六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
納得がいかない。
満足できない。
己の無力さに苛立ちすら覚える。
――覚悟はしていた。……でも、ここまでとは……っ……!
「その辺のゴミでも漁っていれば良い物を……」
倒れ伏し、その姿を巨大な牙へと変えた狼を睨みつけ、吐き捨てるように呟いたリズレッタの胸の内は、穏かなものではなかった。
「リズレッタ?」
ルクラに声を掛けられ、リズレッタは自分がずっとしかめっ面をして居ることに気づき、そっぽを向いて答える。
「……なんでもありませんわ」
「でも――」
「なんでもないと言っているでしょう? 二度も同じ事を言わせないでくれるかしら」
直ぐに平静を装い、つんと澄ました顔を見せる。
ルクラは納得のいかない――それは”不満”というより”心配”という感情で埋め尽くされているようだが、今のリズレッタにとっては鬱陶しいだけだ――様子を見せるが、それ以上聞いてくることはなかった。
「……何かあったら、何時でも相談に乗りますからね」
そんな言葉にも軽く手を振って応える。
耳の周囲に纏わりつくそれを払うような動作も兼ねていたが。
――……ふん! 誰がするものですか!
心の中でルクラの言葉を鼻で笑い飛ばし、リズレッタはキャンプの準備を手伝いに走る彼女の後ろ姿を見ながら歩き出した。
【2】
皆が寝静まった夜更け、一人キャンプから抜け出しあての無い散歩。
靴が平原の草を踏みしめる音と、傍を柔らかく通り抜ける風の音を聞きながら、リズレッタはただ歩く。
「………………」
人は勿論、小動物や、植物も。
誰もが皆寝静まっている。
静かな夜だった。
ふと横目に見やると、巨大な岩が鎮座しているのを見つける。
無意識のうちに足が向いて、それに腰掛けた。
視界に動くものは何一つ見えない。
誰にも邪魔される事の無い、考え事をするには最高の環境に自分がいる事を実感できる。
――思った以上に、力は失われていますのね……。
思い返すのはあの狼達と一戦交えて実感した事。
精々一度に二本までしか生成できなかった氷のナイフ。
動きの鈍い身体。
あの程度の雑魚相手にも手間取ったというのは、リズレッタの自尊心を大きく傷つけたと言っても過言ではない。
「……ラズレッタ……」
膝を抱え込み、顔を埋めて呟くのは妹の名前。
久しぶりに口に出した――今まで出せるような環境に無かったというのもあるのだが――その名前は、やはり心の喪失感を痛いほど刺激するもので。
思いは更に過去へと遡り始めたのだった。
【3】
”人斬り”と呼ばれる連中が居る。
遺跡内で他の冒険者に襲い掛かり、力で打ち負かし、金品を奪い取る人々の事だ。
大多数の冒険者によっては忌み嫌うべき存在である。
だが、そんな悪名高い彼らも遺跡外では大人しいものだった。
遺跡外での略奪・暴行行為は禁止されているのは、この島に訪れた冒険者なら誰もが知っている常識だ。
その影響力は凄まじく、どんなに凶悪な連中でも――悪事千里を走る、との言葉通りで、情報が島に広まるのは驚くほどに早い――遺跡の外に出れば必ずそのルールに従っている。
誰もが枕を高くして安心して眠れる、絶対のルールにより作られた安全地帯、それが遺跡外なのだ。
しかし、それを破った二人組がかつて存在した。
【4】
「お姉さまああああああ! 熱い、痛いよお姉さまあああああッ! 助けてッ! 助けてくださッ――――――」
「ラズレッタ――!!!」
自分の目の前で、光の奔流に飲まれ、断末魔の叫び声を上げながらラズレッタが消滅する。
一瞬にして消えうせた妹の姿をぼんやりと眺めるリズレッタに迫るのは、彼女達を”討伐”するためにやってきた冒険者達。
男が、リズレッタに向かい巨大な剣を振るった。
「ギッ――!!!」
成す術も無く、胴体を横薙ぎに断ち切られ、リズレッタは血溜まりの中に伏せる。
痛みは感じない、ただ噎せ返るような血の香りとともに倦怠感が全身に纏わりつく。
――これは……。
夢だ。
色々考え込んでいるうちに、まどろみの中に自分の意識を引き込んでしまったらしい。
思い出したくも無い、リズレッタにとっては忌々しい、夢だった。
「ヒ……ヒッ……!!! うふふ……あはは……!!! キヒヒ……ヒヒ……!!!」
地面に転がっている自分は、笑っていた。
胴体と共に斬られた左手を見て、残された右手で自分の眼を覆い隠し、只管に笑っていた。
「あぁ、今日は全く最悪の日……!
こんなに良いように弄ばれて、この体たらく……うふふ……ごほっ……!
なんて無様なのかしら……ね……ぇ……!
あは……ごぼっ……ぅえっ……ヒヒヒヒ……」
笑い続ける自分の周りに、冒険者達が集う。
リズレッタはその光景を見て、眉を潜めた。
この後に行われたやり取りは、今思い返しても屈辱に顔を歪めるほどの事だったからだ。
「ィッ…………アアッ……ッガ……!!!」
――……え?
冒険者達は無言で、自分の身体に自分達の武器を突き立て、叩きつけていた。
苦しみもがく自分を、何度も何度も、渾身の力で攻撃している。
――違う……これは……違う! そんなはずは!!!
あんな事は無かった。
冒険者は自分に止めを刺すことなく、見逃したのだ。
だからこそ自分は殆どの力を失いつつもその命を繋ぎ逃げ延び、ここに居るのだ。
そのはずなのに。
「…………ッ……!!!」
助けを求めるように突き出した右手ごと顔面を貫かれ、夢の中の自分は痙攣を起こし、そして動かなくなった。
血に塗れた冒険者達は、暫くそれを眺めていたが――。
「ヒッ……!?」
一斉に振り返った。
そして武器を構え、ゆっくりと近づいてくる。
気が付けば、リズレッタは草原に立ち尽くしていた。
目の前で凄惨な死に様を晒している自分とは違う、メイドのような格好をした自分が夢の中の世界に立っている。
「ち……がう……こんなの……! いや……!!!」
リズレッタは初めて、恐怖を感じていた。
今まで受けるものではなく、自分が他者に与えるはずだった感情を、嫌と言うほど味わっていた。
身体はピクリとも動かない。
夢の中の自分を横薙ぎに断ち切った男が剣を大上段に構えた。
「い……や……いや……! たすけ……て……たすけ――!!!」
ぎゅっと眼を瞑り、リズレッタの瞼の裏に浮かび上がった姿は――。
【5】
「リズレッタ! リズレッタってば!」
「っ!?」
がくがくと身体を揺さぶられ、リズレッタの意識は急激に覚醒する。
視界一杯に広がっている空は真っ暗で、星が輝いて見える。
そんな視界の中に飛び込んできたのは、ルクラの顔だった。
今にも泣きそうな表情で、なんとも情けない。
「リズレッタ……!!!」
「あ、なた……どうして……」
「ちょっと眼が覚めたら……リズレッタが居なくって……! わたし、わたし心配で、探しにでて……! け、怪我はないですよね!?」
「え、えぇ」
「もお……! よかったぁ……!!!」
「ちょ、ちょっと、泣くのは止めなさい……!」
「だって、だってぇ……!」
しっかりと自分を抱きしめて、胸に顔を埋めてぐすぐす泣き始めたルクラを、リズレッタは何時ものように叱る事などできなかった。
――……何故……。
夢の中で恐怖に眼を閉じたとき、瞼の裏に浮かび上がった人物をただ眺めるしか、できなかったのだった。
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