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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
「いたた……。こ……降参します……」
「成程……この分なら大丈夫そうね。よく出来ました、って処かしら?」

ルクラの降参を確認し、もう誰も戦う意思が無い事を確認すると、ティアは胸の中に残った空気を最後まで吐き出して、大きく伸びをして見せた。
南瓜の涙亭の面々との練習試合は、惜しくもルクラ達の敗北で幕を閉じたのだ。

「ふふ。これからが本番ですよっ!ぷにぷにの刑開始~♪」
「う~……でも約束ですものね! 思う存分ぷにぷにしていいです!」

負けたら罰ゲームとして一日ぷにぷにされる。
とはいえお互い顔を合わせれば必ずやっているような事を一日と限定したって、そう何かが変わるわけでもなかった。
リーチャがルクラにぎゅっと抱きつき、早速頬をぷにぷにとつつき、ルクラは少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにそれを受け入れている。

「じゃあ、ボク達は帰るね。ルゥちゃん、お疲れ様」
「また明日ね、ルーちゃん」
「では、失礼する」

その光景を面白そうに眺めつつ、メルとエクトは丁寧にお辞儀をして。
スィンは唯一練習試合中に倒す事ができた眼鏡がやたら印象に残る剣士と握手を交わして、彼女達に続いて宿へと戻っていった。

「……情けない」

リズレッタだけは、その光景を見て眉を潜め、不満を隠そうともせずそう吐き捨ててそっぽを向いた。
戦いに敗北をしたのに、何を嬉しそうにしているのか、全く理解が出来なかったのだ。
そんなリズレッタを見て、ティアはなにやら悪戯っぽい笑みを浮かべ。

「ねぇルクラちゃん」
「はい~?」
「あの子も罰ゲームの対象よね?」
「リズレッタですか~? いいですよ~♪ ぷにぷに~♪」
「なっ……!?」

ルクラにそんな質問をすれば、彼女はリーチャと楽しそうに遊びながら即答し。
勿論リズレッタにとっては寝耳に水である。
驚愕がその表情に張り付いていた。

「ばっ馬鹿を言わないで頂戴! このわたくしが何故お前達のふざけた遊びに付き合わないとっ――!?」
「リズレッタ。あんなことしたんですから、あなたも罰を受けるべきですよ? 練習試合であんな危ない事して……ティアさん達に何かあったらどうするつもりだったんですか?」
「あれはビックリしましたっ!」
「驚いたけど、ちゃんと捌けたから大丈夫よ、ルクラちゃん。かなり雑な範囲攻撃だったからね。……でも確かに、お仕置きが必要かしら?」
「なっ……なっ……!?」
「多人数での練習試合で何が大事か。……それは連携よ。なのにあんな、打ち合わせも何もしていないアクシデントみたいな事をしては、皆に迷惑が掛かるわ。だから、お仕置きね」
「大丈夫ですよリズレッタ、お仕置きって言っても怖くもなんともないですから。ぷにぷに~♪」
「ぷにぷに~♪」
「さぁ、覚悟しなさい……」

じりじりとティアがリズレッタににじり寄る。
リズレッタは、じりじりと後ろに下がるしかない。
練習試合中ルクラの力を無理矢理奪い取って大技を繰り出したのだ、逃げるために力を使う余裕は無かった。
必死に口を使ってなんとかティアを追い払おうとするしか、出来ない。

「ち、近づくんじゃ……寄るんじゃありませんわっ! お前なんかがこのわたくしに触れて良い訳が――!?」
「ふふふふふ……」

ティアの瞳が、怪しく輝く。
にじり寄る。
後ずさる。
寄る。
下がる。

「っ……!?」

石に躓いて、盛大に尻餅をつく。
ティアの魔の手(?)が、リズレッタに迫る。

「い、いや――」

罰ゲームの始まりであった。

【2】
遺跡を行くルクラ達の歩調は、何時もより緩やかだった。
実際行軍の速度は緩め、仲間達と雑談をする時間を豊富に取れるほど余裕のある移動である。
遺跡内の探索もかなりの程度進んできたようで、ルクラ達の耳にも様々な情報が入ってくるようになっていた。
ベルクレア15隊。
ゴーレムの群れ。
巨大な骨のエキュオス。
サンドラと名乗る謎の少女。
どれもかなりの強敵らしく、さて次の目的地はどうしようとルクラ達が悩み導き出した結論は――。

”慌てず行こうよ”

であった。
今までの探索は所謂『開拓者』と称される人間たちのペースに合わせて行っていたのだが、人では無い存在ばかりとはいえ、ルクラ達は子供である。
何時までも未知の部分に足を踏み入れ、戦い抜いていくような人々についていくにはかなりの無理が生じていたのだ。
別に一番乗りに財宝を目指すわけでもない、目的は地下三階にいるらしいもう一人のメルを見つけ出す事。
ならば慌てて探索を進めなくとも、そろそろ探索の手を緩め、自分達の力を高める事に専念しよう。
そう話が纏まった時、皆の表情が緩んだのをルクラは感じた。
それは勿論自分も例外ではない。
早く地下三階に行きたいという気持ちは勿論ある、だが無理をして全滅をしては意味が無いのだ。
それに、とルクラはメルを見やる。

「ちょっと余裕が出来たら、床にでも突っ込んでみようか? 強い敵がでるらしいけど、それぐらい勝てなきゃ3階なんて目指せないもんね」

今は平気に振舞っているようだが、また何時14隊との戦闘でのような出来事が起こるかわからない。

「……ん? ルゥちゃん、どうかした?」
「あ、いえっ! ……方針が決まって、なんだか肩の力が抜けました」
「そうだね。ボクらはボクらのペースでがんばろーよ」
「はいっ!」

だから彼女に悟られず、今まで以上に慎重にこの遺跡探検を進めよう。
ルクラは密かにそんなことを思っていた。

「……む」
「お出ましね。狼が……三匹。スリードッグ」
「姫様。ドッグは犬です」

狼が三匹、真っ直ぐ此方に駆けて来るのが見えた。
情報によれば、叫び声で自らを鼓舞し、その後繰り出す噛み付きが強烈だといわれている相手だ。

「噛まれないように気をつけよぅ」
「一匹ずつ確実に倒しましょう!」
「やっと思う存分暴れられそうですわね」
「リズレッタ」

会話を聞くだけであまり参加しようとはしなかったリズレッタが、狼を見て瞳を輝かせる様を見て、ルクラはまたあの練習試合のようなことが起こるのでは、という嫌な予感から声を掛ける。

「……わかってますわよ」

が、それはリズレッタも判っていたのだろう。
横目でルクラを見やり――罰ゲームをまた思い出したのか頬を少し赤く染めて――短く答えた。

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