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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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【1】
辺りを水地に囲まれた場所に、新たな魔法陣はあった。

『波打ち際』、そう書かれた文字と共にルクラ達の頭の中にはその魔法陣の文様がしっかりと刻み込まれた。

二つ目の魔法陣を見つけた事にルクラ達は満足げな笑みを浮かべていた。

そして次には、皆安堵のため息をつく。

今回の冒険はここで終わり、遺跡の外へ戻ろうという話が纏まっていたためだ。

持ち込んだ食料も鮮度が落ちているし、この冒険で拾った様々な物品も鞄を圧迫している。

冒険の中断を挟み込むには丁度良いタイミングだった。

せーのとタイミングを取り、一斉に魔法陣を踏む。

光が立ち上り、眩い輝きに包まれ、一瞬何もかもが輝きに染まり。

気が付いたときには、ルクラ達はもう遺跡の外へ立っていた。

【2】
「お疲れ様。明日一日しっかり外で休んで、明後日からまた頑張ろぅ」

「準備に追われそうだな……」

「集合はまたここかしら?」

「うん。ここで集まって、それから出発」

メルとスィンとエクト、三人の話を聞きながら、ルクラは何度も頷く。

彼ら三人は非常に旅慣れていた。

今回の短い旅の中でも、何度ルクラは彼らに助けられたか判らない。

「買い物なんかも忘れないようにね。それじゃあ、これで解散!」

「お疲れ様でした! メーちゃん、エーちゃん、スーくん!」

「お疲れ様、ルゥちゃん」

軽い打ち合わせが終わった所を見計らい、労いの言葉を投げかける。

その名前の呼び方は、親しみを込めたもの。

日数にすればたったの二日、それでも彼ら三人を『友達・仲間』と呼んで、彼ら三人が自らを『友達・仲間』と認めてくれるには十分な時間だった。

――仲間って、友達って認めてくれた皆の為にも……これからがんばらなくっちゃ!

今は彼らの後ろを付いていくだけしかできないが、何時かきっと横に並べるように頑張ろう。

そんな思いを胸に、ルクラは疲れを感じさせない笑顔を浮かべてみせる。

三人も、その笑みに応える様に笑った。

「それじゃ、ボク達は宿に戻るけど……ルゥちゃんはどうするの?」

「泊まる場所はあるのか?」

「無いなら、一緒の宿にどうかしら」

「いえ! ちゃんとお宿は取ってます! だから、今日はここでお別れですね!」

「そうなんだ、よかった。それじゃあまた明後日ね。お買い物してる時に出会うかもしれないけど」

「これからも宜しく頼む」

「またね」

「はい! みんな、また!」

手を振って別れ、賑やかな町の中央へ向かうメル達三人と違い、ルクラは喧騒とは程遠い町の外れに向かって駆け出した。

疲れが無いわけではない。寧ろ、ベッドに寝転がれば熟睡できる自信がある。

それでもルクラには走る理由があった。

目指すは宿屋『流れ星』。

【3】
「おばあさん! ただいまっ!!!」

庭先の掃除をしていた宿屋の主に、ルクラは元気よく声を掛けた。

地面をじっと見つめ、枯れ葉をかき集めていた老婆は声に顔をあげて、そして喜びの表情を浮かべる。

「あぁ……! おかえりなさい!」

ルクラは老婆の前まで走って、それから膝に手をついて肩で息をつき始める。

「はぁっ……はぁっ……! あぁ、疲れた~……」

「そんなに息を切らして……大変だったのねぇ」

「い、いえ! 早くおばあさんに、探検がちゃんと成功したって、伝えたくって! 走って帰ってきました!」

「あらあら! ……でも、元気そうでよかった……。怪我はしてないかしら」

子供らしい受け答えをするルクラに老婆は笑い、それから彼女の身を案じる。

それがきっかけに、ルクラは堰を切ったように話し始めた。

「はい! 探検はわたし一人じゃなかったんですよ! お友達ができて、一緒に探検して……!」

止めなければ庭先で何処までも話をされそうだと思ったのか、老婆は人差し指をすっとルクラの顔の前に突き出して、言った。

「えぇ、えぇ。とりあえず、中にお入り。一日ぐらいはじっくり休める時間があるのでしょう?」

「はい!」

箒を適当な所に立てかけて、それからルクラの背中にそっと手をやり、老婆は玄関の扉を開く。

ゆっくりと家の中に入っていく二人の姿は、さながら孫娘と祖母のようだった。

【4】
「……それで! 橋を渡った先に、また緑色の変なのが出てきたんです! 三匹も!」

「あらあら……それは大変ねぇ」

「でも! メーちゃんが斧を持って突撃して、スーくんがエクトちゃんの守護魔術を受けてその後に続いて! わたしが後ろから魔術で援護して! ばっちりこれも勝っちゃったんです!」

「まぁ……」

「それで、それで……そう! 魔法陣も見つけたんですよ! 『シリウス浮ぶ河』って魔法陣と、『波打ち際』って魔法陣! 『シリウス浮ぶ河』は緑色の変なの三匹をやっつけた後で……『波打ち際』は、おっきなアリさんとミミズさんをやっつけた先にあったんです! あぁ、おっきなアリさんとミミズさん! 今回の探検の一番最後に戦ったんですけど、強敵でした! でも、絶対に負けない、魔法陣を覚えて帰るんだって思って――」

それから夕飯時。

老婆に用意してもらった久しぶりの温かく、様々な材料が使われた料理を食べながら、ルクラは冒険談を自慢げに老婆に話していた。

いつもなら食卓でこんなに騒ぎ立てるなど、行儀が悪い事と躾されている彼女には無いのだが、今回は特別だった。

嬉しい事、悔しかったこと、怖かった事、そのどれもが彼女の心臓の拍動を、興奮を高め、その勢いは言葉となって、身振りとなって現れている。

暫く話していて、ルクラはふと気づいたように声を上げる。

「おばあさん! 命術の本と、魔石! ありがとうございました! おかげで、色んな経験ができました!」

「どうだったかしら? 貴女だからきっとすぐに慣れると思ったのだけど」

「はい! もう完璧です! バッチリマスターしました! だからもう、本はお返しします!」

足元に置いた鞄から古びた本を取り出し、ルクラは老婆にそれを渡す。

老婆は受け取りながら、どこかからかうような笑みを浮かべた。

「『ボロウライフ』だけではないけれど、それもかしら?」

本に記されたのは命術の基礎だけではなかった。

他の技能と併せて使う『複合術』の基礎も乗っている。

老婆の質問はそれも扱えるようになっているのか、という確認だった。

ルクラはやはり自信満々の笑みを浮かべて答える。

「勿論です! 風の魔術と命術を組み合わせた『命風術ウィンドラバー』! 使えるようになりました!」

「『複合術』も扱えるようになったの……!?」

「これもおばあさんが貸してくれた本と魔石のおかげです! ありがとうございました!」

「まぁ……驚いたわ。予想以上に貴女は、魔術士としての才能があるのね」

「えへへ……」

褒められて嬉しくて恥ずかしいのか、何とも緩んだ表情を見せて、後頭部を掻くルクラ。

「……これなら、もう少し難しい事も教えてあげられるかもしれないわねぇ」

「え?」

だが、『もう少し難しい事』と聞いて、すぐにその顔は興味津々に染まった。

その移り変わりがどこか面白くて、老婆は笑い。

席を立ち、命術の本を本棚に戻す代わりに、別の本を取り出し、ルクラに手渡した。

「これは……?」

「貴女に渡した魔石はもう古くて、昔のような強さは出ないのよ。あれだけでこれからの冒険を続けるのは危険だと私は思うの。……だから、是非自分で魔石を作ってみてはどうかと思ってねぇ」

「ま、魔石をわたしが……!? つくれるんですかっ!?」

「勿論よ。その本をしっかり読んで……勉強すれば必ずね」

「わぁ……!?」

この島の魔術を学んだときも、自分の故郷で初めて魔術を習った時の様な高揚感があった。

しかし今、手元に収まった本の表紙を眺め、それ以上の高揚感が現れ、心臓を更に強く高鳴らせているのをルクラは実感する。

「が……がんばります!」

「えぇ。貴女なら大丈夫。『複合術』まであっという間に覚えてしまったのだから……」

「うん! ……あ、はい!」

「ふふ……。さぁ、お勉強は後にして、もっと聞かせてくれないかしら。貴女の大冒険を」

「……はい!」

【5】
窓から見える景色は、夕闇に包まれかけた寂れた通り。

人通りは少なく、眼を楽しませるものは皆無だった。

老婆から借りたスカイブルーのパジャマを着た彼女は布団の上に座って、窓に頬杖をついてぼんやりと景色を眺める。

頬杖の横には少しだけ殴り書きされたメモと一本の鉛筆。

「………………」

明日やる事はそう多くはない。冒険の準備として色々と買い込むのが大仕事なだけで、殆どが自由な時間になるに違いなかった。

実際メモには大まかな買い物の内容に、エクトに依頼する合成の内容ぐらいしか書かれていない。

「ベルクレア……かぁ……」

専ら今のルクラの思考といえば、探検の最中出会った奇妙な物体がその存在を、そして詳細をメルが教えてくれた『ベルクレア軍』の事だった。

複数の隊に別れ、奇妙な物体が立ちふさがった地より先を制圧しているという彼らは、話を聞く限りこの島の探索をする冒険者の存在をあまり快くは思っていないらしい。

練習試合と称して人との戦いは何度か経験してきた。

だがそれもお互いに何も損害を与えない行いのため、本当の戦いの緊張感は味わえない。

――あそこから先に進んだら、もう軍との衝突は避けられないと思う。

――話し合いでなんとかなる相手ではないの?

――だめだよ。あの人達話なんて聞かないし、問答無用なんだよ。

――そうすると、道は一つか。……ふむ、まぁ覚悟はしているさ。

――あの人達丈夫だから、全力で戦っても大丈夫。あんまり対人なんて気にせずに何時も通りで行けばいいよ。

「やっぱり、戦う事になるのかな……」

話し合いで穏便に解決したい、とルクラは思う。

だが戦う事になるだろうという『予感』が生まれているのも事実だ。

「……なるようになれです! ……寝よっと!」

話し合いで解決できれば良い、そうでなければその時だ。

深く考えるだけで気分が落ち込むのを感じたルクラは、そう言ってさっさと布団に潜り込んでしまった。

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