忍者ブログ
六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 http://bellmelody.sakura.ne.jp/FalseIsland/FI/1.html

拍手[0回]

PR
 夜空見上げて
 
 
【1】
皆が寝静まった後に、こっそりとルクラはテントを出て適当なところに腰を下ろし、空を見上げた。
満天の星空だ。
最も遺跡内で天気が悪かったことなどは無かったから、いつ見上げても同じ星空がそこにあった。
一年前に遺跡に初めて足を踏み入れたときと、今見上げている星空は、寸分違わぬ作り物の同じ空。
しかしそれでも今日は、改めて新鮮な、そして少し寂しい気持ちで眺める事ができた。
もうこの空を眺める事は、今日限りだったからだ。
 
「何処に行ったのかと思えば」
 
聞きなれた声の方向へ顔を向ければ、見慣れた姿。
 
「あ……パジャマ、着てくれたんだ」
「貰った以上は着てあげないと、服も貴女も拗ねてしまうでしょう?」
 
いつもと違うのは、お菓子と一緒にようやく渡せたプレゼントのパジャマを着ていること。
彼女は黙って自分の隣にハンカチを敷いて座り、同じように星空を見上げる。
 
「眠れませんの?」
「ん……そんなとこです」
 
星空を見ながら、互いに視線は向けず。
 
「此処で過ごす夜も、今日で最後だから。……しっかり目に焼き付けておきたいな、って」
「ふぅん……。そういうものなのかしら」
「しません? さぁお家に帰ろう、ってなったとき、なんだか無性に寂しくて。……つい、そこの景色を必死に覚えるの」
「考えたこともありませんわ。わたくしには妹の姿さえ焼きついていればそれで良いもの」
「そっか……。ふふ」
「何か可笑しくて?」
「ううん。……リズレッタって、ほんとに良い『お姉ちゃん』だな、って思っただけ」
「……含みを感じるのだけど」
「そんなことないですってー。……わたしも見習いたいぐらい、リズレッタは素敵なお姉ちゃんですもん」
「ふん……精々頑張る事ですわ」
「うん。……んー」
 
ごろん、とルクラは仰向けに寝転がった。
身体は草が柔らかく受け止めてくれたが、首筋に当たるそれは些かくすぐったい。
 
「綺麗だね」
「そうですわね」
 
より大きく眼前に広がる星空を、文字通り眼を輝かせて何時までも眺める。
 
「……?」
 
しかしふと、視界が遮られた。
リズレッタが、じっと自分を覗き込んでいる。
 
「リズレッタ……?」
「……さっき、妹の姿さえ、と言ったけど。少々考えを改めましたわ」
 
一瞬だけリズレッタは視線を横に逸らし、そしてまたルクラを見つめて。
 
「貴女の事は、記憶に留めて、目に焼き付けておいてあげましょう。感謝なさい」
 
星空を再び見上げ、そして手を伸ばした。
 
【2】
この島に訪れて、様々な事があって、そして少女と出会ったからこそ今の自分がいる。
それが前より良いのか悪いのか、ずっとリズレッタは答えを出せないでいた。
苦悩し、後悔し、星空に逃げ場を求めて届かぬ手を伸ばした事もあった。
だがそれももう、終わり。
隣に寝転がる少女と何気なく会話をするうちに、不思議なほど思考が冴え渡り、そして一つの答えが出た。
 
「……今なら」
「え?」
 
今なら、星空を掴めそうだ。
大きく開いた掌の中に、光が集う。
 
「リズレッタ……?」
 
そっと握り締めれば、確かな感触。
二粒の、星空を移しこんだ欠片がそこにある。
 
「受け取りなさい」
 
一つをルクラの手にしっかりと受け渡し、笑う。
 
「餞別ですわ。貴女とわたくしがここで出会い、過ごした時を証明する証。命の存在を許さぬ冷たい城の主からの賜わり物、大切になさい」
「……あ、ありがとう……!」
「それと」
 
自分の掌にも残った一つを見つめた。
 
「必ず、再び相見えることをこの欠片に約束なさい。これは命令……いや」
 
決して失くさぬ様にと力強く握り締めた。
 
「――友人としての、頼みですわ。ルクラ?」
 
見ればルクラは、感極まった表情をしている。
喜びすぎて、涙まで浮かべていた。
 
「う、うん……! うん! 約束ですよ……絶対、また会いましょうね!」
 
手の中で輝くそれを今一度確認して、溜まった涙を拭い去り、ルクラは精一杯の笑みを浮かべた。
 
「……えぇ」
 
それを見て、今まで妹にしか向けることの無かった笑みを、リズレッタも返したのだった。

拍手[0回]

 迷いの森に呑まれた子ら
 
 
【1】
「この辺には居ないみたいね」
「早速はぐれた?」
「……ふむ」
 
迷いの森、そう名づけられた魔法陣から出て直ぐの森に立ち入ったルクラ達。
一見はただの森だったのだが、矢張り島の奇妙な力が働いている異常地帯の一つだったらしい。
全員が方向感覚を失い、入り口を見失ってしまうのはあっという間だった。
 
「ラウルバーフさん……大丈夫かなぁ」
 
いつもの仲間は皆傍にいるものの、ついてくる事になったラウルバーフの姿はそこには無かった。
かれこれ探し続けて一時間は経過しただろうが、その姿は見つけ出せない。
 
「これ以上は無駄でしょう。放っておいてわたくし達は探索を続けるとしましょうか。出口を見つけるほうが先ですわ」
「え、えぇ!?」
「いいでしょう別に。だって――」
 
――判る! 判るぞ! 素晴らしい品々がこの森の中に眠っている! ククク……ハァーッハッハッハ!!!
 
「……別にあれ一人でも間違いなく問題ありませんわ」
「止めるヒマ無かったよね」
「一瞬だったな……」
「例えるなら回転床だらけのフロアに直進のみで突っ込む漢マッパーって感じね」
 
しかし彼の心配をしているのはルクラだけらしかった。
それも無理は無い。
ラウルバーフとはぐれたのは森に入る前からであり、彼は喜び勇んでこの迷路に何も考えず突っ込んでいったのだ。
 
「そ、そうかなぁ……」
「わたくし達も手探りで探索している状況ですわよ? 無駄に彷徨う結果しか見えませんもの。お判りかしら?」
「うーん……仕方ないですね……」
「ふむ。まぁ、依頼された事はこなしつつ出口を探す、でいいだろう」
「適当に色々拾ってくれ、だったわね? ……あ、珍しそうな雑草みっけ」
「雑草に珍しいとかあるんですか、姫」
「はいはーい。出口見つけに行く前にお菓子たべたいでーす」
「噂のルーちゃんの手作りお菓子タイムね?」
「あ……はい! 一杯作ってきましたよ! トリュフチョコに、ナッツクッキーに、マドレーヌ!」
 
【2】
「うむ、美味い」
 
ルクラ達の居る場所とはまた違う、迷いの森の中。
一人寂しく菓子を貪る男が居た。
 
「食べてみたまえバルミアラ。この味は金では買えぬだろうからな」
 
傍らに佇んでいる巨大な鳥にも菓子を分け与えつつ男、ラウルバーフは改めて森の中を見渡す。
 
「……森の中での合流は出来ぬな。方角すら判らぬ。空を飛んでみようとしたらそれも不可能であったから、彼らの所在を掴むのは至難の業と云える」
 
しゃくしゃく。
クッキーを頬張って。
そんな彼を巨大な鳥、バルミアラは咎めるような眼差しを向けていた。
 
「まぁ良いだろう。彼らは百戦錬磨、熟練の旅人だ。こんな場所で倒れることはあるまい。それに、だ。この素材の宝庫を前にして疼く身体を止める事ができただろうか? いや、無い」
 
視線に気づいたラウルバーフはそう言って笑う。
既に背中に背負った袋はあちこちで拾った雑多な品でパンパンに膨らんでいた。
呆れたようにバルミアラは首をすくめる。
 
「……ウム、腹ごしらえも出来た」
 
背負い込んだ道具袋から小型の斧を取り出して、ラウルバーフは適当な木に目をつける。
 
「折角だ、一本持って帰るぞバルミアラ。手伝え」
 
程なくして、迷いの森の中に木々を叩く甲高い音が響き始めた。

拍手[0回]

彼女の求めたものは
 
【1】
バレンタインデー。
独り身の若い男性が心を躍らせ、独り身の若い女性が甘味の先にある物を夢見て、人によっては業界の陰謀だと存在そのものを全否定し島全体が甘い香りに包まれる、そんな日。
 
「……よし」
 
残り少ないへそくりを全部使って、高級とはいえないが確かな材料を揃え、テーブルに全て並べた彼女にとって、バレンタインデーという日は、先ほど挙げたどの例にも当てはまらない。
こうして手作りしたチョコを、日ごろお世話になっている人に配って、感謝の意を示す。
ただそれだけの、少し特別な日。
二度目となっても、その意味合いは変わらない。
 
「あら……チョコを作っているのね」
「はい! 今年もたっくさん作って、お世話になった人に配ります! それに――」
「それに?」
「リズレッタには……特別なのを、作ります」
 
――筈だった。
それに気づいたのは、ルクラ本人ではなく。
 
「……ルクラちゃん。それだと、美味しいチョコは出来ませんよ?」
「……え?」
 
湯煎したチョコをかき混ぜる様をじっと眺めていた、老婆だった。
 
【2】
「この香りは……チョコレートか。うむ、良い香りだ」
 
野良仕事姿がすっかり板についてしまったラウルバーフが、漂う香りに薄く笑みを浮かべた。
 
「………………」
 
しかしどうやら、良い香りの元を作っているルクラの表情は暗いようだった。
そんな彼女をじっと老婆が見つめている様は、まるで彼女が叱られているような、そんな錯覚さえラウルバーフに引き起こす。
 
「ルクラちゃん。貴女がどんなことを思って、リズレッタちゃんに特別なお菓子を作ろうとしているか、当ててみましょうか。……あの子には、感謝の気持ちと、それに――」
 
老婆は人差し指をぴんと立てて、続ける。
 
「謝罪の気持ちを、篭めるつもりなのでしょう?」
 
ルクラは何も答えない。
だが、眉を潜め、ふっと視線を逸らしたところを見ると、どうやら図星らしいとラウルバーフは思った。
 
「ルクラちゃん。よく考えてみて下さい。……本当にその気持ちは、必要ですか?」
「え……」
「確かにもうすぐ、ルクラちゃんは故郷へ帰る事になるのでしょう。みんなとお別れもしなければいけません。でも、その事で誰かに謝る必要が本当にあるのでしょうか? 貴女がずっと故郷に帰りたがっていたのは、少なくとも貴女の身の回りにいる親しい人は皆知っているはずです。喜ぶことはあっても、貴女に謝罪をさせるような感情を抱く人は居ないと思うのだけれど……?」
「でも、リズレッタは……わたしからのプレゼント、受け取れない、って……」
「それは本当に、『貴女が故郷に帰るから怒って受け取ってくれなかった』のですか?」
 
ルクラは俯いて、微動だにしない。
そして一瞬はっとしたような顔をして見せた。
 
「……あの子がそんな事を思わないのは、ルクラちゃん。貴女が一番判っているんじゃないかしら?」
 
その表情の意味を、老婆は正確に汲み取ったようだった。
 
「わたし……」
 
ルクラはそこまで口に出すと、悔しそうに唇を噛んだ。
 
【3】
謝る事など無かったと、自分で判っていた。
絶対にまた、みんなに会いに行くんだと決意を固めた筈なのに、あの時。
 
――あの……『ごめんね』、リズレッタ。
――謝る必要はないでしょう?
 
今までずっと近くに居てくれた彼女に、一番言ってはいけない言葉をあの時、口に出していた。
老婆に諭され、それに気づいたときのルクラの悔しさといえば、筆舌に尽くしがたいものがあった。
 
「……故郷に帰るのは、間違いなんかじゃないって、判ってたのに」
 
両の拳を握り締める。
 
「ちゃんとそう、判って、悲しいお別れには絶対にしない、って決めたのに……わたし……!」
「落ち込むことはありませんよ、ルクラちゃん」
「でもっ! 決めたことをわたし忘れて、リズレッタにあんなこと……!」
 
ルクラの目には涙が溜まっていた。
悔しくて滲み出てきた物だと、老婆にもすぐ判った。
 
「……事情はよく判らないのだが」
 
その様子を見かねてか、今までずっと静観の立場に居たラウルバーフが口を開く。
 
「取り返しが付かないわけではあるまい、少女よ」
「それはそう……だけど! 決意したのに、わたしそれをすっかり忘れて……それが許せないんです! 自分が……自分が許せない!」
「そう自分を責めることでもあるまい。……決めた決意を一度は忘れ、そして今こうして思い出して悔し泣きをしている。十分すぎるほど上等な結果だと思うがね」
「………………」
「君は“決意を固める”という行為が、どれほど困難な物か考えたことがあるかね?」
 
ラウルバーフは薄く笑みを浮かべ、そしてルクラをじっと見つめた。
 
「無いだろう。無いに決まっている。君にはその必要はないからな」
「それは、どういう……」
「言っただろう。“今の君の状況は十分すぎるほど上等な結果”だと。君にとって決意とは、それほど困難にならない取るに足らないものなのだ。……おっと、これは悪い意味ではないぞ。むしろ、喜ばしい。少女よ、君はまだ子供だ」
 
“子供”という単語に、ルクラは少しだけ不快感を露にした。
 
「だがはっきり言ってその辺の大人より、立派だ。決意とは総じて忘れ去られていく物なのだよ。強く心に誓ったはずが、時間の経過と共に、まるで物体が腐るように、風化するように消えていく。……それを君はきちんと拾い上げ、磨き上げて再びしっかりと眼に焼き付けた。これは例え大人でもなかなかできるものではない」
 
しかし続くラウルバーフの言葉に、いくらか表情を和らげる。
 
「悔やむのは結構。だがもうその辺にしておきたまえ。君にとって後悔の時間は長すぎるほど悪影響だ。そして、これだけを素直に聞き入れてはくれないかね」
「……?」
「――涙を拭いて、気持ちを切り替え、腕によりをかけて最高の菓子を作りたまえ」
 
“そして是非とも味見させてもらえないかね”と付け加え、にやりとラウルバーフは笑う。
 
「ラウルバーフさん……」
「いやはや、流石に小腹が空いてな。それに……菓子作りとは楽しくやるものだと妻にも娘にも教わった事があるのだよ。そうだろう、ご婦人?」
「……えぇ」
「………………」
 
老婆にラウルバーフは顔を見合い笑う。
そして、再びルクラへと視線を向けた。
 
「……わかりました! おばあさんに、ラウルバーフさん……ありがとうございます! そうですよね……楽しい気持ちで、お菓子って作るものですよね!」
 
彼女はもう照れ笑いを浮かべながら、そんな事を言っていた。
 
「えぇ。貴女だけのお菓子を、あの子に振舞ってあげて頂戴?」
「はい! ……あ、お婆さん! チョコだけじゃなくて……クッキーとマドレーヌも作りたいんですけれど、材料を借りてもいいですか?」
「勿論いいですよ。場所は……もう判りますね」
「はい! よぉ~っし……最高のお菓子を作りますから! 期待しててくださいね!」
 
ぱたぱたと足音を立てて、新しく材料を取りに行ったルクラの後姿を見届けながら、ラウルバーフはもう一度声を漏らさず笑った。
 
「良い子でしょう?」
「そうですな。実に面白い少女だ」
 
すぐに薄力粉の入った容器を持って来て、次に作るべきお菓子の準備を進めながら、ルクラは今度こそ、迷いの無い明るい表情でキッチンに立っていた。

拍手[0回]

カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最新CM
最新TB
プロフィール
HN:
鐘の音
性別:
非公開
自己紹介:
SD
-Eno.850セサリカ=ゴトランド(終了)
-Eno.37シルヴェリア・ミューアレネンス
偽島
-Eno.455ルクラ=フィアーレ→リズレッタ・メリゴール(終了)
六命
-Eno.1506レミス&ミーティア
バーコード
ブログ内検索
カウンター
リンク
酪農戦隊
酪農兵器
功夫集団
アクセス解析

Copyright © おしどり夫婦が行く。 All Rights Reserved.
Material & Template by Inori
忍者ブログ [PR]