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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
「あっ! お姉さま!」

自分の姿を見つけるなり、本当に嬉しそうな表情でラズレッタは駆け寄り、擦り寄ってくる。
それが本当に可愛らしく愛しくて、少女はいつもラズレッタを優しく抱き締めてやっていた。

「もうお姉さまったら。最近よく一人でどこかへお出かけされていますのね?」
「ごめんなさいね。お詫びにはならないかもしれないけれど、今から一緒にどこかへ行きましょう? それで、許してくれるかしら?」

ぎゅっと痛いぐらいに抱きついてくるラズレッタ。
少女はそれを返答と受け取って、にこりと笑って答えた。

「それじゃあ今日は、何をしましょう? 何でも言いなさい。貴女の望む事を一緒にやってあげますわ。珍しい物が欲しい? その辺の生きている『おもちゃ』で遊びましょうか? 両方合わせてしまうのもいいかもしれませんわね。 『おもちゃ』達から貴女の好きなものを取り上げてしまいましょう?」

いつも自分達がやっていた事を、いつものように提案する。
すぐにラズレッタは、無邪気で残酷な笑みを浮かべて、それから”キヒヒ”と笑って一番最後の提案に乗るに違いなかった。

「――いいえ」

――少なくとも、今までの夢ではそうだった。

「え?」
「今日は、珍しい物も欲しくないし、『おもちゃ』遊びもしたくありませんわ」

思いも寄らぬ反応に、少女は戸惑う。

「それじゃあ、どうするというの?」
「今日は……」

ラズレッタは顔を俯かせ、頭を少女の胸に擦りつけ、言葉を詰まらせる。
今まで見たことも無いその姿に、少女の戸惑いは続いた。
だが、その声色は淀ませる事なく、優しく語りかけてやる。

「どうしたの? お姉ちゃんに言って見なさい?」
「……今日は、お姉さまにお伝えしたい事がありますの」
「わたくしに……?」

顔をあげたラズレッタ。
その表情を見て、少女の表情は驚愕に染まった。

「もっともっと一杯一杯、お姉さまと一緒に。ずっとずっとずっと色んな豚たちを躾けてやりたかったけど。……お姉さま、どうか、長く、良い御余生をお過ごし下さいませ」

ラズレッタは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。

「それは……一体、どういうこと? 答えなさいラズレッタ」
「きっとこれはわたくしの願いですの。この一言だけを、お姉さまに伝えたかったのですわ」
「意味がわかりませんわ。ラズレッタ、貴女今日は可笑しくてよ? いつものように、一緒に遊びましょう? そんな――」
「だってだって……! わたくし、もうお姉さまとは一緒にいられませんの……。お姉さまとは帰るところが違いますのよ」
「何を……!?」

少女ははたと気づいた。
ラズレッタの身体が段々と薄れていっている事に。
その存在が急激に、自身の目の前から、夢の中から、永遠に消え去ろうとしていたのだ。

「お姉さま、今までありがとうございました。お姉さまを置いて逝くわたくしをお許し下さい」
「嫌……待ちなさい」
「ごめんなさい。もう、時間ですの。……さようなら、お姉さま。ラズレッタはお姉さまを……世界中で誰よりも深く深く、お慕い、もうして――」
「だめ……! 待ちなさいラズレッタ!」

涙を流しながら、無理矢理に笑みを作っていたラズレッタだが、最後の最後で悲しみに耐え切れなかったのだろう。
両の手で自分の顔を覆いつくしてしまう。
少女がもう一度、ラズレッタを抱きしめようとしたがそれはもう叶わぬことで。

「……ラズレッタ……」

一人取り残された少女の意識も、直ぐに深淵の中へと沈んだ。

【2】
夢から覚めた後、少女とルクラが交わした一騒動は省略する。
”何でもする”というルクラの言葉に、少女は不気味な笑みを浮かべていた。

「じゃあ、貴女。わたくしの妹になりなさい」
「はいっ! ……はいっ!?」
「何?」
「い、妹になる、ですか?」
「えぇ、そうですわ。問題でも? なんでもしてくれるというお話でしたわね?」
「そ、そうですっ! わかりました、なりますっ!」
「そう、それで良いのですわ。……では、そうなるからには四つ、注文をしますわね? 今の貴女は、わたくしの妹になんて全く相応しくない、その辺の塵と変わらない存在なのだから。見合うように変わって頂きますの」
「は、はいっ! なんでもどうぞ!」

始めは戸惑い、慌てていたらしいルクラだが、また直ぐに笑みを取り戻している。

――ふん。気に食わない。この笑みも失くしてしまいましょう。

その笑みは少女にとって大変不愉快な物だった。
密かにそんな事を思い、少女はまた不気味な笑みを浮かべる。
少女がルクラに命じた事。
それは、”自分の妹になれ”という無茶苦茶なものだった。

【3】
それから三日後。
すっかりルクラは、少女のお望みどおりの妹となっていた。
浮かべる笑みは明るく子供っぽいそれではなく、控えめで気品を感じさせる物。

「おねえさま? 今日はどうしますの?」

そしてルクラの口から飛び出す言葉は、いつものルクラの言葉ではなかった。
まるで少女が用いるような、上品な口調。
一日掛けて少女がルクラに文字通り叩き込んだ成果は、確かにそこに存在した。
何でもするというのなら、自分好みの妹に仕立て上げてしまおう。
このどうしようもない喪失感を、この馬鹿な少女を使って少しでも埋めよう。
”教育”などという生易しいものではない、”調教”によって、少女は目の前の少女を自分の思うが侭に変えたのだ。
一つ、言葉遣いや振る舞いを直すこと。
一つ、自分の事を”お姉さま”と呼ぶこと。
一つ、名を”ラズレッタ”と改める事。
一つ、ある笑い方を、覚える事。
少女がルクラに求めた注文、それは”ルクラ=フィアーレ”という存在を完全に無視した物だった。

「……何もありませんわ。適当に、散歩をしますの」
「はい、わかりましたわ」

面倒臭げに返しても、ルクラはにっこり笑って、そして気品を保った言葉を返し、少女の手を引いて薄く雪化粧が施された草原を行く。
願いを聞き入れた日からずっと行われる、夜中の当てのない散歩だった。

「おねえさま、見てください? 雪が降ってるというのに、月が顔を覗かせていますわ」
「あぁ……とても綺麗ね」
「えぇ! ……キヒヒ♪」

夢の中に現れたラズレッタの特徴であるとも言える独特な笑い声。
少女が注文したとおり、ルクラはちゃんとその笑い方を覚え、使いこなしていた。

――違う。

しかし、それは少女の思ったものとは違っていた。
声が違う。響きが違う。笑い声の中に含まれる嘲りは存在しない。
もっと本当の妹の笑い声は、この世の全てを馬鹿にしたような笑い声だったのだ。

――こんな、こんな笑みじゃない。

その笑みには、純粋さと、底抜けの明るさと、この世の全てを愛するような慈愛に満ちていた。
邪悪さと、底無しの暗さと、この世の全てを見下すような笑みではなかったのだ。

――何もかもが……。

自分の思うように変えていく度に、少女の苛立ちは募るばかりだった。
似ているようで、違う。
喪失感は埋まるどころか、ますます広がっていく。

――違う。違う。ちがうチガウ……。

自分の思うように変えていく度に、少女は思い知っていたのだ。
妹は、本当のラズレッタは二度と自分の目の前に、夢の中にさえもう現れないのだと。
少女はその場に立ち止まり、俯いた。
突然の抵抗感にルクラは首をかしげ、そして少女の顔を覗きこむ。

「おねえさま?」
「……違う」
「え――?」

とん、と少女はルクラを軽く突き飛ばした。
抗う事はせず、その場にしりもちをつくルクラ。
少女はさらに、ルクラの上に馬乗りになり、大きく手を振り上げた。
その手には、蒼白く輝く氷のナイフが一振り、収まっている。

「違う。何もかもが……違うのよッ!!!」
「っ――!!!」

絶叫と共に、少女はナイフを躊躇なく振り下ろした。
鈍い音が僅かに響く。

「……お……ね……さま……?」

視線を横に移せば、顔と1センチも離れていない位置に突き立った氷のナイフが見えるだろう。
草原の上に倒れこんだルクラは、眼を見開きじっと少女を見つめている。

「何を怯えているの」
「ひっ……!?」

少女はナイフを抜き取り、ルクラの首筋にあてがった。
少し肌に沈ませると、途端に切り裂かれ、真っ赤な血が滾々と湧き出し、刃を伝って流れ出す。

「や、やめ……て」
「何を言うの? ラズレッタ、貴女はこれがとても大好きだったじゃないの。首筋を切り裂いて、噴水のように血が噴出すのを一緒によく眺めたのを忘れたの? お互いが真っ赤に染まって、それから二人で仲良く、血を全部舐めとるの。身体の隅々まで」
「そ、そんなこと……したら、死――」
「笑いなさい。喜びに打ち震えなさい。早く、早く斬ってとわたくしに乞いなさい。さぁ」
「……っ……!!!」

ルクラはがちがちと歯を鳴らし震え、目尻に涙を溜めている。
少女はその光景を見て、哂った。

「嫌だというの? 出来ないというの? わたくしの妹はそんな子ではないわ。そうでしょうラズレッタ?」
「うっ……ぅっ……!!!」
「ふん……やはりお前は妹ではありませんわ。何の価値も無い下衆だ。さぁ、泣き喚きなさい。最上位たるわたくしに無様な命乞いをして見せろ。そして自らの行いを恥じて呪え」

――そしてその時が、お前の最後。姉妹ごっこは、お終いですわ。

少女はにたりと笑い、その時を待つ。
せめてもの自分への慰めに、自分の下に居る少女を最高の形で、絶望の底に叩き落し命を刈り取ろうと待ち構える。

「……は――」

ルクラの口が、動いた。

「は……やく……き……って……。おねえ……さま……!」

にっこりと、泣き笑いの表情を見せ、たどたどしく、しかしはっきりとルクラはそう答えた。

「ッ……!!!」

氷のナイフが、静かに崩れて消えていく。
少女の表情が怒りに歪む。

「ち……がう……! 違うッ!!!」

代わりに少女は、ルクラの頬を思い切り平手で叩き、それから胸倉を掴んで叫んだ。

「お前など……ラズレッタなんかじゃありませんわっ!!! わたくしの……わたくしの愛しくて可愛いラズレッタは、お前なんかよりずっと……! ずっと……!!!」
「おねえ、さま……?」
「五月蝿いっ! うるさいうるさいうるさいっ!!! そう呼んでいいのはわたくしの妹だけだっ!!! わたくしのっ……ラズ、レッタ……だけっ……!!!」

わめき散らしながら、少女は涙を流していた。
 

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