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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 【1】
納得がいかない。
満足できない。
己の無力さに苛立ちすら覚える。
 
――覚悟はしていた。……でも、ここまでとは……っ……!
 
「その辺のゴミでも漁っていれば良い物を……」
 
倒れ伏し、その姿を巨大な牙へと変えた狼を睨みつけ、吐き捨てるように呟いたリズレッタの胸の内は、穏かなものではなかった。
 
「リズレッタ?」
 
ルクラに声を掛けられ、リズレッタは自分がずっとしかめっ面をして居ることに気づき、そっぽを向いて答える。
 
「……なんでもありませんわ」
「でも――」
「なんでもないと言っているでしょう? 二度も同じ事を言わせないでくれるかしら」
 
直ぐに平静を装い、つんと澄ました顔を見せる。
ルクラは納得のいかない――それは”不満”というより”心配”という感情で埋め尽くされているようだが、今のリズレッタにとっては鬱陶しいだけだ――様子を見せるが、それ以上聞いてくることはなかった。
 
「……何かあったら、何時でも相談に乗りますからね」
 
そんな言葉にも軽く手を振って応える。
耳の周囲に纏わりつくそれを払うような動作も兼ねていたが。
 
――……ふん! 誰がするものですか!
 
心の中でルクラの言葉を鼻で笑い飛ばし、リズレッタはキャンプの準備を手伝いに走る彼女の後ろ姿を見ながら歩き出した。
 
【2】
皆が寝静まった夜更け、一人キャンプから抜け出しあての無い散歩。
靴が平原の草を踏みしめる音と、傍を柔らかく通り抜ける風の音を聞きながら、リズレッタはただ歩く。
 
「………………」
 
人は勿論、小動物や、植物も。
誰もが皆寝静まっている。
静かな夜だった。
ふと横目に見やると、巨大な岩が鎮座しているのを見つける。
無意識のうちに足が向いて、それに腰掛けた。
視界に動くものは何一つ見えない。
誰にも邪魔される事の無い、考え事をするには最高の環境に自分がいる事を実感できる。
 
――思った以上に、力は失われていますのね……。
 
思い返すのはあの狼達と一戦交えて実感した事。
精々一度に二本までしか生成できなかった氷のナイフ。
動きの鈍い身体。
あの程度の雑魚相手にも手間取ったというのは、リズレッタの自尊心を大きく傷つけたと言っても過言ではない。
 
「……ラズレッタ……」
 
膝を抱え込み、顔を埋めて呟くのは妹の名前。
久しぶりに口に出した――今まで出せるような環境に無かったというのもあるのだが――その名前は、やはり心の喪失感を痛いほど刺激するもので。
思いは更に過去へと遡り始めたのだった。
 
【3】
”人斬り”と呼ばれる連中が居る。
遺跡内で他の冒険者に襲い掛かり、力で打ち負かし、金品を奪い取る人々の事だ。
大多数の冒険者によっては忌み嫌うべき存在である。
だが、そんな悪名高い彼らも遺跡外では大人しいものだった。
遺跡外での略奪・暴行行為は禁止されているのは、この島に訪れた冒険者なら誰もが知っている常識だ。
その影響力は凄まじく、どんなに凶悪な連中でも――悪事千里を走る、との言葉通りで、情報が島に広まるのは驚くほどに早い――遺跡の外に出れば必ずそのルールに従っている。
誰もが枕を高くして安心して眠れる、絶対のルールにより作られた安全地帯、それが遺跡外なのだ。
しかし、それを破った二人組がかつて存在した。
 
【4】
「お姉さまああああああ! 熱い、痛いよお姉さまあああああッ! 助けてッ! 助けてくださッ――――――」
「ラズレッタ――!!!」
 
自分の目の前で、光の奔流に飲まれ、断末魔の叫び声を上げながらラズレッタが消滅する。
一瞬にして消えうせた妹の姿をぼんやりと眺めるリズレッタに迫るのは、彼女達を”討伐”するためにやってきた冒険者達。
男が、リズレッタに向かい巨大な剣を振るった。
 
「ギッ――!!!」
 
成す術も無く、胴体を横薙ぎに断ち切られ、リズレッタは血溜まりの中に伏せる。
痛みは感じない、ただ噎せ返るような血の香りとともに倦怠感が全身に纏わりつく。
 
――これは……。
 
夢だ。
色々考え込んでいるうちに、まどろみの中に自分の意識を引き込んでしまったらしい。
思い出したくも無い、リズレッタにとっては忌々しい、夢だった。
 
「ヒ……ヒッ……!!! うふふ……あはは……!!! キヒヒ……ヒヒ……!!!」
 
地面に転がっている自分は、笑っていた。
胴体と共に斬られた左手を見て、残された右手で自分の眼を覆い隠し、只管に笑っていた。
 
「あぁ、今日は全く最悪の日……!
 こんなに良いように弄ばれて、この体たらく……うふふ……ごほっ……!
 なんて無様なのかしら……ね……ぇ……!
 あは……ごぼっ……ぅえっ……ヒヒヒヒ……」
 
笑い続ける自分の周りに、冒険者達が集う。
リズレッタはその光景を見て、眉を潜めた。
この後に行われたやり取りは、今思い返しても屈辱に顔を歪めるほどの事だったからだ。
 
「ィッ…………アアッ……ッガ……!!!」
 
――……え?
 
冒険者達は無言で、自分の身体に自分達の武器を突き立て、叩きつけていた。
苦しみもがく自分を、何度も何度も、渾身の力で攻撃している。
 
――違う……これは……違う! そんなはずは!!!
 
あんな事は無かった。
冒険者は自分に止めを刺すことなく、見逃したのだ。
だからこそ自分は殆どの力を失いつつもその命を繋ぎ逃げ延び、ここに居るのだ。
そのはずなのに。
 
「…………ッ……!!!」
 
助けを求めるように突き出した右手ごと顔面を貫かれ、夢の中の自分は痙攣を起こし、そして動かなくなった。
血に塗れた冒険者達は、暫くそれを眺めていたが――。
 
「ヒッ……!?」
 
一斉に振り返った。
そして武器を構え、ゆっくりと近づいてくる。
気が付けば、リズレッタは草原に立ち尽くしていた。
目の前で凄惨な死に様を晒している自分とは違う、メイドのような格好をした自分が夢の中の世界に立っている。
 
「ち……がう……こんなの……! いや……!!!」
 
リズレッタは初めて、恐怖を感じていた。
今まで受けるものではなく、自分が他者に与えるはずだった感情を、嫌と言うほど味わっていた。
身体はピクリとも動かない。
夢の中の自分を横薙ぎに断ち切った男が剣を大上段に構えた。
 
「い……や……いや……! たすけ……て……たすけ――!!!」
 
ぎゅっと眼を瞑り、リズレッタの瞼の裏に浮かび上がった姿は――。
 
【5】
「リズレッタ! リズレッタってば!」
「っ!?」
 
がくがくと身体を揺さぶられ、リズレッタの意識は急激に覚醒する。
視界一杯に広がっている空は真っ暗で、星が輝いて見える。
そんな視界の中に飛び込んできたのは、ルクラの顔だった。
今にも泣きそうな表情で、なんとも情けない。
 
「リズレッタ……!!!」
「あ、なた……どうして……」
「ちょっと眼が覚めたら……リズレッタが居なくって……! わたし、わたし心配で、探しにでて……! け、怪我はないですよね!?」
「え、えぇ」
「もお……! よかったぁ……!!!」
「ちょ、ちょっと、泣くのは止めなさい……!」
「だって、だってぇ……!」
 
しっかりと自分を抱きしめて、胸に顔を埋めてぐすぐす泣き始めたルクラを、リズレッタは何時ものように叱る事などできなかった。
 
――……何故……。
 
夢の中で恐怖に眼を閉じたとき、瞼の裏に浮かび上がった人物をただ眺めるしか、できなかったのだった。

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 ○練習試合

無事勝利しました。
反撃はミスしましたが!
四桁ダメージを必殺でたたき出せてかなり満足です。
お相手ありがとうございました、が!

○次回の練習試合も

同じPTの方との練習試合でした!
再びよろしくお願いします。

○次回のお相手(通常戦)
骨×3
ゾンビ×1
インプ×1

最早雑魚です。蹴散らしましょう。
熟練を稼いで骨を頂けると最高です。

○今回の必殺技

ドリフトライフ
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プリズムシューティング
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オリジナル名必殺技デビュー。
ネタが続く限りどんどん変えて行きます。

○自コミュにもお客様が

夜紅水織さん(833)とウィオラ=ウェルリアスさん(1747)が自コミュにいらしてくれました。
ごゆっくりしていってくださいませ!
ロール重視で対応させていただきます。

○東雲水音さんを語る

「みょん」が口癖? の可愛らしい水音さん。
でも男性です。そして吸血鬼。
所謂『男の娘』というジャンルに当てはまる子。
まだあんまりお話しては無いのでその内面までは知ることは出来ませんが、大人しめの男の子でいらっしゃいます。
お姉さんの火音さんは普段は自立可能な人形で、大人しめの水音さんとは対照的に積極的な方。
イメージカラーも蒼と赤と正反対です
どうやら吸血鬼なのも、お姉さんが人形なのも元からではないらしく、島にはそれを何とかするために来ていらっしゃる模様。
更新を追うごとに吸血鬼の一面が垣間見えたりするのでしょうか、楽しみです。
ちなみにお名前の読み方は『しののめ みおん』と『しののめ かのん』。
漢字って難しい。

○1000アクセス突破してました!

お越しいただきありがとうございます。ついに1000アクセス……。
これからもよろしくお願いいたします。

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【1】
「いたた……。こ……降参します……」
「成程……この分なら大丈夫そうね。よく出来ました、って処かしら?」

ルクラの降参を確認し、もう誰も戦う意思が無い事を確認すると、ティアは胸の中に残った空気を最後まで吐き出して、大きく伸びをして見せた。
南瓜の涙亭の面々との練習試合は、惜しくもルクラ達の敗北で幕を閉じたのだ。

「ふふ。これからが本番ですよっ!ぷにぷにの刑開始~♪」
「う~……でも約束ですものね! 思う存分ぷにぷにしていいです!」

負けたら罰ゲームとして一日ぷにぷにされる。
とはいえお互い顔を合わせれば必ずやっているような事を一日と限定したって、そう何かが変わるわけでもなかった。
リーチャがルクラにぎゅっと抱きつき、早速頬をぷにぷにとつつき、ルクラは少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうにそれを受け入れている。

「じゃあ、ボク達は帰るね。ルゥちゃん、お疲れ様」
「また明日ね、ルーちゃん」
「では、失礼する」

その光景を面白そうに眺めつつ、メルとエクトは丁寧にお辞儀をして。
スィンは唯一練習試合中に倒す事ができた眼鏡がやたら印象に残る剣士と握手を交わして、彼女達に続いて宿へと戻っていった。

「……情けない」

リズレッタだけは、その光景を見て眉を潜め、不満を隠そうともせずそう吐き捨ててそっぽを向いた。
戦いに敗北をしたのに、何を嬉しそうにしているのか、全く理解が出来なかったのだ。
そんなリズレッタを見て、ティアはなにやら悪戯っぽい笑みを浮かべ。

「ねぇルクラちゃん」
「はい~?」
「あの子も罰ゲームの対象よね?」
「リズレッタですか~? いいですよ~♪ ぷにぷに~♪」
「なっ……!?」

ルクラにそんな質問をすれば、彼女はリーチャと楽しそうに遊びながら即答し。
勿論リズレッタにとっては寝耳に水である。
驚愕がその表情に張り付いていた。

「ばっ馬鹿を言わないで頂戴! このわたくしが何故お前達のふざけた遊びに付き合わないとっ――!?」
「リズレッタ。あんなことしたんですから、あなたも罰を受けるべきですよ? 練習試合であんな危ない事して……ティアさん達に何かあったらどうするつもりだったんですか?」
「あれはビックリしましたっ!」
「驚いたけど、ちゃんと捌けたから大丈夫よ、ルクラちゃん。かなり雑な範囲攻撃だったからね。……でも確かに、お仕置きが必要かしら?」
「なっ……なっ……!?」
「多人数での練習試合で何が大事か。……それは連携よ。なのにあんな、打ち合わせも何もしていないアクシデントみたいな事をしては、皆に迷惑が掛かるわ。だから、お仕置きね」
「大丈夫ですよリズレッタ、お仕置きって言っても怖くもなんともないですから。ぷにぷに~♪」
「ぷにぷに~♪」
「さぁ、覚悟しなさい……」

じりじりとティアがリズレッタににじり寄る。
リズレッタは、じりじりと後ろに下がるしかない。
練習試合中ルクラの力を無理矢理奪い取って大技を繰り出したのだ、逃げるために力を使う余裕は無かった。
必死に口を使ってなんとかティアを追い払おうとするしか、出来ない。

「ち、近づくんじゃ……寄るんじゃありませんわっ! お前なんかがこのわたくしに触れて良い訳が――!?」
「ふふふふふ……」

ティアの瞳が、怪しく輝く。
にじり寄る。
後ずさる。
寄る。
下がる。

「っ……!?」

石に躓いて、盛大に尻餅をつく。
ティアの魔の手(?)が、リズレッタに迫る。

「い、いや――」

罰ゲームの始まりであった。

【2】
遺跡を行くルクラ達の歩調は、何時もより緩やかだった。
実際行軍の速度は緩め、仲間達と雑談をする時間を豊富に取れるほど余裕のある移動である。
遺跡内の探索もかなりの程度進んできたようで、ルクラ達の耳にも様々な情報が入ってくるようになっていた。
ベルクレア15隊。
ゴーレムの群れ。
巨大な骨のエキュオス。
サンドラと名乗る謎の少女。
どれもかなりの強敵らしく、さて次の目的地はどうしようとルクラ達が悩み導き出した結論は――。

”慌てず行こうよ”

であった。
今までの探索は所謂『開拓者』と称される人間たちのペースに合わせて行っていたのだが、人では無い存在ばかりとはいえ、ルクラ達は子供である。
何時までも未知の部分に足を踏み入れ、戦い抜いていくような人々についていくにはかなりの無理が生じていたのだ。
別に一番乗りに財宝を目指すわけでもない、目的は地下三階にいるらしいもう一人のメルを見つけ出す事。
ならば慌てて探索を進めなくとも、そろそろ探索の手を緩め、自分達の力を高める事に専念しよう。
そう話が纏まった時、皆の表情が緩んだのをルクラは感じた。
それは勿論自分も例外ではない。
早く地下三階に行きたいという気持ちは勿論ある、だが無理をして全滅をしては意味が無いのだ。
それに、とルクラはメルを見やる。

「ちょっと余裕が出来たら、床にでも突っ込んでみようか? 強い敵がでるらしいけど、それぐらい勝てなきゃ3階なんて目指せないもんね」

今は平気に振舞っているようだが、また何時14隊との戦闘でのような出来事が起こるかわからない。

「……ん? ルゥちゃん、どうかした?」
「あ、いえっ! ……方針が決まって、なんだか肩の力が抜けました」
「そうだね。ボクらはボクらのペースでがんばろーよ」
「はいっ!」

だから彼女に悟られず、今まで以上に慎重にこの遺跡探検を進めよう。
ルクラは密かにそんなことを思っていた。

「……む」
「お出ましね。狼が……三匹。スリードッグ」
「姫様。ドッグは犬です」

狼が三匹、真っ直ぐ此方に駆けて来るのが見えた。
情報によれば、叫び声で自らを鼓舞し、その後繰り出す噛み付きが強烈だといわれている相手だ。

「噛まれないように気をつけよぅ」
「一匹ずつ確実に倒しましょう!」
「やっと思う存分暴れられそうですわね」
「リズレッタ」

会話を聞くだけであまり参加しようとはしなかったリズレッタが、狼を見て瞳を輝かせる様を見て、ルクラはまたあの練習試合のようなことが起こるのでは、という嫌な予感から声を掛ける。

「……わかってますわよ」

が、それはリズレッタも判っていたのだろう。
横目でルクラを見やり――罰ゲームをまた思い出したのか頬を少し赤く染めて――短く答えた。

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○練習試合

負けましたっ。
が、負ければ負けるほど経験になるので中の人的には悔しくはなかったり。
打つ手は多ければ多いほどいいですしね!
ルクラは割りと負けず嫌いですが、罰ゲームの一日ぷにぷにがあるので大丈夫でしょう、きっと。
……練習試合なのにマジ技繰り出そうとしたリズレッタも勿論ぷにぷにの対象です(笑)
南瓜の涙亭と愉快な仲間達の皆様、お相手ありがとうございました!

○次回のお相手(通常戦)

狼×3

がぶがぶ怖い。

○次回のお相手(練習試合)

Ventulus
 ENo.640 ジェミリア・アークロンダム様
 ENo.660 リムステラ様
 ENo.684 アレフス・ニスロック様

相手にとって不足無し!
読み合いが勝敗を決めそうです。

○今回の必殺技

オリジナル名をそろそろ取り入れに行きます。
基本的にお姉さまは漢字と平仮名、ルクラは片仮名での技名です。
詠唱だけでなく二人のやり取りも掲載する事に。

※22:30追記
画像での掲載に変更しました。

殺意の氷晶監獄
 
殺意の氷晶監獄



 

日記を見てみると殺意というより嫉妬に見えてリズレッタが可愛くなる不思議。

○突撃メッセが二つも!

リズレッタパワーでしょうか、二つも新たに頂いてしまいました。
しっかりお返しさせていただきます、ありがとうございます!

○くろうさんを語る

くろさんと呼ばれているものの実はお名前はくろうさん、なくろさん。
性格はお肉大好き食いしん坊、野菜を食べると泡を吹く。
常に元気一杯な男の子です。
偽島に住み着いている野生児で、育ての親は人狼のルナさん。
親が狼だからか人としての生活より狼の生活の方が彼には親しみがあるらしく、人間達の間での常識はあまり通用しません。
そんな性格のくろさんにルクラは振り回されたり、かと思えば振り回したり。
元気なお子様コンビを結成して今日もどこかで賑やかしてます。
更新数を重ねるごとに、人間らしくなる……のではなく人としての常識を上手く活用する立派な狼さんになるのでしょうか!

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【1】
「あらあら……ダメねぇ14隊ちゃん。」

ベルクレア14隊との戦いは、ルクラ達の圧勝という形で収まる。
息も切らしていない14隊の隊長らしき人物、レディボーンズはその光景を見て面白そうに笑い、それから倒れ伏した兵士達に手をかざした。
ふわりと兵士が宙に浮き、レディボーンズも続く。

「あっ!? 逃げる気ですかっ!?」
「お洋服、汚したくないしね♪」

ルクラの言葉に、人差し指を唇の前に持ってきて、悪戯っぽく笑ってそう答え。
レディボーンズははるか遠くへと、飛び去っていく。

「放っておきましょう。あれ自体に興味は無いわ」
「障害を排除できた、それだけで十分だな」
「……そうですね」

エクトとスィンは初めから追うつもりは無いようで、武器を仕舞いその場に佇んで息を整えている。
そして――。

「……メー、ちゃん?」

ルクラは、恐る恐るといった様子でメルに声を掛ける。
それは何故かといえば、今の彼女が持つ雰囲気が明らかに異質なものへとなっていたからだ。
ルクラの言葉をきっかけに、エクトもスィンもメルを見やる。

「………………」

メルはレディボーンズたちが飛び去った方向を見やり、小さくため息を吐き出して。

「こんなものですね。それじゃマナ接続解除、あとは任せた」
「えっ――」

一方的にルクラ達にそういい残すと――。

「め、メーちゃん!?」

ふっと身体の力を抜き、その場に崩れ落ちるようにして倒れたのだった。

【2】
「……っと。……ちょっと!」
「え?」
「何をぼんやりしているの。わたくしの言葉にさっさと反応なさい」
「あ……ご、ごめんなさい」
「まったく……」

憤慨したような様子を見せつつ、リズレッタは手に持ったカップを口元に持っていき、紅茶を――ファーストフラッシュとかいう、値段が高めの紅茶だった。当然支払いはルクラである――味わった。
申し訳無さそうな表情を見せつつ、ルクラも彼女に倣う。
こちらの中身は蜂蜜入りのホットミルクだった。
リズレッタを仲間に紹介し、それから色々な準備を終えた後の一服。
街中の小さなカフェテラスで過ごす一時である。

「……で? わたくしの言葉を無視するほどぼんやりしているのだからそれなりの理由があるのでしょうね?」
「そ、それは――」
「そうでなければ許しませんわよ」

冷たい視線が自分に突き刺さるのをルクラは感じた。
言わなければ、頬を赤く跡が残る上にかなりの長時間痛みが続くほど抓られるに違いない、と確信する。

「……実は、メーちゃんの事で」

あまり彼女の事を知らないリズレッタに話すのも気が引けたが、これから共に探検する仲間だ、話しておいてもいいだろう。
と、抓られたくないという本音を建前で囲っておいて、ルクラはぽつりぽつりと話し始める。

「あぁ、あの娘」

あまり興味が無いといった様子で言葉を紡ぎ、リズレッタはカップにもう一度口付ける。

「この前、わたし達がベルクレア14隊をやっつけたのはもう話しましたよね?」
「えぇ」
「その時のメーちゃん、おかしかったんです。まるで別人みたいだった」

ブラウンの髪の毛が薄い紫色に変色し、サイドテールをポニーテールに結わえなおしていたメルの姿は、脳裏に焼きつき忘れられる気がしない。
メルとよく似た、しかしメルではないと何処か確信できるような少女が、あの時ルクラ達の目の前に居たのだ。

「メーちゃんは」

自分のカップの中のミルクを見つめながら、ルクラは言葉を一つ一つ丁寧に選び話を続ける。

「人を探してるんです。……自分とそっくりな女の子を」

ふとリズレッタを見やれば、彼女は眼を閉じて紅茶を味わっていた。
暫くすると片目を薄く開いてルクラを見やり、そして興味なさげにまた紅茶に口を付けている。
それが”さっさと続きを話せ”、という催促であることをルクラは知っていた。

「詳しい話は、わかりません。……何を言っているのか、わたしがよく理解できていないというのもあるけれど。『オリジナルの、もう一人の自分を探す』。『同じマナを持った自分を探す』と彼女は言ってました」

――……あはは、妙にシリアスしちゃったけど、そんなかんじ!

とても寂しそうな笑顔を浮かべたメルの姿がふとルクラの脳裏に蘇った。
カップをソーサーに戻し、ローブをぎゅっと握り締める。

「でも、詳しい話はわからなくたって、メーちゃんがもう一人の自分を探し出したいと思っている、っていうのはわたしにだって判ります。だから、リズレッタと会う前ももう一人のメーちゃんを探すために、遺跡をずっと探検してたんです。3階に居るらしい、という情報も手に入れて、そこを目指そうって話にもなって。……だけど」

――ここで足止めは要らない。

14隊を前にして、その雰囲気をがらりと変えたメルの姿は、未だに受け入れられてない。
それはきっとエクトやスィンも同じだろう。
あの時言葉こそ交わさなかった――戦いを前にして交わす余裕が無かった、という方が正しくもあるが――ものの、同じように驚愕を貼り付けていたのだから。

「あの時のメーちゃんを見て、わたしすごくびっくりして。……それから、ちょっぴり怖かった。わたしなんかで、メーちゃんの目的を達成することが出来るのか、ちょっと不安になって――」
「じゃあ、見捨てればいいじゃありませんの」
「ま、まだ最後まで言ってませんよ! こ、怖かったし不安になったけど、でもわたしが不安になってちゃ、だめなんです! 一番不安なのはきっとメーちゃんなんだから、仲間のわたしがしっかり支えてあげなくちゃいけないって思うんです!」

リズレッタの言葉に慌てて、身振り手振りを交えながらルクラは必死に語り。
それから少し気持ちを落ち着けて、リズレッタを上目遣いで見やりつつ言った。

「……そう考えてたらちょっと、その時の事を思い出しちゃって。リズレッタを無視する感じになっちゃって……ご、ごめんなさい」
「ふぅん……」

口をつけた箇所の雫を人差し指の側面で拭き取り、リズレッタは不敵な笑みを浮かべる。

「実にあなたらしいお人よしの思考でわたくしは無視された、というわけですの。……まぁ、いいですわ。なるほど、あの娘はそういうことでしたのね……」
「えっ!? 何か知ってるんですかリズレッタ!?」
「さぁ、知りませんわ? わたくしを無視したあなたなんかに話す気にはなれませんもの」
「えーっ!?」
「精々足掻いて自分で知りなさいな。……しっかり支えてあげるのでしょう、お人よしのおチビさん?」

明らかに何か知っている、そんな雰囲気を醸し出しつつも取り付く島も無い。
暫くは困ったような表情でリズレッタを見やっていたルクラだが、彼女は済ました顔で紅茶を味わいに戻っている。

「……わかりました。じゃあ、自分達でもっとメーちゃんのことを知ります!」
「そう。頑張りなさい?」

どう言ったって話すはずが無いのは、暫く彼女を見ていれば誰にだってわかることだった。
ましてや一週間近く彼女の傍に付きっ切りだったルクラがそれを知らない理由は無い。

「頑張ります! ……ところでリズレッタ、何かわたしに用があったんじゃ? さっき聞き逃しちゃったけど……」
「あぁ、それは――」

リズレッタが再び自分の本題に入ろうとしたその時だった。

「ルクラちゃ~ん!」

少し遠くから聞こえた、よく通る女性の声。
名前を呼ばれた以上振り向くしかない、ルクラはさっとリズレッタに顔を背けて、後ろからの声に注目した。

「あっ! リーチャさん! ティアさんも!」

そこには元気一杯といった様子で手を振っている、長い金髪を二つ結びにし、活動的な服装に身を包んだ女性。
その横には金髪を青いリボンで結びポニーテールにし、青いエプロンドレスに身を包んだ女性と、妙に眼鏡が印象に残りそうな剣士らしい出で立ちの男が立っていた。
女性二人にルクラは見覚えがある。
手を振っているのは”南瓜の涙亭”のアルバイト、リーチャ・ミレッタ。
その横でこちらに笑みを向けているのは”南瓜の涙亭”の店主ティア・クレイティアだった。

「ちょっとだけお久しぶりですねっ、ルクラちゃん! ぷにぷに~」
「今日は探検お休みみたいね?」

こちらに近づいてくるなり、リーチャはルクラの頬を人差し指でぷにぷにとつつく。
ルクラとリーチャの間での挨拶のようなもので、ルクラもいやな顔一つせず、寧ろ笑顔でリーチャの頬をつつき返している。

「明日からまた探検なんですよ! ティアさん達は?」
「私達も同じよ。明日からまた遺跡に店ごと移動するわ」

この二人とルクラとの関係は、非常に良好といえる。
誰とでも仲良くなり親交を深める性格のルクラだが、この二人は特別な存在だった。
子供らしい一面を見せる事ができ、甘えられるというルクラにとっての数少ない相手なのだ。
暫く他愛の無い話が続く。

「………………」

当たり前だがリズレッタは再び無視であった。
未だ家族が恋しい彼女が、思いっきり甘えられる相手を前に何時ものような態度を保てるはずは無いのだ。
無いのだが。

「………………」

リズレッタには当然そんなことが理解できるはずもない。

「ところで、ルクラちゃん。魔術の鍛錬はしているかしら? 以前見て以来だけどね。鍛錬は大事よ。……どうやらお互い近くに居るみたいだし。どう? ルクラちゃんの魔術の腕前がどれだけ上がったのか、私に見せてみない? 練習試合って奴ね」
「ええっ!」
「ほっ、ほんとですかっ!? ぜひっ! ぜひやりたいですっ! すぐお友達を呼んできます!」

暫く話が続き、何時しかそれは練習試合のお誘いへと変わっていた。
ルクラにとっては願ったり叶ったりの話である。
すぐさま座っていた椅子から飛び降りて、仲間を呼びに走っていってしまう。

「………………」

勿論、リズレッタは無視されっぱなしである。

「……ふ、ふふ……」

とても、とても不気味な笑みをリズレッタは浮かべ、そしてそれをカップを持っていくことで隠したのだった。

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