気づけばこの島の街の広場で佇んでいた。
この島での冒険の始まりは、そんな唐突な発見からだった。
家族と共にベッドにもぐりこんで、ぐっすり眠っていたはずがそんな状況になっており、酷く慌てたのをルクラは覚えている。
忘れられる筈もない。
泣きそうになりながらも、街を探検したあの日。
老婆との出会い、この宿屋との出会い。
初めての遺跡探検。
思いがけぬ挫折。
全てが昨日の事のように――。
 
「――」
 
思い出せなかった。
挫折して、それから?
それから自分はどうしたのか?
ただ何もせず宿屋に篭り、ある日突然人が変わったように遺跡探検への意欲を燃やし、仲間を見つけ、大勢の人々と交流をするに至ったのだろうか?
ルクラは自覚していた、”記憶の欠落”を。
少なくとも三つの欠落を、自覚していた。
 
「………………」
 
メモに書き出す。
一つ、島に来る前。
家族お互いが『おやすみなさい』を言いあって、ベッドの中に妹と一緒に潜り込んだ、其処ははっきりと覚えている。
逆を言えば、”その場面しか覚えていなかった”のだ。
楽しい旅行のはずだった。
もっと心が踊るような楽しい出来事は沢山あった筈なのに、他に何一つ思い出せない。 
もっと他に、心に残るような楽しいこと、不思議な事があったはずなのに。
二つ、挫折してのそれから。
今でこそ自由自在に魔術、そして命術という新たな力をも使いこなすルクラだが、この島に来て暫くは全く使う事ができなかった事実が存在する。
仲間達と再び遺跡に繰り出し、そしてそこで、自分の力は失われておらず、また魔術は自らと共にある事を確信し、目の前に立ちふさがるトラウマ、巨大な壁だったそれを乗り越えた事は記憶に新しい。
しかし挫折と躍進、その二つの出来事こそ覚えてはいるものの、その間に敷かれたであろう苦悶の道、それをルクラは覚えていなかった。
大きなショックを受けて、我を失って涙したほどの出来事が、たかだか一昼夜で克服できうるはずも無い。
自分はどうやって、再び魔術を取り戻す事ができたのだろうか?
まるで靄がかかったように思い出すことが出来なかった。
三つ、リズレッタとの出会い。
既にリズレッタ自身が何度か問うているこの出来事も、彼女は記憶にない。
覚えているのは、倒れていたリズレッタを負ぶって帰ったこと。
それから、朝目が覚めたリズレッタに話しかけたこと。
一気に記憶は飛んで、気難しい物言いだったが同行する旨をリズレッタに伝えられたその時しか、覚えていない。
彼女がルクラに同行しようと心に決めた”あの夜”の出来事、そしてそこに至るまでの出来事は、彼女の記憶には残っていない。
記憶が無いと自覚できる三つの項目。
 
「杖……招待状。……杖と、招待状」
 
しかしそのうち二つは、あんずとキキとララの三人の言葉によって、ゆっくりと、徐々にだが、蘇り始めていた。
 
【3】
「お父さんとお母さんにおやすみなさい、って挨拶して。それからノーちゃんと一緒にベッドに入って……おやすみなさい、ってお互いに言って。その前は……、その前は……そうだ。トランプしたんでした、皆で」
 
いいぞいいぞ、その調子だ。
そんな事を言い聞かせながら、更に記憶を発掘していく。
 
「お父さんがずーっと負けたんだっけ。それでお母さんが『お父さんは賭け事には向いてないわね』なんて言って笑って。……逆にお母さんは勝ち続けだったなぁ。
 それから……トランプの前は……そうだ、ご飯。ビュッフェ形式で好きなものお腹一杯食べて……アップルパイ美味しかったなぁ。お母さんが作るやつの次ぐらいに……」
 
舌の上に広がる味は、林檎の甘いそれ。
なんだかお腹が空いてきたような気がするが、我慢する。
 
「……!」
 
暫し記憶の味に酔いしれていたルクラだが、突然ローブのあちこちを弄り始める。
ポケットがないのに気づいて、そもそも自分が探そうと思っていた品は鞄の中に入っていたことに気づいて、慌ててベッドから飛び降りて鞄の元へ駆け寄り、些か乱暴に開いた。
中身を手当たり次第床に放り出していく。
 
「……あった……!!!」
 
内側に作られた横に細長いポケットの中を探れば、一枚の封筒が出てくる。
上質な白の、金で縁取りされた封筒で、真っ赤なシーリングが施されている。
この封筒は、旅行中ルクラが拾ったものだった。
船の中で、誰かが落とした物。
正確には、ルクラの目の前で落とされた品だった。
 
――……! あ、あのっ! 落としましたよ!
 
慌てて拾い上げて、落とし主が去った方向に顔を向けたとき、既に其処には影も形も存在しなかった事を思い出す。
仕方が無いので封筒は、自分が預かっておこうと鞄の中にそっと忍ばせたのだ。
 
「……ごめんなさい、開けます」
 
本来の持ち主に謝りを入れて、封を切る。
果たして其処から出てきたものは――。
 
”これは日々退屈を感じている諸君への招待状。
 
 それは不思議な島の遺跡。島を出れば遺跡で手にした財宝は消える、しかし七つの宝玉があれば消えない、宝玉は遺跡の中。
島はエルタの地より真南の方向、素直に信じる者だけが手にできる財宝。
 
―――胡散臭いですかなっ?
 
ククッ・・・疑えば出遅れますよ、パーティーはもう始まっているのです。”
 
 
「……招待状……」
 
ルクラもまた、招待状を持つ一人だったのだ。
 
【4】
「ちょっと……なんですのこの散らかりようは」
 
老婆とのお茶会を楽しみ部屋に帰ってきたリズレッタだが、扉を開けるなり飛び込んできた状況に眉を潜ませた。
散らかってる現状が気に障るのは勿論だったが、普段のルクラがそんなに散らかすはずも無いことも知っていたので、少しの戸惑いもその表情には隠されている。
 
「無い……無い……!」
 
散らかした本人といえば、鞄を何度も覗き込み、ひっくり返し。
ますますリズレッタの不安感は高まっていく。
 
「……? ちょっと、きゃっ――!?」
「リズレッタ! 無いんです!」
「だっ……だから何がありませんの!? 無いだけじゃわかりませんわ!」
 
突然身体をがっしり掴まれて揺さぶられて、何がなんだか判らない。
尋常じゃないその慌て振りに、何時もの頬を抓る事すら忘れてリズレッタはルクラに揺さぶられるがままだった。
 
「杖が!」
「杖?」
「杖が無いんです! わたしの杖……『アスピディスケ』が無い!!!」
 
空っぽの鞄を指差すルクラ。
小さな円形の品が入るように内側に作られた特別なポケットには、今は何も無かった。 

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