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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 力の使い方
 
 
【1】
今ルクラとリズレッタは、たった二人で目の前の敵と対峙している。
ニコニコと笑いつつも、敵意を向ける目までは隠さない少年と、付き従う巨大な獣二匹。
見た目からしてかなり強そうな――とくに獣が――存在に、ルクラは内心恐ろしくて仕方なかった。
 
「あの先に居る連中は、わたくし達で片付けますわ。別行動を取ることを提案しますの」
 
そんなリズレッタの発言で、こんな状況になっている。
反論はしたが有無を言わさぬリズレッタの様子に、ルクラは折れるしかなかった。
どうにかリズレッタを言い負かすか説得して愛瑠やエクト、スィン達とともに行けばよかったと思うが最早後の祭り。
そもそもそんなことが自分にできたかと自問自答すれば1秒で“無理”の答えが返ってくるのだ。この状況は必然的とも言えた。
改めて目の前の敵を見る。
以前一度、出会ったことがある連中だ。名前はエド。
獣のような感じを受ける少年で、自分の知り合いにも似たような子が居たな、と考えは右往左往するばかりである。
 
「えーとねぇー・・・・・・なんかね、この道は島の核へと繋がる一本道だったんだってさ!それで神崎さんは慌てて先に行っちゃった。『お前はここにいろ。誰も通すな。』だって。ひどいよねー、お前・たち・だよねぇ。」
 
ぴりぴりと空気が張り詰める。
もう数秒もすれば襲い掛かってくるのが予想できる。
どうしてこんなことになったのか――。
数時間前の出来事を、ルクラはまるで走馬灯のように思い出すのだった。
 
【2】
「『力』が変わったと実感しているかしら」
「え?」
 
別行動を取って直ぐ、そんな言葉がリズレッタの口から飛び出てきた。
さぞ間抜けな表情で聞き返したのか、リズレッタは眉を潜めつつ、少し面倒臭そうに口を開く。
 
「目覚めて以来、貴女は自分の力が変わったと感じたことはありまして?」
「……そういえば……。なんか、感覚が変、かも」
 
先の一戦、タコのような謎の生物に、砂上を我が物顔で行き来する踊り子と対峙したとき、ルクラの攻撃の命中率はあまりよくはなかった。
いつものようにやっているはずが、何故だか違和感を感じる。
そんな感覚に支配されて、うまく集中できなかったのが原因だった。
 
「あんなことがあった後だから、感覚鈍ったのかなって思ってたんだけど……」
「鈍ってなんかいませんわ。正常。寧ろ、鋭いぐらいですの」
「そうなの?」
 
リズレッタは黙って、ルクラの右手を取る。
手首に嵌められた凍りついたバングルを、お互いよく見える位置にまで持ってきてから、再び話し始める。
 
「貴女の暴走の原因は一つ。この島の『マナ』ですわ」
「え……。でも『マナ』はそんなこと……」
「此処の島は、貴女の故郷のものとは少し質が違う。……それは判っているのでしょう?」
「確かに、そうだけど」
「急速な成長を約束する……。この島に来てから、めまぐるしく変化する自分の身体を変だと思ったことは無くて? 通常ならありえない速度でしょう? こんな短期間で此処までの成長なんて」
「……うん。それが、この島の『マナ』のおかげだって言いたいの?」
「そう。そして貴女の力が暴走したきっかけも『マナ』だと言いたいのですわ。……噂で耳にしたことはあるのではないのかしら? 地下二階の狂人共の話。暴走の典型例ですわ。もっとも、貴女の場合の暴走はやや違ってくるけれど」
「んーと……つまり……?」
「このバングルは」
 
少しだけ握ったルクラの腕を上げる。
 
「貴女の姿を偽るだけの品ではありませんわ。……貴女に強い力の抑制を掛ける働きもある。……いえ、性格には、偽りの効果を持つのははめ込まれた宝石が。バングル自体は、貴女の力を封じ込めていますの」
「封じ……? まさか」
「わからなくても理解なさい。事実ですのよ。その力と向き合って片腕を一度飛ばされたわたくしの言葉を信じないと?」
「そ、そうじゃないけど……」
「本来なら、そのバングルだけで十分押さえつけられるはずだった力。けれど……この島の『マナ』の作用の一つ、先ほど挙げた『急速な成長効果』がその本来を崩してしまった。抑えられないほどに、貴女に秘められた力を強めてしまった。だから……あんなことが起こったのですわ」
「……それじゃあ、また……暴走しちゃうの? このままだと……」
 
不安げな表情を見やり、リズレッタは薄く笑った。
 
「それはもう無いでしょう。今の貴女はこの島の『マナ』から遮断された状態なのだから」
「えっ!?」
「わたくしは元々、この島の『マナ』なんて得体の知れない力とは付き合っていませんの。遮断する術を知っていて、それを使って決して触れないようにしていた。勿論それは簡単な方法ではありませんけれど。わたくしのような存在になって始めて使えるような高等な術ですわ。このバングルにもう一度封印を施した時に……わたくしの力を大分込めましたのよ。感謝なさい?」
「あ、ありがとう……。……んと、それってつまり、封印をもう一度施した所為で……リズレッタの力がわたしに?」
「えぇ。貴女も使えるようになった。このわたくしの力に、貴女は今一番近い所に居ることになりますもの。それぐらい造作も無いこと。現にもう意識せずに使っていますし」
「だからなんだか違和感があったんですね……」
「元々貴女は力が強すぎるのですわ。別にこの島の『マナ』なんて無くとも全く支障が無いぐらい」
「そうなんだ……でも、しばらくは皆に迷惑かけちゃいそうですね……」
「すぐに慣れるでしょう。そのための別行動ですもの」
「え?」
 
にやり、とリズレッタは笑っていた。
 
【3】
 
「全力で……辺りを破壊したって構わない。全力で戦いなさい。それが一番近道ですわ」
「リ、リズ――」
「・・・・・・っま!そういうわけだから、よろしくぅッ!!」
 
ルクラの戸惑いの声は、凶暴な獣の声に掻き消された。

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