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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
不遜な態度を取り続け、ついには出て行こうとした少女を、ルクラは咄嗟に止めようとした。
少女の身体を抱きとめて、ベッドに戻そうとしたのだ。
きっと相手はそれに腹を立てて、先ほどより数倍酷い口を利かれるかもしれなかった。
しかし少女の身の事を思えば、そんな事を恐れて行動に出ないルクラではない。

「だっ……だめですっ! 安静にしてなきゃ――!」
「五月蝿いですわねっ!!!」

案の定少女はルクラを振りほどこうと暴れ始める。

「そこをどきなさっ――!?」

しかし。

「あ……ぅ……!!!」

一瞬身体に力を込めただけで、少女はがくりと膝を落としてその場に倒れこんでしまった。
なんとか両の手を床について、辛うじて自分の体を支えているその様子に、ルクラが慌てないはずがない。

「だっ……大丈夫ですかっ!? やっぱりまだ安静にしてなきゃ駄目ですよ!」
「うるさい、ですわ……!」
「さぁ、ベッドに戻りましょう?」
「触れるんじゃ……ありませんの……! 下賎の者がわたくしに、触れるんじゃ……!!!」

なおも少女は暴れようともがく。
否、もがこうとした。
それは力なく身体が揺れるだけで、ルクラでも簡単に止められる。
呆気なくルクラの手で少女はベッドに戻されてしまい、腹いせにルクラを睨みつけるも、同じようにベッドを飛び出す力は無いようだった。
そんな少女の様子に、ルクラは微笑む。

「ここは安全ですから。元気になるまで、ここでゆっくり休んでもいいんですよ。怖がらなくても大丈夫なんです。……何が来たって、あなたを守ります」

ルクラは、少女が自分を恐れているのだと思った。
眼が覚めたら見知らぬ場所に居たのだから、警戒をするのも無理はない。

「……だから、ね?」

少しでも安心させよう、そう思ってルクラは少女の手を取る。

「――っ!?」

しかしその手は、あっという間に振り払われた。
拒絶するように乱暴なそれを予想していなかったルクラの手は、サイドテーブルの角に思い切りぶつかる事となる。
鈍い音がして、ルクラは痛みに顔を歪めた。

「……ふん」

ベッドの上にのろのろと、再び起き上がった少女はルクラを鼻で笑う。
嘲りの視線で、痛みに顔を歪めたままのルクラを見やる。

「全てが見ていて不愉快なんですの。声も、言葉も、動作の一つ一つが嫌。今すぐわたくしの目の前から消えなさい」

冷たい、拒絶の感情しかないその声に、ルクラは表情を暗ませる。
 
「……嫌いでも、いいです。でも、お願いします。心配……なんです。居させてください……」
「何度、言わせる気かしら。……消えろ、と言っているのがわかりませんの?」
「お願いします……。まだ体調も優れないみたいだから、何かあったらって思うと――」
「黙りなさい、下衆が」
「………………」

身も心も凍りつくような声が部屋に響く。

「わたくしは、お前のような存在が一番嫌い」
「……っ……!」
「良い子ぶって、ただそうして恩を振りまくだけの存在が大嫌いなんですの」

少女の反応全てが、ルクラの予想外だった。
そして思い知る。
彼女は自分を恐れているのではない。
心の底から自分を軽蔑しているのだ。
しかしそれが判った所で、ルクラは納得できるはずもなかった。

「……ど、して……そんなこと……」

震える声で、なんとか声を搾り出して問う。

「わたしなにか……悪いこと、したの……? なんで……!」
「えぇ、悪いですわね。わたくしに何度も不愉快な気分を味あわせ、わたくしの視界をいちいち遮るほどの目障りな存在ですわよ、お前。……納得した?」

にっこりと笑みを浮かべ、心をずたずたに引き裂かんと、ルクラの全てを否定する言葉を紡ぐ少女に、ルクラはもう限界だった。
身体を震わせ、目の前の少女への恐怖と、罵倒の悲しみに涙を零し始めたのだ。
少女はその光景をまるで塵でも見るような目つきで見下しつつ、言葉を続ける。

「出来る事ならその顔を滅茶苦茶に切り裂いて、その身体をバラバラにして犬にでも食わせたい所ですわ」

手を伸ばし、乱暴に突き飛ばす。
いとも簡単に床に倒れこんだルクラを睨みつける。

「――消えなさい、下衆が」
「う……。……うぅ……うぇぇ……!」

ルクラが泣き声をあげて、それから部屋を出て行くまでの姿を少女は眼にしない。
最早彼女の存在など、少女には無いも同然だったのだ。
ベッドに不満げに寝転がり、自分に背を向けたままの少女を見て、ルクラは嗚咽を漏らしながら、部屋を後にした。

【2】
『Fairy's INN』と呼ばれる宿がある。
外部は完全に隔てられており、偶然迷い込むか、妖精達に誘い込まれない限りは入ることが出来ぬ場所。
ルクラはたまたまこの島に来て早い時期に妖精達に誘われ、何時でも来る事ができるようになっていた。
ここに来る理由は人によって様々だが、ルクラは眠れない夜、ここに来る事にしている。
無性に寂しくなった時、ここで様々な人と語り合い、紛らわすのだ。
今日も彼女は、ここへ来ていた。
そして今日も、いくらかの喧騒を楽しんだ。
少女に酷い事を言われた悲しさを紛らわすために。

「ルクラも随分と落ち着いているな、私のときとは大違いだ」

この宿で出会い親しくなった一人、レオノールのその時の言葉だ。
その言葉を聞いたとき、ルクラは悪い事をしていたのがばれたような、そんな驚きが生まれた。
ちょっと誰かと話をして悲しみが紛れたらそれで良い。
その内心を見透かされてしまったように思えたのだ。

「実は……――」

ルクラは話すことにした。
胸の内にたまったもやもやを、吐き出すように。
少女の事を全て――無論、自分になされた仕打ちは全てひた隠しにした上でだが――レオノールや、その場に同席して居た何人かに話したのだ。

「見捨てちゃえば、いいんじゃないかしら」

全てをじっと黙って聞いてくれていた内の中の一人、ティアはそう答えた。
いつもの彼女らしくない言葉だとルクラは思った。
もっと歩み寄るような、そんな言葉を掛けてくれるものと密かに期待して居たのを裏切られた事に、一瞬息を詰まらせた。
だが、それと同時に自分の今の本当の気持ちが湧き上がった。

「……そんなこと、できません。わたしには、絶対に出来ない」

たとえどんなに自分に酷い仕打ちをするような相手であっても、あの少女はどう見ても、守られるべき立場にいるようにルクラは思っていた。
勿論永劫その立場に居る物だとは思わない。
だがその立場を脱するまでは、自分が守らねばという確固たる信念があったのだ。
その信念が、あの少女の言う『恩を振りまくだけ』の行動なのかもしれない、とルクラは初めて思った。

――それでも、あの子が元気になってくれるならそれで良い。

だが、その思いは信念を打ち砕くまでの力は持っていなかった。
どれだけ自分が嫌われようと、蔑まれようとも、犠牲になろうとも、”助けたい”という純粋な気持ちは不動だったのだ。

「なら、ホレ。やる事決まってんじゃないのさ」

ティアは最初からルクラの気持ちがわかっていたのかもしれない。
わざとそっけなく突き放して、自分自信の思いを改めて見つめなおさせ、そして確固たる物にする機会を与えたのかもしれなかった。
少なくともルクラにはそう思えた。
だが、まだ困った事が一つある。

「勿論、やることは決めてます。でも――」

そのために自分はその少女に、一体何をしてやれば良いのか。
それが全く判らなかった。

「心配しすぎ、なんでしょうか。時間が経てば、あの子も話してくれるのかな」

時間は大抵の事を解決してくれる物。
時間が経てば、あの少女も少しは心を開いてくれるようになるのだろうか?
そんな疑問を口にすると、ティアはすぐさまこう答えた。

「時間だけじゃ、無理無理無理。当たり前の事を考えれば、見捨てるのが正解なのよ。でもそれが嫌なら、笑顔で要るべき立場でいなきゃいけない人間がさー。そーんな顔じゃ駄目駄目。笑顔のまんまお節介し続ければいいじゃない。それを出来る自信がないなら、見捨てるべきだと私は思うわよん」
「笑顔のまんま……お節介」

眼から鱗の思いだった。

――そうだ。わたしがあの子を守らなきゃいけないのに、笑ってなかったら……、あの子不安なままだ。

「事情を知らなくてもできることはある、そこの手を尽くすことからじゃないのか?」

続くレオノールの言葉にも、同じ思いを抱く。

――事情なんてわからなくたって、あの子にやれることは一杯あった。……わたし、そんなこと考えもしなかった。ただただ、うろたえるばっかりだった。

もやもやが、一気に晴れた。
それと同時にルクラの中には、硬い覚悟が形成された。

――そうだ。簡単な事じゃない。ずっと笑顔で、何を言われたって笑顔で、あの子のために頑張るんだ。何を悩んでたんだろう、わたし。すごく、すごく簡単じゃない。

島で学ぶ事は多い。
だが、この宿で学ぶ事はもっと多かった。
どうしても気分が浮かずに、なんと無しに頼んでしまったブラックコーヒーを一気に飲み干し、その苦さに顔を顰めてから、ルクラはそれ以降明るい笑みを絶やすことはなかった。

【3】
宿から戻り、部屋を飛び出し、再び少女の眠る部屋へ訪れる。
少女は、眠っていた。

「……う……ぅ……」

しかし何かに苦しみ、うなされていた。

「……れ……った……。……ら……ず……」

誰かの名を呼び、両の目尻からは涙を零し、泣いている。

「………………」

だからルクラはそっと微笑んで、少女の手を優しく握り締めた。

「あ……ぁ……。らず……れ……った……」

心なしか少女の表情が和らいだ気がした。
手を握り締め、自分の頬に押し付けて、ルクラは呟く。

「……大丈夫。大丈夫だよ……。大丈夫……」

瞳を閉じて何度も、何度も。
少女に言い聞かせるように呟く。
何時しかルクラは、そのまま眠りに落ちてしまった。

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