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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
「あらあら……ダメねぇ14隊ちゃん。」

ベルクレア14隊との戦いは、ルクラ達の圧勝という形で収まる。
息も切らしていない14隊の隊長らしき人物、レディボーンズはその光景を見て面白そうに笑い、それから倒れ伏した兵士達に手をかざした。
ふわりと兵士が宙に浮き、レディボーンズも続く。

「あっ!? 逃げる気ですかっ!?」
「お洋服、汚したくないしね♪」

ルクラの言葉に、人差し指を唇の前に持ってきて、悪戯っぽく笑ってそう答え。
レディボーンズははるか遠くへと、飛び去っていく。

「放っておきましょう。あれ自体に興味は無いわ」
「障害を排除できた、それだけで十分だな」
「……そうですね」

エクトとスィンは初めから追うつもりは無いようで、武器を仕舞いその場に佇んで息を整えている。
そして――。

「……メー、ちゃん?」

ルクラは、恐る恐るといった様子でメルに声を掛ける。
それは何故かといえば、今の彼女が持つ雰囲気が明らかに異質なものへとなっていたからだ。
ルクラの言葉をきっかけに、エクトもスィンもメルを見やる。

「………………」

メルはレディボーンズたちが飛び去った方向を見やり、小さくため息を吐き出して。

「こんなものですね。それじゃマナ接続解除、あとは任せた」
「えっ――」

一方的にルクラ達にそういい残すと――。

「め、メーちゃん!?」

ふっと身体の力を抜き、その場に崩れ落ちるようにして倒れたのだった。

【2】
「……っと。……ちょっと!」
「え?」
「何をぼんやりしているの。わたくしの言葉にさっさと反応なさい」
「あ……ご、ごめんなさい」
「まったく……」

憤慨したような様子を見せつつ、リズレッタは手に持ったカップを口元に持っていき、紅茶を――ファーストフラッシュとかいう、値段が高めの紅茶だった。当然支払いはルクラである――味わった。
申し訳無さそうな表情を見せつつ、ルクラも彼女に倣う。
こちらの中身は蜂蜜入りのホットミルクだった。
リズレッタを仲間に紹介し、それから色々な準備を終えた後の一服。
街中の小さなカフェテラスで過ごす一時である。

「……で? わたくしの言葉を無視するほどぼんやりしているのだからそれなりの理由があるのでしょうね?」
「そ、それは――」
「そうでなければ許しませんわよ」

冷たい視線が自分に突き刺さるのをルクラは感じた。
言わなければ、頬を赤く跡が残る上にかなりの長時間痛みが続くほど抓られるに違いない、と確信する。

「……実は、メーちゃんの事で」

あまり彼女の事を知らないリズレッタに話すのも気が引けたが、これから共に探検する仲間だ、話しておいてもいいだろう。
と、抓られたくないという本音を建前で囲っておいて、ルクラはぽつりぽつりと話し始める。

「あぁ、あの娘」

あまり興味が無いといった様子で言葉を紡ぎ、リズレッタはカップにもう一度口付ける。

「この前、わたし達がベルクレア14隊をやっつけたのはもう話しましたよね?」
「えぇ」
「その時のメーちゃん、おかしかったんです。まるで別人みたいだった」

ブラウンの髪の毛が薄い紫色に変色し、サイドテールをポニーテールに結わえなおしていたメルの姿は、脳裏に焼きつき忘れられる気がしない。
メルとよく似た、しかしメルではないと何処か確信できるような少女が、あの時ルクラ達の目の前に居たのだ。

「メーちゃんは」

自分のカップの中のミルクを見つめながら、ルクラは言葉を一つ一つ丁寧に選び話を続ける。

「人を探してるんです。……自分とそっくりな女の子を」

ふとリズレッタを見やれば、彼女は眼を閉じて紅茶を味わっていた。
暫くすると片目を薄く開いてルクラを見やり、そして興味なさげにまた紅茶に口を付けている。
それが”さっさと続きを話せ”、という催促であることをルクラは知っていた。

「詳しい話は、わかりません。……何を言っているのか、わたしがよく理解できていないというのもあるけれど。『オリジナルの、もう一人の自分を探す』。『同じマナを持った自分を探す』と彼女は言ってました」

――……あはは、妙にシリアスしちゃったけど、そんなかんじ!

とても寂しそうな笑顔を浮かべたメルの姿がふとルクラの脳裏に蘇った。
カップをソーサーに戻し、ローブをぎゅっと握り締める。

「でも、詳しい話はわからなくたって、メーちゃんがもう一人の自分を探し出したいと思っている、っていうのはわたしにだって判ります。だから、リズレッタと会う前ももう一人のメーちゃんを探すために、遺跡をずっと探検してたんです。3階に居るらしい、という情報も手に入れて、そこを目指そうって話にもなって。……だけど」

――ここで足止めは要らない。

14隊を前にして、その雰囲気をがらりと変えたメルの姿は、未だに受け入れられてない。
それはきっとエクトやスィンも同じだろう。
あの時言葉こそ交わさなかった――戦いを前にして交わす余裕が無かった、という方が正しくもあるが――ものの、同じように驚愕を貼り付けていたのだから。

「あの時のメーちゃんを見て、わたしすごくびっくりして。……それから、ちょっぴり怖かった。わたしなんかで、メーちゃんの目的を達成することが出来るのか、ちょっと不安になって――」
「じゃあ、見捨てればいいじゃありませんの」
「ま、まだ最後まで言ってませんよ! こ、怖かったし不安になったけど、でもわたしが不安になってちゃ、だめなんです! 一番不安なのはきっとメーちゃんなんだから、仲間のわたしがしっかり支えてあげなくちゃいけないって思うんです!」

リズレッタの言葉に慌てて、身振り手振りを交えながらルクラは必死に語り。
それから少し気持ちを落ち着けて、リズレッタを上目遣いで見やりつつ言った。

「……そう考えてたらちょっと、その時の事を思い出しちゃって。リズレッタを無視する感じになっちゃって……ご、ごめんなさい」
「ふぅん……」

口をつけた箇所の雫を人差し指の側面で拭き取り、リズレッタは不敵な笑みを浮かべる。

「実にあなたらしいお人よしの思考でわたくしは無視された、というわけですの。……まぁ、いいですわ。なるほど、あの娘はそういうことでしたのね……」
「えっ!? 何か知ってるんですかリズレッタ!?」
「さぁ、知りませんわ? わたくしを無視したあなたなんかに話す気にはなれませんもの」
「えーっ!?」
「精々足掻いて自分で知りなさいな。……しっかり支えてあげるのでしょう、お人よしのおチビさん?」

明らかに何か知っている、そんな雰囲気を醸し出しつつも取り付く島も無い。
暫くは困ったような表情でリズレッタを見やっていたルクラだが、彼女は済ました顔で紅茶を味わいに戻っている。

「……わかりました。じゃあ、自分達でもっとメーちゃんのことを知ります!」
「そう。頑張りなさい?」

どう言ったって話すはずが無いのは、暫く彼女を見ていれば誰にだってわかることだった。
ましてや一週間近く彼女の傍に付きっ切りだったルクラがそれを知らない理由は無い。

「頑張ります! ……ところでリズレッタ、何かわたしに用があったんじゃ? さっき聞き逃しちゃったけど……」
「あぁ、それは――」

リズレッタが再び自分の本題に入ろうとしたその時だった。

「ルクラちゃ~ん!」

少し遠くから聞こえた、よく通る女性の声。
名前を呼ばれた以上振り向くしかない、ルクラはさっとリズレッタに顔を背けて、後ろからの声に注目した。

「あっ! リーチャさん! ティアさんも!」

そこには元気一杯といった様子で手を振っている、長い金髪を二つ結びにし、活動的な服装に身を包んだ女性。
その横には金髪を青いリボンで結びポニーテールにし、青いエプロンドレスに身を包んだ女性と、妙に眼鏡が印象に残りそうな剣士らしい出で立ちの男が立っていた。
女性二人にルクラは見覚えがある。
手を振っているのは”南瓜の涙亭”のアルバイト、リーチャ・ミレッタ。
その横でこちらに笑みを向けているのは”南瓜の涙亭”の店主ティア・クレイティアだった。

「ちょっとだけお久しぶりですねっ、ルクラちゃん! ぷにぷに~」
「今日は探検お休みみたいね?」

こちらに近づいてくるなり、リーチャはルクラの頬を人差し指でぷにぷにとつつく。
ルクラとリーチャの間での挨拶のようなもので、ルクラもいやな顔一つせず、寧ろ笑顔でリーチャの頬をつつき返している。

「明日からまた探検なんですよ! ティアさん達は?」
「私達も同じよ。明日からまた遺跡に店ごと移動するわ」

この二人とルクラとの関係は、非常に良好といえる。
誰とでも仲良くなり親交を深める性格のルクラだが、この二人は特別な存在だった。
子供らしい一面を見せる事ができ、甘えられるというルクラにとっての数少ない相手なのだ。
暫く他愛の無い話が続く。

「………………」

当たり前だがリズレッタは再び無視であった。
未だ家族が恋しい彼女が、思いっきり甘えられる相手を前に何時ものような態度を保てるはずは無いのだ。
無いのだが。

「………………」

リズレッタには当然そんなことが理解できるはずもない。

「ところで、ルクラちゃん。魔術の鍛錬はしているかしら? 以前見て以来だけどね。鍛錬は大事よ。……どうやらお互い近くに居るみたいだし。どう? ルクラちゃんの魔術の腕前がどれだけ上がったのか、私に見せてみない? 練習試合って奴ね」
「ええっ!」
「ほっ、ほんとですかっ!? ぜひっ! ぜひやりたいですっ! すぐお友達を呼んできます!」

暫く話が続き、何時しかそれは練習試合のお誘いへと変わっていた。
ルクラにとっては願ったり叶ったりの話である。
すぐさま座っていた椅子から飛び降りて、仲間を呼びに走っていってしまう。

「………………」

勿論、リズレッタは無視されっぱなしである。

「……ふ、ふふ……」

とても、とても不気味な笑みをリズレッタは浮かべ、そしてそれをカップを持っていくことで隠したのだった。

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