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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 いつもと違う一幕
 
 
【1】
 
「ど、どうかしら?」
「……これは……」
「……そうですねぇ……」
 
珍しくエプロンを身につけ菓子を振舞っているのはリズレッタ。
テーブルにどんと乗せられたクッキーは大きさも形も不ぞろいで、それらを口にしたルクラと老婆の顔は複雑なものであった。
 
「焦げてしまってますね……」
「し、しっかり火を通した弊害ですのよ!」
「なんか、酸っぱい味がする……?」
「アレンジしてみましたの!」
 
無言。
贔屓目に見ても“まずい”と二人の表情は物語っていた。
ややしばし居心地の悪い時間の経過を持って、ようやく老婆が口を開く。
 
「そうですね……初めて作ったお菓子にしては上出来だと思いますよ、お嬢さん」
「本当ですの?」
「えぇ。でも上達にはいくつか課題が残ります。……何といってもまずは、大きさを整えることですね。不ぞろいだと均一に火を通すことが難しくなって、たとえばこの大きなクッキーにしっかり火を通そうとすると、これより小さなクッキーは焦げてしまうでしょう」
 
続けてルクラが、半分だけようやく齧って飲み込んだクッキーを皿に戻してリズレッタに聞く。
 
「えっと……レモンの汁入れたんですね」
「そ、その通りですわ。……わかりますのね。隠し味だったのに」
「……どれぐらい入れた?」
「二つですわ」
「……大匙?」
「ですから二つですの」
「……全然隠れてないし、慣れないうちのアレンジは失敗の元だよ? と言うかいくらなんでも、レモン二つ分の果汁は入れすぎだと思います……」
「そ、そうですの? でも生地が多かったしこれぐらい入れなくてはと……」
「目分量とかも慣れないうちはだめ」
「う……」
 
ぴしゃりぴしゃりと指摘するルクラに、リズレッタはやや涙目を見せて。
 
「……はぁ。本当にわたくし、だめですわね……。こんなことも満足にできないなんて」
「ちょ、ちょっと。すぐ落ち込むんだから!」
「そんなに気を落さないで、お嬢さん。誰だって始めはそうなのですから」
「そうですよ! わたしだってひっどいのを最初は作り上げましたよ!」
「でも……わたくしの失敗作なんかより全然良いものでしょう……?」
「私は最初にクッキーを作ったとき、砂糖と塩を間違えましたねぇ……」
「わたしは岩みたいに硬いクッキーとオーブンをダメにしかけました!」
 
“それに比べたらまだ……”“ねー!”などと昔の失敗談を笑い話に変えつつ、老婆とルクラは笑っている。
 
「ふふ……なんですの、わたくしよりよっぽど酷かったのですわね」
「えぇ。だから言ったでしょう? 初めてにしては上出来だと……」
「確かに酸っぱくて食べ辛いけど……でもまだ食べられますもん! 練習したら美味しいお菓子が作れるようになりますよ!」
「そう……ですわね……。えぇ、わかりましたの。もっともっと、頑張らないと」
「そう! その意気です!」
「また作りましょうね、お嬢さん」
 
三人分の笑い声が響く……。

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