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六命雑感、あと日記の保管庫もかねています。
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 夜空見上げて
 
 
【1】
皆が寝静まった後に、こっそりとルクラはテントを出て適当なところに腰を下ろし、空を見上げた。
満天の星空だ。
最も遺跡内で天気が悪かったことなどは無かったから、いつ見上げても同じ星空がそこにあった。
一年前に遺跡に初めて足を踏み入れたときと、今見上げている星空は、寸分違わぬ作り物の同じ空。
しかしそれでも今日は、改めて新鮮な、そして少し寂しい気持ちで眺める事ができた。
もうこの空を眺める事は、今日限りだったからだ。
 
「何処に行ったのかと思えば」
 
聞きなれた声の方向へ顔を向ければ、見慣れた姿。
 
「あ……パジャマ、着てくれたんだ」
「貰った以上は着てあげないと、服も貴女も拗ねてしまうでしょう?」
 
いつもと違うのは、お菓子と一緒にようやく渡せたプレゼントのパジャマを着ていること。
彼女は黙って自分の隣にハンカチを敷いて座り、同じように星空を見上げる。
 
「眠れませんの?」
「ん……そんなとこです」
 
星空を見ながら、互いに視線は向けず。
 
「此処で過ごす夜も、今日で最後だから。……しっかり目に焼き付けておきたいな、って」
「ふぅん……。そういうものなのかしら」
「しません? さぁお家に帰ろう、ってなったとき、なんだか無性に寂しくて。……つい、そこの景色を必死に覚えるの」
「考えたこともありませんわ。わたくしには妹の姿さえ焼きついていればそれで良いもの」
「そっか……。ふふ」
「何か可笑しくて?」
「ううん。……リズレッタって、ほんとに良い『お姉ちゃん』だな、って思っただけ」
「……含みを感じるのだけど」
「そんなことないですってー。……わたしも見習いたいぐらい、リズレッタは素敵なお姉ちゃんですもん」
「ふん……精々頑張る事ですわ」
「うん。……んー」
 
ごろん、とルクラは仰向けに寝転がった。
身体は草が柔らかく受け止めてくれたが、首筋に当たるそれは些かくすぐったい。
 
「綺麗だね」
「そうですわね」
 
より大きく眼前に広がる星空を、文字通り眼を輝かせて何時までも眺める。
 
「……?」
 
しかしふと、視界が遮られた。
リズレッタが、じっと自分を覗き込んでいる。
 
「リズレッタ……?」
「……さっき、妹の姿さえ、と言ったけど。少々考えを改めましたわ」
 
一瞬だけリズレッタは視線を横に逸らし、そしてまたルクラを見つめて。
 
「貴女の事は、記憶に留めて、目に焼き付けておいてあげましょう。感謝なさい」
 
星空を再び見上げ、そして手を伸ばした。
 
【2】
この島に訪れて、様々な事があって、そして少女と出会ったからこそ今の自分がいる。
それが前より良いのか悪いのか、ずっとリズレッタは答えを出せないでいた。
苦悩し、後悔し、星空に逃げ場を求めて届かぬ手を伸ばした事もあった。
だがそれももう、終わり。
隣に寝転がる少女と何気なく会話をするうちに、不思議なほど思考が冴え渡り、そして一つの答えが出た。
 
「……今なら」
「え?」
 
今なら、星空を掴めそうだ。
大きく開いた掌の中に、光が集う。
 
「リズレッタ……?」
 
そっと握り締めれば、確かな感触。
二粒の、星空を移しこんだ欠片がそこにある。
 
「受け取りなさい」
 
一つをルクラの手にしっかりと受け渡し、笑う。
 
「餞別ですわ。貴女とわたくしがここで出会い、過ごした時を証明する証。命の存在を許さぬ冷たい城の主からの賜わり物、大切になさい」
「……あ、ありがとう……!」
「それと」
 
自分の掌にも残った一つを見つめた。
 
「必ず、再び相見えることをこの欠片に約束なさい。これは命令……いや」
 
決して失くさぬ様にと力強く握り締めた。
 
「――友人としての、頼みですわ。ルクラ?」
 
見ればルクラは、感極まった表情をしている。
喜びすぎて、涙まで浮かべていた。
 
「う、うん……! うん! 約束ですよ……絶対、また会いましょうね!」
 
手の中で輝くそれを今一度確認して、溜まった涙を拭い去り、ルクラは精一杯の笑みを浮かべた。
 
「……えぇ」
 
それを見て、今まで妹にしか向けることの無かった笑みを、リズレッタも返したのだった。

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 迷いの森に呑まれた子ら
 
 
【1】
「この辺には居ないみたいね」
「早速はぐれた?」
「……ふむ」
 
迷いの森、そう名づけられた魔法陣から出て直ぐの森に立ち入ったルクラ達。
一見はただの森だったのだが、矢張り島の奇妙な力が働いている異常地帯の一つだったらしい。
全員が方向感覚を失い、入り口を見失ってしまうのはあっという間だった。
 
「ラウルバーフさん……大丈夫かなぁ」
 
いつもの仲間は皆傍にいるものの、ついてくる事になったラウルバーフの姿はそこには無かった。
かれこれ探し続けて一時間は経過しただろうが、その姿は見つけ出せない。
 
「これ以上は無駄でしょう。放っておいてわたくし達は探索を続けるとしましょうか。出口を見つけるほうが先ですわ」
「え、えぇ!?」
「いいでしょう別に。だって――」
 
――判る! 判るぞ! 素晴らしい品々がこの森の中に眠っている! ククク……ハァーッハッハッハ!!!
 
「……別にあれ一人でも間違いなく問題ありませんわ」
「止めるヒマ無かったよね」
「一瞬だったな……」
「例えるなら回転床だらけのフロアに直進のみで突っ込む漢マッパーって感じね」
 
しかし彼の心配をしているのはルクラだけらしかった。
それも無理は無い。
ラウルバーフとはぐれたのは森に入る前からであり、彼は喜び勇んでこの迷路に何も考えず突っ込んでいったのだ。
 
「そ、そうかなぁ……」
「わたくし達も手探りで探索している状況ですわよ? 無駄に彷徨う結果しか見えませんもの。お判りかしら?」
「うーん……仕方ないですね……」
「ふむ。まぁ、依頼された事はこなしつつ出口を探す、でいいだろう」
「適当に色々拾ってくれ、だったわね? ……あ、珍しそうな雑草みっけ」
「雑草に珍しいとかあるんですか、姫」
「はいはーい。出口見つけに行く前にお菓子たべたいでーす」
「噂のルーちゃんの手作りお菓子タイムね?」
「あ……はい! 一杯作ってきましたよ! トリュフチョコに、ナッツクッキーに、マドレーヌ!」
 
【2】
「うむ、美味い」
 
ルクラ達の居る場所とはまた違う、迷いの森の中。
一人寂しく菓子を貪る男が居た。
 
「食べてみたまえバルミアラ。この味は金では買えぬだろうからな」
 
傍らに佇んでいる巨大な鳥にも菓子を分け与えつつ男、ラウルバーフは改めて森の中を見渡す。
 
「……森の中での合流は出来ぬな。方角すら判らぬ。空を飛んでみようとしたらそれも不可能であったから、彼らの所在を掴むのは至難の業と云える」
 
しゃくしゃく。
クッキーを頬張って。
そんな彼を巨大な鳥、バルミアラは咎めるような眼差しを向けていた。
 
「まぁ良いだろう。彼らは百戦錬磨、熟練の旅人だ。こんな場所で倒れることはあるまい。それに、だ。この素材の宝庫を前にして疼く身体を止める事ができただろうか? いや、無い」
 
視線に気づいたラウルバーフはそう言って笑う。
既に背中に背負った袋はあちこちで拾った雑多な品でパンパンに膨らんでいた。
呆れたようにバルミアラは首をすくめる。
 
「……ウム、腹ごしらえも出来た」
 
背負い込んだ道具袋から小型の斧を取り出して、ラウルバーフは適当な木に目をつける。
 
「折角だ、一本持って帰るぞバルミアラ。手伝え」
 
程なくして、迷いの森の中に木々を叩く甲高い音が響き始めた。

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彼女の求めたものは
 
【1】
バレンタインデー。
独り身の若い男性が心を躍らせ、独り身の若い女性が甘味の先にある物を夢見て、人によっては業界の陰謀だと存在そのものを全否定し島全体が甘い香りに包まれる、そんな日。
 
「……よし」
 
残り少ないへそくりを全部使って、高級とはいえないが確かな材料を揃え、テーブルに全て並べた彼女にとって、バレンタインデーという日は、先ほど挙げたどの例にも当てはまらない。
こうして手作りしたチョコを、日ごろお世話になっている人に配って、感謝の意を示す。
ただそれだけの、少し特別な日。
二度目となっても、その意味合いは変わらない。
 
「あら……チョコを作っているのね」
「はい! 今年もたっくさん作って、お世話になった人に配ります! それに――」
「それに?」
「リズレッタには……特別なのを、作ります」
 
――筈だった。
それに気づいたのは、ルクラ本人ではなく。
 
「……ルクラちゃん。それだと、美味しいチョコは出来ませんよ?」
「……え?」
 
湯煎したチョコをかき混ぜる様をじっと眺めていた、老婆だった。
 
【2】
「この香りは……チョコレートか。うむ、良い香りだ」
 
野良仕事姿がすっかり板についてしまったラウルバーフが、漂う香りに薄く笑みを浮かべた。
 
「………………」
 
しかしどうやら、良い香りの元を作っているルクラの表情は暗いようだった。
そんな彼女をじっと老婆が見つめている様は、まるで彼女が叱られているような、そんな錯覚さえラウルバーフに引き起こす。
 
「ルクラちゃん。貴女がどんなことを思って、リズレッタちゃんに特別なお菓子を作ろうとしているか、当ててみましょうか。……あの子には、感謝の気持ちと、それに――」
 
老婆は人差し指をぴんと立てて、続ける。
 
「謝罪の気持ちを、篭めるつもりなのでしょう?」
 
ルクラは何も答えない。
だが、眉を潜め、ふっと視線を逸らしたところを見ると、どうやら図星らしいとラウルバーフは思った。
 
「ルクラちゃん。よく考えてみて下さい。……本当にその気持ちは、必要ですか?」
「え……」
「確かにもうすぐ、ルクラちゃんは故郷へ帰る事になるのでしょう。みんなとお別れもしなければいけません。でも、その事で誰かに謝る必要が本当にあるのでしょうか? 貴女がずっと故郷に帰りたがっていたのは、少なくとも貴女の身の回りにいる親しい人は皆知っているはずです。喜ぶことはあっても、貴女に謝罪をさせるような感情を抱く人は居ないと思うのだけれど……?」
「でも、リズレッタは……わたしからのプレゼント、受け取れない、って……」
「それは本当に、『貴女が故郷に帰るから怒って受け取ってくれなかった』のですか?」
 
ルクラは俯いて、微動だにしない。
そして一瞬はっとしたような顔をして見せた。
 
「……あの子がそんな事を思わないのは、ルクラちゃん。貴女が一番判っているんじゃないかしら?」
 
その表情の意味を、老婆は正確に汲み取ったようだった。
 
「わたし……」
 
ルクラはそこまで口に出すと、悔しそうに唇を噛んだ。
 
【3】
謝る事など無かったと、自分で判っていた。
絶対にまた、みんなに会いに行くんだと決意を固めた筈なのに、あの時。
 
――あの……『ごめんね』、リズレッタ。
――謝る必要はないでしょう?
 
今までずっと近くに居てくれた彼女に、一番言ってはいけない言葉をあの時、口に出していた。
老婆に諭され、それに気づいたときのルクラの悔しさといえば、筆舌に尽くしがたいものがあった。
 
「……故郷に帰るのは、間違いなんかじゃないって、判ってたのに」
 
両の拳を握り締める。
 
「ちゃんとそう、判って、悲しいお別れには絶対にしない、って決めたのに……わたし……!」
「落ち込むことはありませんよ、ルクラちゃん」
「でもっ! 決めたことをわたし忘れて、リズレッタにあんなこと……!」
 
ルクラの目には涙が溜まっていた。
悔しくて滲み出てきた物だと、老婆にもすぐ判った。
 
「……事情はよく判らないのだが」
 
その様子を見かねてか、今までずっと静観の立場に居たラウルバーフが口を開く。
 
「取り返しが付かないわけではあるまい、少女よ」
「それはそう……だけど! 決意したのに、わたしそれをすっかり忘れて……それが許せないんです! 自分が……自分が許せない!」
「そう自分を責めることでもあるまい。……決めた決意を一度は忘れ、そして今こうして思い出して悔し泣きをしている。十分すぎるほど上等な結果だと思うがね」
「………………」
「君は“決意を固める”という行為が、どれほど困難な物か考えたことがあるかね?」
 
ラウルバーフは薄く笑みを浮かべ、そしてルクラをじっと見つめた。
 
「無いだろう。無いに決まっている。君にはその必要はないからな」
「それは、どういう……」
「言っただろう。“今の君の状況は十分すぎるほど上等な結果”だと。君にとって決意とは、それほど困難にならない取るに足らないものなのだ。……おっと、これは悪い意味ではないぞ。むしろ、喜ばしい。少女よ、君はまだ子供だ」
 
“子供”という単語に、ルクラは少しだけ不快感を露にした。
 
「だがはっきり言ってその辺の大人より、立派だ。決意とは総じて忘れ去られていく物なのだよ。強く心に誓ったはずが、時間の経過と共に、まるで物体が腐るように、風化するように消えていく。……それを君はきちんと拾い上げ、磨き上げて再びしっかりと眼に焼き付けた。これは例え大人でもなかなかできるものではない」
 
しかし続くラウルバーフの言葉に、いくらか表情を和らげる。
 
「悔やむのは結構。だがもうその辺にしておきたまえ。君にとって後悔の時間は長すぎるほど悪影響だ。そして、これだけを素直に聞き入れてはくれないかね」
「……?」
「――涙を拭いて、気持ちを切り替え、腕によりをかけて最高の菓子を作りたまえ」
 
“そして是非とも味見させてもらえないかね”と付け加え、にやりとラウルバーフは笑う。
 
「ラウルバーフさん……」
「いやはや、流石に小腹が空いてな。それに……菓子作りとは楽しくやるものだと妻にも娘にも教わった事があるのだよ。そうだろう、ご婦人?」
「……えぇ」
「………………」
 
老婆にラウルバーフは顔を見合い笑う。
そして、再びルクラへと視線を向けた。
 
「……わかりました! おばあさんに、ラウルバーフさん……ありがとうございます! そうですよね……楽しい気持ちで、お菓子って作るものですよね!」
 
彼女はもう照れ笑いを浮かべながら、そんな事を言っていた。
 
「えぇ。貴女だけのお菓子を、あの子に振舞ってあげて頂戴?」
「はい! ……あ、お婆さん! チョコだけじゃなくて……クッキーとマドレーヌも作りたいんですけれど、材料を借りてもいいですか?」
「勿論いいですよ。場所は……もう判りますね」
「はい! よぉ~っし……最高のお菓子を作りますから! 期待しててくださいね!」
 
ぱたぱたと足音を立てて、新しく材料を取りに行ったルクラの後姿を見届けながら、ラウルバーフはもう一度声を漏らさず笑った。
 
「良い子でしょう?」
「そうですな。実に面白い少女だ」
 
すぐに薄力粉の入った容器を持って来て、次に作るべきお菓子の準備を進めながら、ルクラは今度こそ、迷いの無い明るい表情でキッチンに立っていた。

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 彼女の求めるものは何か
 
【1】
控えめなノックの音が廊下に響いた。
 
「リズレッタ? 入りますよ」
 
ノックの音と同じようにドアを開いて、中を見渡せば、椅子に腰掛け、膝の上に組んだ手を置いて静かに眼を閉じたリズレッタの姿がルクラの視界にも飛び込んでくる。
 
「……リズレッタ?」
「起きてますわ」
 
リズレッタの向いている先は開け放たれた窓だった。
目の覚めるような青空が、そこには広がっている。
 
「特に何かすることも無いから、景色を眺めていただけ」
「うん……そういうの、いいよね。窓からの眺め、わたしも好きです」
 
ルクラは後ろ手に持った紙袋をちらりと確認した。
この中には、リズレッタが喜ぶであろう品が入っているのだ。
そしてルクラは、それを今彼女に渡しに来たのである。
 
「あのね、リズレッタ」
「ん……何ですの?」
「これ……リズレッタにあげる」
 
紙袋を受け取ったリズレッタは、怪訝な顔をして暫くルクラを眺めていた。
 
「……あら」
 
ルクラの促されるままに袋の中身を取り出せば、意外そうな表情を見せる。
それは上質なシルクで作られた、純白のパジャマだった。
フリルまで付いてなかなかに可愛らしい。
 
「前々からね、わたしとリズレッタと、リーチャさん……覚えてるでしょ? 一緒にお泊り会しようね、って相談してたんです。ずっと内緒にしてたんだけど、この前、やっと出来たから……」
「……随分、上質な素材みたいですけれど。よくそんなお金を出せましたわね?」
「えへへ……ちょっとずつ貯金したの。10ヶ月ぐらい……かなぁ?」
「……呆れた。隠さずに云えばいいじゃありませんの」
「だめだめ! ずーっと内緒にして、こうやって渡すのが楽しみだったんだから!」
 
子供らしい回答にリズレッタも苦笑するしかない。
 
「だけどね……」
「何か問題でも?」
「うん……もうすぐわたし、帰っちゃうでしょ? お泊り会、できそうになくて」
「……何時帰りますの?」
「わからないけど……多分、そう遠くないと思う」
「ふぅん……」
「あの……ごめんね、リズレッタ」
「謝る必要はないでしょう?」
「……でも……」
 
リズレッタの小さなため息が部屋に響き渡った。
そして彼女は黙って紙袋の中へパジャマを戻すと、ルクラの前へ突き出した。
 
「受け取れませんわ」
「え?」
「受け取れない、と言ったの。持って帰りなさい」
「ど、どうしてっ――!? い、いたたたっ!?」
 
無理矢理紙袋を押し付けて、それからリズレッタは思い切りルクラの頬を抓る。
堪らずその手を跳ね除けて後ろへと逃げたルクラの頬には、真っ赤な痕が残っていた。
 
「理由は貴女が考えることですわね。とにかく、それは受け取れない」
「リズレッタ……」
「さぁ、用事は済んだのでしょう? 出て行きなさい」
 
取り付く島も無い、
そんな様子のリズレッタに、ルクラは何も言えないようだった。
ただ、悲しげな表情を見せて、静かに部屋を出て行く。
 
「……全く」
 
そう呟くと、リズレッタはぼんやりと外を暫く眺め、そしてまた静かに目を閉じた。
 
【2】
紙袋を力無く自分のベッドの上に置いて、ルクラは途方にくれていた。
喜んでもらえるプレゼントだったはずなのに、自分の予想した展開とはかけ離れた状況に、頭は混乱してまだ現実について来ていない。
何度考えても、何故受け取ってもらえなかったのかが判らず、気分は沈むばかりだった。
 
「……はぁ……」
 
ため息しか出てこない。
 
――コン、コン。
 
小さなノックの音が響いたのはそんな時だった。
 
「……」
 
――コン、コン、コン。
 
「………………」
 
――ゴンッ!
 
「っ!?」
「ドラ子ーッ!!! 居るのでしょう! 返事ぐらいしなさい!」
「は、はいっ!?」
 
終いには思い切り蹴飛ばされたらしい音を立て始めた扉を慌てて開ければ、そこには。
 
「全く! 最初のノックで出てきなさい! この私を待たせるとはいい度胸をしているじゃないのドラ子!」
「ラ、ラズレッタちゃん……」
 
ラズレッタがじろりとルクラを見上げて睨みつけていた。
 
「え、えと……なかなかでなかったのは謝ります、ごめんなさい。それで……何か用ですか?」
「えぇ、用事よ。ドラ子すぐに支度なさい、温泉に行くわ」
「……温泉、ですか?」
「鸚鵡返ししなくても良い! ほら、40秒で支度なさい! 私がお姉様をお誘いするまでに終わらせる事、いいね!?」
「え、あ、はい!」
 
ぱたぱたとラズレッタは廊下を走り、一目散にリズレッタの部屋へと向かう。
用意をするといっても、大した荷物は無いしすぐ手の届く場所にそれは全て纏めて置いてあった。
カバンの中にそれを入れれば、40秒も掛からずに準備は終わる。
 
「……でも……お姉様」
 
開けっ放しの扉の先からラズレッタの食い下がる声が聞こえる。
先ほどあんな事を言われた手前会いに行くのは気が引けるが、出ないわけにも行かず、ルクラは意を決してリズレッタの部屋の前へと歩みを進めた。
 
「……あら」
 
再びルクラの姿を目にしたリズレッタは、別に怒った様子を見せるわけでもなく、ルクラを無感動に眺めているだけのようだった。
すぐに視線は眼下のラズレッタへと向き、優しい、姉としての言葉で彼女に語りかける。
 
「今日はわたくし、用事があってどうしても一緒に行けないの。我慢してもらえるかしら、ラズレッタ?」
「……むー……」
「二人で行ってらっしゃい。埋め合わせはまた今度しますわ」
「……判りました。では、お姉様」
 
静かに扉を閉めたラズレッタは、膨れっ面を隠そうともしない。
 
「……何をぼさっとしているの! ほら、行くのよ!」
 
傍のルクラに気づいて挙げた第一声は、やはり表情どおり不機嫌そうだった。
 
【3】
妖精の宿と呼ばれる場所は、これまで度々ルクラも訪れた事があった。
季節が変わればその景色も変わり、時には庭先に妙な扉が現れ、やはり季節に合った場所に通じている事がある。
夏には広大な海に繋がっていたが、冬の今は――。
 
「わぁ……!」
 
――かぽーん。
 
そんな音が響く、温泉だった。
想像していたよりずっと大きな、そして広大な白銀の世界を一望できる『お風呂』に、ルクラは思わず辺りを見回してしまう。
 
「……そんなにキョロキョロと見るものじゃないよ。それじゃあ、自分は田舎者ですと言っているようなものよ、ドラ子」
「だって、こういう大きなお風呂は初めてで……」
 
そう応えながら振り向けば、ぺたぺたと音を立てて自分のところに歩いてくるラズレッタの姿があった。
 
「これだから下々は困るわ。私とお姉様のお風呂はもっと大きくて……」
 
生身ではない腕は既に自分で外したらしく、片腕だけの姿になっている。
その表情は相変わらず不満げだった。
 
「しかも今、誰も居ませんよ! 『貸切』って言うんですよね、こういうの!」
「貸切と、閑古鳥は紙一重よ。流行っていないだけかも知れない」
「いつでも来れる場所ですから、流行っていないことはないと思うけど……。まぁ、今日はわたしは静かな雰囲気の方がいいかな、って思ってるので良かったです」
「まあ、騒がしいよりは、同意するよ。耳障りなものは、好きじゃないから。……全く、お姉様もいれば最高だったのに」
 
その原因は勿論、リズレッタがこの場に居ないからであった。
彼女としては、三人で此処に来るのが目的だったのだろう。
 
「……今日は我慢しましょう? 用事があるんだったら仕方ないですよ……」
 
本当は用事なんて無い事をルクラは知っている。
そして断った理由も、なんとなくだが察する事ができた。
 
「この私に我慢だなんて。お姉様の、いけず。ふン」
 
ぶつぶつと言いながら桶を持つラズレッタだが、片腕故にかなりやりにくそうな様子を見せている。
 
「……む。むぅ」
「あっ。ごめんなさい気づかなくて、わたしがしますよ」
「いい、自分でできる……あっ」
「まぁまぁ。遠慮しないで下さい」
 
暫し温泉には水の流れる音に、二人分の少女の声が木霊する。
 
【4】
「ん……。ふぅ。やっぱり暖かくて気持ちいいですね。景色も綺麗だし……」
「私は二度目だから、特に感慨は無いのよ。……お姉様もくれば良かったのに。ねえ」
「そうでしたね、リズレッタと一緒に来たんでしたっけ。……本当に、リズレッタも来ればよかったのになぁ」
 
本当は来て欲しくない気持ちが大きかったが、そう答えないとラズレッタが怒り出すに決まっていた。
ちくりと胸が痛む思いをしつつも、ルクラは平静を保ちながら改めて周りを見渡して、その景色に思わず目を細める。
宿『流れ星』のそれとはスケールの違う眺めに、身も心も震える思いだったのだ。
そしてそれは、胸の痛みを確かに一時的に忘れさせてくれた。
 
「………………」
「あ……ラズレッタちゃん、よかったら、膝の上に座ります?」
 
ふと気づけば、立ったままのラズレッタの姿。
彼女はその小ささ故に、その状態でもう肩まで浸かってしまっていたのだ。
しかしそれでは休まらないだろうと思っての親切からそう言葉をかける。
 
「……ふン、まあ、座ってやらない事も無いわ。ドラ子、私の椅子になりなさい!」
 
その提案にラズレッタは暫し思案していたようだったが、相変わらずの尊大な物言いをしつつルクラに近づいて、そして彼女の膝の上にちょこんと納まった。
丁度良い高さになったようで、ラズレッタも満足そうな顔を見せる。
 
「……ふふン、勝った」
「……勝った?」
「ふふン、ドラ子ったらぺったんこなんだもの。私の勝ちなのよ」
「ぺ、ぺったんこ?」
「まあ、お姉様も似たようなものだけど。まだまだ精進が足りないようね、ドラ子」
「は、はぁ……がんばります?」
 
どうやら他にもその満足の理由があるらしいが、ルクラには判らず、くつくつと笑うラズレッタを眺めるしかなかった。
 
「まぁ今回はお姉様については良しとするわ。また来ればいいのだから」
「……また、ですか」
 
再びルクラの胸がちくりと痛んだ。
本当にその『また』が自分に残されているのだろうかが判らなくて。
 
「なに? この私の言う事が聞けないっていうの?」
 
顔を上げてじぃっとラズレッタがルクラの顔を見つめている。
 
「……実は、故郷に帰る手段が見つかったんです」
 
そんな彼女に困ったような笑みを浮かべながらも、ルクラはぽつりぽつりと話し出した。
 
「……へえ、それは良かったじゃないか」
「うん、それは嬉しいです。わたしがずっと探してた事だから。……でも、その故郷に帰るのが……多分、そう遠くない日になるんです。だから……また一緒に此処にはこれないかも」
「そうなの。それは、寂しく……別にならないけど。まあ、急ぎの話でもないのだから、またこれる機会はあるんじゃないの?」
「うーん、そうだといいんですけど……。その、故郷につれて帰ってくれる人のお仕事がいつ終わるか、よくわかんないんです。一週間先か、一ヶ月先か……。遺跡を探検する必要もあるし、こうやってまたラズレッタちゃんと一緒にのんびりできる時間がまたいつできるかもわかんなくて……。だから、約束、出来ないんです」
「何、それじゃあ、明日帰っちゃうかもしれないって事?」
「明日は流石にないとおもいますけど、もしかすると次の遺跡探検が終わったら、ってことも十分に……」
 
沈黙。
風に撫でられ揺れる枝の音と、温泉に注ぐ湯の水音が辺りを包む。
 
「……そ、そうなの。ふン、お姉様についていた悪い虫が居なくなると思うと清々するわ」
 
ラズレッタはルクラから視線を外すと、俯くような形になって、鼻先までを湯船に浸けた。
 
「……うん。リズレッタも、ラズレッタちゃんがいるしもう大丈夫、ですよね」
 
そんな彼女をルクラは撫でるしかない。
 
「……勝手にお姉様の友達になっておいて、勝手に何処かへいってしまうドラ子なんて、好きにすれば良い!」
 
だがラズレッタはそれが気に喰わなかったようで、怒気を少し含ませた声を挙げた。
 
「……ごめんね」
「謝る人間が違うでしょう。このドラ子が! ドラ子が!」
 
ルクラが謝れば、今度は身体ごとくるりと翻し、ぽかぽかとルクラの胸元を拳で叩きつける。
痛みなど微塵も感じないので、そのままルクラは彼女の頭を撫でながら、つい先ほどの出来事を思い返しつつ答えた。
 
「う、うん……。リズレッタにももう話はしたんだけど……謝ったら抓られちゃった」
「ふン、下々とはやはり最後まで解り合えなかったようね。お姉様を捨てていくなんて、一体何を考えているのだか。いいもん、私が慰めてあげるんだから。お前のような奴はどこへなりともいってしまえばいい!」
 
やはり姉妹は似るのか、続いてラズレッタは手をルクラの頬へと伸ばし始めた。
 
「………………」
 
何をするのか想像がついたが、ルクラは逃げない。
そしてラズレッタの手は彼女の頬をしっかりと掴み――。
 
「いたたたたた!?」
「お姉様はもっと痛いんだから!」
 
確かにその通りだ、とルクラは思いつつ。
 
「……お姉様は、お顔にはお出しにならないけど……」
「……うん……」
「……ふン、まあ、いいわ。お姉様は私が慰めてやるんだから。もうドラ子になんて、渡さないんだからね!」
 
ラズレッタが皆まで言わなくともルクラにも判っていた。
だから自分は、寂しい思いをさせてごめんと、リズレッタに謝ったのだ。
だが、それは正しい道ではなかったらしい。
そうでなければ、この温泉には二人ではなく三人で訪れていたはずなのだから。
 
「何か……何か帰る前に、出来たらいいなぁ……」
 
何が間違っていたかわからない、だが、何かしてあげたい。
そんな思いから、ふと呟く。
 
「……私、お姉様にチョコ作ってあげようと思ってたんだけど。お前もなんか作ればいいんじゃないかしら。……ふン」
「チョコ……?」
「ああもう! ドラ子の頭にはカレンダーも無いのかしら!」
「……あ!?」
 
頭の中のカレンダーを眺めれば、数日後に控えたある特別な行事の存在を思い出す。
 
「……バレンタインデーでしたね、もうすぐ!?」
「きゃあ!? ちょ、ちょっといきなり! 下ろしなさい、このドラ子!」
 
居てもたってもいられずに、ラズレッタを抱きかかえたままルクラは立ち上がった。
ざばぁ、と大きな音が立つ。
足は既に出口へと向かっていた。
 
「うんうん! 作ります! 去年よりうーんと美味しいのを作ります!」
「勝手にすればいいわ。言っておくけど、私は食べてあげないからな!」
「そんなこといわずに! ラズレッタちゃんの分もちゃーんと、作りますよ! よーし、そうと決まれば! 早速準備しなきゃ! ね!」
「お、下ろせ! この私を気安く抱えるな! っていうか、ドラ子、前々から疑問だったんだけども。何でお姉様だけ呼び捨てで、私はちゃん付けなんだー……」
 
猪突猛進の勢いに攫われ、そんなラズレッタの声が温泉の中に虚しく響いた。

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 錬金術師は機械に夢中
 
 
【1】
ざく、ざく。
 
「さて少女よ」
 
ざく、ざく。
 
「答えを聞かせてもらおう」
 
ざく、ざく。
 
「野良仕事の最中なのは気にせず言うと良い」
「は、はぁ……」
 
宿“流れ星”の庭にある小さな畑を熱心に耕しながらラウルバーフは言った。
麦藁帽子と軍手と手拭いが実に良く似合っている。
お供のバルミアラは相変わらずすぐ傍で主人を見守る振りをしながら寝ているようだった。
予告通りあれから三日の時間が経過した今、彼と同行するかどうかの結論を、ルクラは出さなければならない。
しかし別に思いつめた様子もなく、ルクラは一度頷くと口を開いた。
 
「みんなと相談しましたけど……ラウルバーフさん。一緒に探索はオーケーだそうです。……勿論わたしも、賛成です」
「それは何よりだ。実に良い選択と云える」
 
ざく。
力強く鍬を振り下ろして、ラウルバーフは僅かに笑ったようだった。
 
【2】
「ありがとう、きっと作物もこれでよく育ちます」
「なに、先日の償いだ。礼など要らぬよ、ご婦人」
 
庭に用意されたテーブルに着き、出されたお茶と菓子を堪能しつつ、ラウルバーフは手拭いで自分の汗を拭う。
 
「さて、めでたく君と……君達か。同行する事になったわけだが……。何か聞いておきたいことはあるかね」
「うーん……それじゃあ、もうちょっとラウルバーフさんのこと、知っておきたいんですけれど」
「ふむ。私の事かね。……アルケミストだとは既に言ったから……ラブルスカ家にでもついて話そうか。素性も少しは知れるだろう」
「ラブルスカ……?」
「あぁ。ラブルスカ家は機帝国ではそれなりに名が知れている。資産家としてだ。私の妻が七代目の当主を務めている」
「……あれ? でもラウルバーフさんはゴトランドって名乗ってますよね?」
「うむ。ゴトランドは私の旧姓だし、本来なら結婚したときに私もラブルスカの姓に変わっていた筈なのだが……。何故かゴトランドの姓が良いと妻が我侭を言い出してな。数百年続いた『ラブルスカ』の名をあっさり捨てそうにまでなった」
「えぇぇ……」
「宥めるのに苦労した。それからまぁ色々と話し合って、ラブルスカの名はそのまま、ただし私たちはゴトランドの姓を名乗る、ということで一応の決着がついたのだよ。故に私もラブルスカとは名乗らず、ゴトランドのままを名乗っているわけだ。……考えても見たまえ、数百年という年月を積み重ねその地位を築き上げてきたラブルスカの名を捨て去っては、余り良い未来は見えんだろう? 『カネ』の世界では肩書きも少なからず必要であるし、時には重要な武器にもなるからな。……仕事上ではラブルスカであり、プライベートではゴトランドというなんとも奇妙な状態がこれで出来上がったわけだ。私が今此処でゴトランドと名乗っているのもそういう理由からだな」
「な、なんだか大変な事情なんですね……」
「いや、なに。慣れればなんということは無い。……うむ、これは美味い」
「それはよかった。遠慮せず食べてくださいね」
 
老婆の言葉にラウルバーフはもう一枚クッキーを口の中に放り込んで、その味を楽しんでいる。
紅茶でそれを胃の中へ流し込んだ時を見計らい、ルクラは二つ目の質問へと移った。
 
「えぇっと……アルケミスト、ってなんなんですか?」
「一括りに云うには少し難しいが……錬金術を行使する人間をそう呼ぶ。有名なものでは卑金属から貴金属を精錬するような行いか」
「……?」
「まぁ、そうだな。あの石ころを金に変える手段というだろうか」
「へぇ……」
「最も私はそういう行いとは無縁だがな。私が専門とするのは人工生命体だ」
「人工生命体?」
「たとえばあのバルミアラのようにな」
 
相変わらず黒い巨大鳥は寝ている。
 
「初めての成功例であり、私の最高傑作だ。……あの石ころを、バルミアラにした、といえば君にもわかりやすいかね」
「そんなこと、できるんですか?」
「石ころだけでは無理だが、さまざまな素材を使ってな。最も、私も確信の元成功させたわけではないから詳細は話せん。バルミアラは全くの偶然の産物のようなものだからだ。何故成功したのかを解き明かしたいものだが……」
「難しいんですか?」
「何せ私本人がまるで理解できていないのでな、バルミアラが生まれた過程を。同じ素材で同じことを何度やっても無駄だった。それに、今はもうその探求も止めている」
「それは、どうして?」
「いいかね。私のやったことは酷く歪んだ生命の誕生なのだよ。それを追求し、後世に残したとしても良い結果にはなるまい? いわば人間が立ち入れぬ領域に私は片足を突っ込んでいたのだ。その先に待ち構えているのは……」
 
確信に満ちた笑みを浮かべ、ラウルバーフは一旦言葉を切った。
 
「それに、娘が出来てからはなおさら探求することの恐ろしさも悟った。やはり命と言うのは定められた環境でのみ機能するのが一番なのだ。私のやっていたことは余りに強引過ぎる命の操作であった。……少々ややこしい話に逸れていたな。失礼。私の悪い癖だ」
「いえ、そんな……。えっと、なんとなくだけど、ラウルバーフさんのこと、よくわかった気がします。……でもラウルバーフさん?」
「ん?」
「探求をもう止めたんなら、素材探しは必要ないんじゃ……?」
「ふむ、いい質問だ。確かにもう、人工生命体の研究をしていないなら素材は要らん。だが……」
「?」
「別の研究に手を出したのだよ。確かこの中に……」
 
ごそごそとズボンのポケットを探り、ラウルバーフは何かをテーブルの上に置いた。
それは四角いブロックが重なって出来たような、やや不恰好な小さな人形に見える。
 
「さて」
 
頭の上の出っ張りを、ラウルバーフは軽く押す。
すると人形は勝手に動き出した。
 
「これは……?」
「機械だ。君も少しは知っているだろう?」
 
ジージーと音を立てつつ、しばらく動き回っていた人形だが、やがてぎこちなくだが手足を動かして踊りのようなものを始める。
 
「これはただの機械だが、ある人物と共同で、魔術と機械の融合というテーマに研究を進めていてな。此処にきたのはベースとなる機械の材料を見つけに来たというわけだ。ただの金属では魔術の力を存分に生かせないらしいから、それに代わる丈夫な素材や……まぁ色々だな。最も私には魔術分野となるとまるでわからんから、毎回適当に見繕っては帰るのだが」
「へぇー……」
「そこで話を元に戻すが君達と同行し素材探し、というわけだ。一人で探すよりは効率が良い。何せ此処に来るまでに日数を掛けすぎた。遅れた分を取り戻さなければいかん」
「うん……よくわかりました。出来る限り協力します!」
「ありがたい申し出だ。暫くの間だが、よろしくお願いしよう」
「はいっ! よろしくお願いします、ラウルバーフさん!」
 
大きな褐色の、ごつごつとした手に、小さな白い手が固い握手を結んだ。

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